第29話 愛があれば
「ハルナオさまひどいです。せっかくメルの溢れんばかりの愛を抑えに抑えて、その愛をエレガントに表現したのに」
可愛い顔が総崩れだ。いつもの頬を膨らませた不満げな顔へと変容する。
「いや、言葉が直接すぎるだろ。その時点でダメだって」
「じゃあ、せめて膝の上で抱っこしてください。べ、別にエッチしてくれなんて言ってないんだからね」
「おまえ、ツンデレキャラじゃないだろうが」
「てへっ」
そうかわいく誤魔化した笑いをしながら、俺の膝の上に乗ってくる
しかしまあ、愛瑠は小さい。背負って島を歩いた時のことを思い出したが、あの時はまだ背中だったのでそれほど意識はしなかった。
だが、いざ膝の上に乗られると、かなりヤバイ感じがしてくる。なんといっても、見た目が中学生だからなこいつは。
これで手を出したら、もろロリコンである。まあ、
「ハルナオさま、何を考えていらっしゃるのですか?」
「おまえのことだよ」
「きゃはっ、メル、そんなにハルナオさまに愛されていたんですね」
「違うわ! 魔力を注入する為とはいえ、おまえに手を出したら背徳感が半端ねえなって」
「大丈夫ですよ。メルの見た目は中学生かもしれませんが、年齢でしたらまだ一歳にもなりません」
それってさらにヤバイじゃないか。
「俺はロリコンを通り越してペドフィリアかよ! 人の道を外れすぎだろ!!」
ツッコミのキレが鋭くなりすぎる。洒落じゃ済まなくなるぞ。
「まあまあ、愛があれば」
「そういう問題じゃないって!!」
「ハルナオさま、落ち着いて下さい。これは絵です」
「おまえ、そのギャグは自虐すぎるぞ」
たしかに俺が描いた絵ってのは事実なんだけどさ……。
「けど、ハルナオさまはメルを理想の女性として描いてくれたんですよね?」
「理想の女性というか、女の子のかわいらしさを追求したって言った方がいいのかな。俺の好みではあるけど、俺が付き合いたいって思う女の子とはまた違うんだよ」
俺のその言葉に愛瑠は上を向いてこちらを見上げ、ニヤリと笑う。白檀の香りがむせ返るように匂ってくる。
「メル知ってますよ。ハルナオさまが、自分の描いた絵をおかずにしていたこと」
「……!!」
思わず咳き込んでしまう。白檀の香りにむせただけではなく、恥ずかしい過去を掘り返されたことで返答に詰まってしまったからだ。
「それでもメルはハルナオさまを嫌いになりませんよ。思春期の男の子ならよくあることじゃないですか」
「ああ、そうだな。黒歴史でもあるよ。けど、今はしてないぞ」
他人の絵で抜くことはあっても、自分の絵を穢すようなことはしない。過去の事は若気の至りだ。
愛瑠は「うんしょ」とかわいいかけ声をかけながら、膝の上で回転して俺と対面して抱きつく。
「してもいいんですよ」
と愛瑠が抱きついている背中にギュッと力を入れる。
こいつのこのノーテンキな言動は、
愛瑠はいつでも自分の感情に素直なんだ。
とはいえ、こいつが恋愛対象になるかは別問題。
だからといって恋愛対象じゃないと突っぱねて、魔力を注入しないとこいつは消えてしまう。
俺は猫の頭を撫でるように愛瑠の頭にぽんと手を載せる。
「いひひ……ハルナオさまの手、気持ちいいです」
俺の首あたりに頬をすりすりとすり寄せてくる。こいつ本当にペットっぽいな。
「おまえが実体化して、まだ四日目なんだよな」
とはいえ、舞彩とは二日目、恵留とは四日目で魔力注入をしている。
「じゃあ、そろそろいいんじゃないですか? メルのことは一通りおわかりになりましたでしょ? メルはこんな性格ですが、姉さまたちに負けないほど、ハルナオさまを好いています」
迷いのない真っ直ぐな瞳。そこには嘘も誤魔化しもない。
こいつが俺の事が好きな理由は、簡潔に分かりやすく説明してくれたはず。ならば、それに俺がどう答えるかだな。
「俺はおまえには消えて欲しくない」
「わーい、ありがとうございます」
またもや愛瑠が俺の身体をぎゅっと抱き締める。
「けどなぁ、おまえの姿を中学生くらいに設定したのは失敗したよ」
「なんでですかぁ?」
「俺の女性不信が始まったのが中学くらいだしな。よくおまえみたいなクラスメイトに陰口を言われてた」
「それはわかりますけど……けど、メルはメルですよ。ハルナオさまのクラスメイトと一緒にしないでください」
俺はたぶん、メルとの関係を保留にする理由を探しているだけだ。俺の女性不信は、使い魔たちに関しては払拭されているはずなのに。
「ただなぁ……」
「ロリコンのことでしたら大丈夫ですよ。そうですね、あのペンが作られたのは今から三百年以上前の話です」
「なぜそれを知っている?」
「知っているというか、この戦艦自体がそれくらい前に封印されたってことがわかっただけですよ。正確な魔法のペンが作られた年代はわかりません」
「ああ、なるほどそういうことか」
「だからですね。メルの本当の年齢は三百歳以上ということになります」
「三百歳以上?」
「はい。ですから、メルは見た目はロリでもロリババアなのですよ。もう少し突っ込んで言えば、合法ロリですか?」
思わず吹いて笑ってしまう。こいつの発言のぶっ飛び方はブレないな。
「なるほど、エロいことしてもなんの問題もないということか」
「まあ、でも、背徳感とか持ってくれた方が盛り上がりそうですけどね」
エロい経験なんか無いくせに、よくそんなシチュエーションを想像できるなぁと、思ったが、これは俺の知識を共有したせいか。
十代の頃は少しネジが緩んでたからな、背徳感とか、ちょっとイケないシチュエーションに興奮してたっけ。
悩んでたのがバカらしくなる。
俺はこの子が大切だってことには変わりは無い。消えて欲しくない。恋とか愛とか難しいことを考える必要はないんだ。
「愛瑠、約束するよ。俺はおまえの側にいる。だから、おまえも俺の側にずっといてくれ」
その言葉に愛瑠は嬉しそうに「はい!」と返事をすると、「誓いのキスです」と俺の唇に吸い付いてきた。
とてもキスと呼べるような官能的なものでもなく、単純にじゃれついてきた犬がペロペロと顔を舐めているような感覚。
それでも俺は愛瑠を愛しいと思うことができた。
「おまえ、エロいこと言ったり誘ってきたりするのに、いざ本番となるとエロさがまるでないな」
「しかたないじゃないですか……経験ないんですから」
愛瑠は赤くなって目を逸らす。
まあ、そりゃそうだよな。だからこそ、俺も欲情しきれないってのもあるのかな。
「ハルナオさま。お願いがあります」
「ん? なんだ?」
「今夜メルの部屋に来て下さい。そして……その……教えて下さい」
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