第28話 あざといな
「船の速度はどれくらい出るんだ?」
「現状では二十三ノットくらいですかね」
時速で言うと四十二キロくらいか。敵が駆逐艦クラスだと余裕で追いつかれるな。
「ということは、ペンは七本集まれば五十ノット超えもあるわけか?」
「そういうことですね」
「ハルナオ。進路はどうするの?」
「まずは助けた女の子たちを島に帰さないとな」
「方角は西の方ね。愛瑠、位置はわかってるの?」
恵留が振り返って愛瑠の方を向く。
「待って恵留姉さま。今、周囲の島を探査中。人少ないんで、大変なんだよぉ」
「愛瑠、機関管制はわたくしが引き受けるわ、こちらに回して」
艦の情報をリンクした
「ありがとうございます。舞彩姉さま」
そんな彼女たちのやりとりを聞きながら、モニターに映し出される情報を俺自身の頭の中で整理していく。
五十キロ圏内には陸地はない。あの島は絶海の孤島だったのか。地図でもなければたどり着けない場所ってのも納得がいく。
「そういや島の位置ってのはおまえの魔法で探査しているのか? それともこの艦の能力なのか?」
「それはですね。メルの
俺のふとした疑問にも愛瑠はニコニコと答える。よほど、この艦の操作が楽しいのだろう。闇属性を持つ彼女は、情報こそが最大のご馳走なのであった。
右にあるモニターは艦全体の図が映しだされていて、各部署の情報を表示しているのか。これで艦内の様子や被害箇所を知ることができる。適切なダメージコントロールを指示してやるのも俺の仕事だな。
そして左のモニターが各席の状況表示モニターか。オーバーワークになってたら、俺の方から切り替えてやることもできるのか。
ここの席はその気になれば一人で戦艦を動かせると言っていたっけ。
「そういや、マニュアルみたいなのあるんだよな? どこで見られるんだ?」
愛瑠にそう聞こうとして、彼女は島の探知で忙しいことを思い出し、右斜め後ろに座る舞彩に視線を移した。
「ご主人さま。左のモニターの右上の【?】マークを押して下さい。たぶん、それで頭の中に情報が流れてきます」
スマホみたいなタッチパネル式なのか。よし右上だな……これか。
「さんきゅ、舞彩」
と言って右手の人差し指をそのマークに触れた瞬間に、濃縮したような情報が脳を駆け巡る。
一瞬で視界がホワイトアウトし、脳内に水が注がれるようにドクドクと知識が満たされていく。
「なるほど。こりゃ、超文明と言われてもおかしくはないわな」
魔法と科学の融合。いや、この魔法でさえ、本当に御伽噺に出てくるような魔法なのかも怪しい。
十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない、と某SF作家が言ってたっけ。
兵装がないので攻撃力は未知数だ。なので、防御力はどんなものなのかとスペックを見てみる。
耐久力は魔力防壁と呼ばれるバリヤなしでも、十分な頑丈さをもっていた。この世界の軽巡クラスの艦が持つ砲弾くらいなら余裕で跳ね返すスペックのようだ。
さすがに戦艦クラス相手だと、バリヤを張らなきゃ持たないらしいが、単艦で艦隊戦に挑むほど無茶しなきゃいいだけである。
さらに艦内にある内火艇なんかの操作方法も理解出来た。この戦艦で直接島や大陸に接岸するわけにはいかないから、こいつで陸と行き来をすることになるだろう。
「あとは、この引き出しの……」
そう独り言を呟きながら、コンソールの前面に付いた取っ手を手前に引く。
すると、そこには艦の全体図が書かれた浅い引き出しのようなものが現れる。その表面にはカードホルダのような突起があった。
ヘルプで得た知識では、各兵装は、カード型となってどこかに封印されているようだ。この中のカードホルダにそれぞれ装着すると、封印が解けて兵装が現れるという仕組みらしい。
現在はカードが全くない状態である。コレクター癖はないが、カードを全てコンプリートしてみたくもなるな。まあ、主砲が一つあるだけでも無双できそうだけど。
さて、俺らの手元には宝の地図がある。
取りたててやることもないし、ペンの回収と平行して兵装も回収しにいくか。宝探しみたいでワクワクしてきたな。
とはいえ、この戦艦。なぜ兵装が取り除かれていたのだろうか?
「ハルナオさま。島の位置がわかりました。女の子たちの証言とも一致しています。たぶん、このレギナ島というところが彼女たちの故郷だと思いますよ」
サブモニターに愛瑠から送られてきた地図が表示される。
「その島までどれくらいだ?」
「今の速度ですと……五時間くらいで着きますね。恵留姉さまにも今座標を送りました」
「うん、了解」
恵留はそう返事をして舵を切る。
「恵留。島の手前十キロくらいのところに停泊できるか?」
俺はそう指示を出した。
「うん、できるけど。どうして?」
「さすがに、この戦艦で島に行くわけにはいかないだろ。大騒ぎになるに決まっている。それに、あそこは龍譲帝国の植民地らしいからな。姿をさらして敵対するわけにもいかない」
「そうだね。了解」
それから、しばらくしてレギナ島の近くまで到着する。
「舞彩、恵留。内火艇で女の子たちを島まで送ってくれないか」
俺は彼女たちのそう指示をする。助けた女の子たちとはそれほど交流もなかったし、情も移っていないから別れもさして寂しくもない。
どこかの女ったらしの主人公なら、自らのハーレムに招き入れるのだろうが、今の俺には現実の女の子など興味がないのだ!
「わかりました。では、無事に帰してきますね」
「うん、行ってくる」
「あ、そうだ。できればいいんだけど、食糧の補給とかできたらお願いしたい」
「うん、わかってるよハルナオ。おいしい肉があったらわけてもらってくる」
そう答えた恵留の背中を見送っていると、愛瑠がこんなことを聞いてくる。
「そういえば、あの内火艇には偽装機能がついているのはご存じでしょうか?」
「ああ、そういえばそんな事がヘルプに書かれていたな。現地の漁船に偽装できるってことだよな」
「ええ、幻惑魔法みたいなものですけど」
「便利だよな。この戦艦には使えないのか?」
「さすがにこの船は大きすぎますよ。偽装するといってもタンカーくらいでしょうね。それもこの時代では、どこの船籍に偽装したところで、攻撃の対象になりますからね¥」
そういえば戦時中だったな。通商破壊で攻撃を受けやすくなって「偽装の意味ねえじゃん」って頭抱えそうだわ。
「まあ、それはともかく艦載艇は便利だよな」
「たぶん、これからも使用頻度は高まるでしょう。例の地図の印は、大陸の内陸部にもあるようですし、上陸するのに格納庫の小型船は必要不可欠ですね」
というわけで、舞彩と恵留の帰りをゆっくりと待つ。
助けた女の子たちに関しては、完全に舞彩に任せきりだった。俺が女の子を苦手というのもある。舞彩たちならまだしも、リアルな女性にはまだ抵抗があるからな。
「ハルナオさま」
「ん? なんだ愛瑠?」
愛瑠が席を離れてこちらに歩いてくる。
「舞彩姉さまたちが戻ってくるまで時間があります」
「ん?」
彼女はスカートの裾を両手で広げ、左足を斜め後ろの内側に引き、右足の膝を軽く曲げ、背筋を伸ばしたままかわいく挨拶をする。
「なにとぞご寵愛を」
「あざといな、おまえ」
思わず本音がこぼれる。
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