第21話 埋葬
「ハルナオさま! 大変です」
翌朝、俺は
「ん? どうしたんだ?」
「
「小鬼? まだ生き残りがいたのか?」
「違います。来て下さい。今、
愛瑠に手を引っ張られるように、俺は中央ホールへと連れて行かれる。
そこには舞彩が召喚したであろうゴーレムが一体、右の入り口を塞ぐようにしているが、すき間から小鬼が溢れるように出てきて、それを恵留が魔法と格闘で倒している。
床には数十体の小鬼の死体が散らばっていた。
舞彩は入り口を塞ごうと魔法で土壁を再構築しているのだが、相手にも魔法の使える小鬼がいるらしく、ことごとく破壊されていた。なるほど、それでゴーレムで牽制しているのか。
「そういえば助けた女の子たちは?」
俺がそう聞くと舞彩が答える。
「外に、とりあえず逃げてもらっています」
「海賊たちの檻は?」
「あの右側の通路の途中の部屋に置いてあったので……恵留からの報告では、おそらくは小鬼に全員なぶり殺されたと」
ずいぶん悲惨な殺され方だな。もう少し情報を引き出したかったが仕方がないか。
「わかった。じゃあ、舞彩、次の土壁を再構成したら、城の外に撤退だ。恵留、聞こえたか?」
「わかった!」
俺たちはタイミングを計り、外に出る。そして舞彩に命じた。
「城の構成物をすべて分解しろ。小鬼たちを生き埋めにするんだ」
「わかりました」
舞彩が呪文を唱える。と、城は崩れて土砂の山がそこに出来た。小鬼たちはすべてこの中で生き埋めになっているはずだ。
「なんで小鬼たちが出現したんだ? けっこう数がいたようだけど、生き残りじゃないのか?」
「ご主人さま。小鬼たちは修復途中の右の通路から沸くように出てきました。もともとこの城の中にいたか、もしくは……」
「本当に湧き出たか」
「ええ、小鬼は魔法生物です。何者かに作り出されたか、強い魔力からあふれ出た可能性も高いかと」
「そういや人間の強い悪意に反応するって説もあったっけ……」
俺は御伽噺の一つを思い出す。
「ハルナオさまぁ、もしかして原因は海賊たちですかね?」
悪意の反応となると、あいつらがトリガーとなったってのはあり得る。が、今となっては確証もない。
「まあ、一説だけどな。だとしても、近くに強い魔力がないとこいつらは湧き出ないだろう」
「ハルナオ! もしかしてあの△印が原因じゃない?」
恵留にそう言われて思い出す。そういえば、この城には魔法のペンとはまた違ったお宝があったんだったな。それが強い魔力を帯びていたってことか?
だからといって、城を再構成して修復したらあの小鬼がまた湧き出てくる可能性がある。
「愛瑠、小鬼を探知できるか? 数と生死の情報をくれ」
「わかりました」と愛瑠は呪文を唱え、数十秒後に「数は百二十三匹、すべて窒息死しています。増える気配はありませんね」
「じゃあ、みんなで△印がなんなのか探そうよ!」
恵留がそう提案するが、俺はあることを思い出して△印の探索は後回しにする。
「まあ、待て」
「どうしたんですか? ご主人さま」
「謁見の間に二体のミイラがあっただろ? あれを掘り出してくれないか? 城主だろうから放置していたが、本来は土に還してやるべきだ」
魔法のペンを作ったと思われる魔導師と、その最愛の使い魔。
あの人たちに安らかな眠りを与えてあげよう。俺らが来てから、ちょっとばかり騒がしすぎたからな。
「墓を作られるのですね。わかりました。ご主人さま」
舞彩が魔法で再構築と分解を器用に使い分けながら、謁見の間まで土砂を退けていく。途中、小鬼が出てきたが完全に死んでいたので問題はなかった。
城がこんな状態なので、助けた女の子たちにはこの場所から退避してもらう。この後は△印の探索を始めるし、何が出てくるかわからないので危険だからだ。
いちおう恵留に護衛させて入り江の駆逐艦まで連れて行ってもらった。
俺らは俺らで、舞彩のゴーレムを使って、二体のミイラを外へと運ぶ。そして岬を望める場所に埋葬した。前にゴブリンを落とした溝より内陸よりの場所だ。
手を合わせて祈る。どうか安らかにお眠りください。そして、魔法のペンは全部揃えます、そんな風に誓った。
「さて、今日のメインイベントだ」
俺は気合いを入れる。といっても、舞彩たちに指示するだけなんだけどね。
「どうぞご指示を」
舞彩は俺の前に跪くように腰を落とす。長女というのもあるのだろうか、俺への忠誠を目に見える形で示すのが彼女のスタイルのようだ。
「ハルナオさまぁ、何が見つかるんですかね? メル、なんだかワクワクします」
と舞彩とは正反対の愛瑠であった。というか、姪っ子が遊びに来た感じじゃねーか。
「ハルナオ。どっから探す?」
恵留がフランクに話しかけてくる。とはいえ、実体化した当初はこの女子高生っぽい口調が苦手だったんだよなぁ。
「小鬼は死んでるし、城を再構成――」
なにやら地響きのようなものが聞こえてくる。それは岬の方からだった。
「なんなの?」
愛瑠が好奇心につられて、岬への道を進もうとしたところで恵留がそれを止める。
「危ない愛瑠」
轟音と共に岬が崩れていく。それはこちらへ通じる道もだ。俺たちは安全な場所まで後退するとそれを呆然としながら見守った。
「わたくしたちの場所が……」
舞彩は唖然としてショックを受けていた。それは当然のことだろう。
彼女は最初に俺が実体化したし、初日からちょくちょく城を修復してもらっていた。それだけに愛着が大きかったのかもしれない。
「原因は俺かな。城の構成物の分解を指示したから、地盤にも影響が出たのかもしれない」
「いえ、ご主人さまのせいではありません。わたくしがもう少しうまく魔法が使えれば……」
舞彩が困惑した顔で俺を見上げた。普段は落ち着いているだけに、あまり見せない表情である。
「ねぇ、ハルナオ。あれ、なんか変じゃない?」
恵留が岬を指差し不思議そうな顔をした。
岬は地盤から崩れて海にボトボトと土砂が落ちていくが、途中からなんだか黒光りするものが見えてくる。
あれは鋼鉄? あの岬は人工物なのか?
「愛瑠、あの物体の解析を」
「わっかりました。おまかせください!」
元気に返事をすると、愛瑠はいつものフレンドリーな魔法を唱える。
「親愛なる闇の精霊ちゃん。あの物体を調べてちょ」
その間にも岬があった場所は崩れ落ち、黒光りする人工物の面積が広がっていく。そして、盛り上がった丘と思えた部分から城が出てくる。いや、城ではなかった。
鋼鉄でできた塔……ではない。あれに似た物をつい最近見たな。もっと小型だったけど。
「ねぇ、ハルナオ。あれって艦橋?」
恵留がそう問いかけてくる。地中から出てきたのは鋼鉄らしきもので出来た建造物……いや、かなりの高さがある艦橋だ。十階建てのマンションくらいはあるだろうか。
「ああ、そうだな。ただ、入り江の駆逐艦の艦橋よりデカいな」
土砂はほとんどなくなり、人工物の全容が明らかになる。それは巨大な船だった。
形としては戦艦クラスの船だろう。だが、違和感がある。
「ハルナオさまぁ。解析できましたよ。あれは全長三百三十三メートルの巨大戦艦ですね」
おせーよ! まあ、いいか。
見たところ砲塔はないようだが、収納式なのか、それともミサイル艦なのか?
「で、兵装は?」
「ありません」
「は? 戦艦って言ったじゃん」
「兵装は取り外されてますね。あと、あの駆逐艦と比較したんですけど、作られた技術力が違います」
「どういうことだ?」
「駆逐艦は科学的に作られたもの。ハルナオさまの世界の技術に近いですね。二十世紀初頭くらいの。けど、あの戦艦は魔法の力が応用されています。つまり、この世界のものではない可能性が高いですね」
兵装の取り除かれた戦艦。しかも魔法の力が使われているだと?
そのシルエットから窺えるのは、俺が見たことのない戦艦だった。そりゃそうだ、魔法を持った文明が作ったものなのだから。
巨大戦艦ということで旧日本海軍の造った戦艦大和を思い出すが、あのような美しさの残る複雑なシルエットではない。
わりとシンプルな船形であり、どちらかというと宇宙戦艦の方に近いシルエットであった。
まさかとは思うがアレがお宝なんじゃね?
「もしかしてあれが△印の宝なんじゃない?」
恵留が俺と同じ考えに至る。
地図に書かれていたお宝は、超技術で作られた巨大戦艦だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます