第31話 水龍
「左方向、八時の方角です!」
レーダー担当の
舵を切った直後なのでこれ以上は避けられないか? あとは左側面に張った魔導防壁の防御力を頼るしかなかった。
「ヤバイ! みんな衝撃に備えて」
慌てた
「舞彩、ごめん。防御管制を借りる」
「はい?」
指揮統制権限で無理矢理防御管制をこちらの制御下におき、後方へと魔導防壁を集中させた。
タイミングよく船尾部分が水龍の頭に当たり、動きが急に鈍くなる。
「あ」
「あっ」
今度は船首に魔導防壁の集中させると、
「
「わかった!」
ガゴーン! と、重い硬い物同士が当たるような音が響き、船体にもかなり振動が来た。とはいえ、椅子から振り落とされるほどでもない。
この艦橋内は慣性制御が効いているらしい。多少の揺れは相殺してくれるようだ。だが、ある程度以上の衝撃が加わればそれは伝わってくる。
「あのヘビみたいなの動かなくなったね。死んだのかな?」
「
「生命反応はまだあります。おそらく気絶しているのではないかと」
「すぐにこの海域を離脱しよう。もしかしたら、ナワバリに入ってきたのをただ攻撃しただけかもしれん」
「うん。すぐに艦を動かすね」
「あの……ご主人さま。先ほどは申し訳ありませんでした」
舞彩が立ち上がると頭を下げるようにこちらに謝罪してくる。これは、さっきの魔導防壁の設定ミスの件か。
「あ、あれは舞彩姉が悪いんじゃないよ。あたしが不注意に回頭したから」
「そんな神妙な顔をしなくていいよ舞彩。それから
「はい、精進いたします」
そう言ってさらに舞彩は深々と頭を下げる。
俺としてはそんなに気にしてないんだけどな。
「あ、ハルナオさま。あの水龍なんですが」
「ん? なんかわかったか」
「この世界の生物ではないようですね。
「魔法生物ということは、やはりあの△印に関係しているのか」
「そう見た方がいいですね。この世界の異物である魔法のペンと、この戦艦を含む兵装の数々は魔物を生成してしまうのではないかと」
「うーん」と俺は考え込む。だとしたら、下手に残りの魔法ペンや兵装と思われる宝を探さない方がいいのだろうか?
「いや、この戦艦は封印を解く前にゴブリンが発生していた。それにこれから向かう△印のある島だってゴブリンがすでにいる」
俺たちがアイテムを探さなくても、世界中でもう、超文明の負の遺産の封印が解け始めているのかもしれない。
「そういえば封印が解かれた後、この戦艦からは魔物が発生する気配もないですし、魔法のペンも同様です」
舞彩が冷静にそう述べる。俺と見解は一致していた。
「じゃあ、世界各地に眠る兵装の封印を解いたり、ペンを探すのも問題ないんだね?」
と
「むしろ魔物の発生を防げるのだから、この世界にとっても悪い事ではないはずだ。英雄になる気はないけどさ、旅のついでにアイテムを回収するのもいいだろう?」
「急がなくてよろしいのですか?」
舞彩がそう問いかけてくる。
「そんな急いで探し回る必要もない。しばらくはこの戦艦で世界を気ままに旅するのも悪くはないんじゃないか?」
「メルは賛成です」
「あたしも賛成」
「わたくしはご主人さまのお考えに従いますわ」
これで意見の統一もできた。楽しい旅になればいいな……そんな風に思っていたのが三時間前の話だ。
**
「
「了解です」
「
「うん、わかった」
「舞彩は俺と一緒に△印のある島に上陸。内火艇より一回り小さい高速水上艇で行くぞ。偽装はできないけど、どうせ島にいるのは小鬼だしな」
「お供します」
俺は皆にそう指示を出すと、後部格納庫へと向かう。
実は△印のある島に到着する寸前にレーダーが水龍らしき生物を再び捉えたのだ。このままお宝を諦めるのも癪なので、なんとかそれを手に入れる方法をひねり出す。それがこの作戦だ。
戦艦は、いざというときは動いて俺たちを援護してもらう。
「舞彩、行くぞ」
高速艇で島へと向かう。島にはゴブリンが大量にいるらしいが、なんとかなるだろう。今回は魔物の殲滅が目的ではないのだから。
高速艇の操舵は俺が行った。これはいわゆるモーターボートに近い。屋根もないし、人員も四人くらいまでしか乗れない仕様だ。
内火艇のように大きな荷物や大人数を運べないが、その分速度は出る。
で、動力となるのは充電池のようだ。普段は戦艦に接続して充電を行い、発進すれば七十二時間は動き続けることができるらしい。内火艇も同じ充電池だ。
まあ、充電池というのは俺の仮説で、実際は電力ではなく魔力が詰まっている可能性も高い。
速度は最高速で百八ノット。時速二百キロメートルは出るので戦艦より圧倒的に速い。
舞彩と相談して作戦を練る。といってもそれほど難しい手段はとらない。上陸と同時に舞彩の魔法でゴーレムを召喚してもらうだけだ。
「ご主人さま、右手に入り江が見えます。あそこに着けましょう」
舞彩の手には島を拡大した地図がある。俺たちが戦艦を見つけた島のように、ここの島も世界地図とは別の拡大地図があった。
俺たちは入り江に船をつけると二体のゴーレムにそれぞれ乗り込み、△印のある場所を目指す。
地図によれば、この島は最初の島よりも二回り以上も小さかった。そして、△印があるのは、中心部の丘の上にある大きな木がある場所だ。
洞窟だったら面倒だと思ったが、これは難なく手に入れられそうだな。そんな事を思っていると、ゴブリンの群れが俺たちに向かって石を投げたり棍棒を持って攻撃を仕掛けてくる。
それをゴーレムの手足で振り払いながら進んでいき、攻撃を逃れたゴブリンたちを、予め描いておいた武器で屠る。
マシンガンは小型で扱い易いIMIのUZI。ガンマニアの知人に見せたら、これまたツッコミが入りそうな形状だが、そこまで詳細に覚えていられるかっての。多少はアレンジさせてもらうしかない。
もちろん、現物見せてくれれば、細かく模写できる自信はあるけどさ。
あとはグレネードランチャーも実体化している。H&KのHK69だ。おもちゃっぽい形状が印象に残っていたのでわりとすんなりと描けた。
その二つの武器で小鬼たちを蹴散らす。リロードいらずのチート武器、しかも反動なし。これこそ、俺TUEEEだな。まあ、小鬼相手ってのが、空しくもあるけど。
「うりゃうりゃ!!」
FPSタイプのゾンビゲームの初期ステージを思い出させるようなイージーさ。水龍に比べれば全然楽勝なわけである。。
「ご主人さま、丘が見えてきました」
「わかった。打ち合わせ通り俺がここでゴブリン達を食い止めるからお宝を見つけてくれ」
「お任せ下さい」
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