第26話 幕間 ~ ユーフォリアの煩慮

 それは冴木春直がこの世界に転移する一万年以上前の出来事だ。


 ここは、とある国のとある神殿。


「ユーフォリアさま。シズル様の結界が停止しました」


 ユーフォリアと呼ばれる真っ白な司祭服を着た少女の元に、十代後半くらいの女官が駆け寄ってくる。


「何が起きているの?」

「わかりません。ただ、少し前に外界からの干渉がありました。時空の歪みが広がっております」

「外部干渉? 原因は?」

「西の海岸に巨大な戦艦が現れました。あれは、我々の世界のものではありません」


 ユーフォリアはしばし瞳を閉じると、女官に向き直りこう告げる。


「わたくしが出向きましょう。その者たちの目的を確かめねばなりません」

「危険です。特別調査部隊の編制を」


 女官が憂虞したように、彼女に進言する。


「いえ、わたくしが直接出向くべきです。それがこの世界を司るものの努めでしょう。宝具をここへ」


 ユーフォリアはそう指示をすると、別の女官が黒光りの大剣を両手に抱えてこちらに走ってくる。


「ユーフォリア様、宝具をお持ちしました」

「ありがとう。ニネア」


 彼女はそう微笑みながら礼を言うと、その剣に触れ何か呪文のような言葉を呟く。すると、剣は形を歪ませ人間の形となる。


 その姿は、エメラルドグリーンに輝く髪に金色の瞳を持つ二十代くらいの女性。名をビイタスと言う。


 見惚れるような美しさと冷たさを持った容姿は人間離れしているように思えるが、実際に彼女は人間ではない。


 この世界のことわりを管理するシステムの一部。といっても、この世界はヴァーチャルではない。


 この世界、いやこの宇宙そのものが人工的に作られたものであり、過去には実験的な行為が行われていたこともある。


 いわゆるフェッセンデンの宇宙に近いものであった。現在は管理者たちから次元空間ごと切り離され干渉を受けることもなくなったが、他者によって創造された人工物であることには変わりはない。


 そして、もともとビイタスはその世界のシステムの一部であった。


「マスター。この姿でお会いするのはお久しぶりですね」


 ユーフォリアに跪き、忠誠の態度を表す女性。


「緊急事態です。ビイタスも把握していますよね」

「はい。修復できない時空の歪みを検出しております。次元間移動ができる船とは、我々の理解力を超える技術ですね」

「人工宇宙を創り出した管理者たちの頭脳をも超えるのですか?」

「はい。ただ、ざっとスキャンした限り、船体はそれほど強度もなく我らの魔導部隊でも撃退できるでしょう。ただ……」


 ほぼ機械と同様の頭脳を持つビイタスがめずらしく言い渋る。


「ただ?」

「その船の動力を利用した砲撃システムは、惑星一つ消せるレベルです」

「うふふ。その船は宇宙戦艦か何かなのかしらね?」


 ユーフォリアは苦笑いを浮かべた。

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