第16話 おまえの魔法は強力だから、まだ封印な
俺たちが急いで城に戻ると、
まあ、大した荷物は置いてないのが救いだが、あのミイラたちがバラバラにされているかもしれないと思うと、なんだか悲しい気持ちになる。
「ご主人様! 海賊です」
舞彩がこちらを見つけると駆け寄ってくる。城以外のどこかに隠れていたのだろう。
「何があった? というか、海賊って?」
森の中から海の方を見る。何か船のようなものが、城に向かって砲撃をしているようだ。よく見えないな。
と思っていたら舞彩が望遠鏡を差し出す。
「ありがと」
礼を言って受け取ると遠くの船をそれで見る。海賊船というから、十七世紀くらいの帆船を想像していた。
小鬼がいるくらいだからファンタジー世界だし、人間がいるとしたら、それくらいの文明だろうと俺は思い込んでいたのだ。
ところが城を砲撃してきてるのは鋼の船だ。それも一九四〇年代に活躍したような駆逐艦だった。そりゃ、煉瓦造りの城も簡単に崩れるよな。
「軍艦旗がないな。まあ、この世界のルールが俺の元いた世界と同じとは限らないから、なんともいえんが」
「あの船、今、メルの立ってる場所から二キロ以内だよね?」
「ああ、そうだな。そうか、探知……いや、解析魔法か」
「うん、ちょっと待ってて」
愛瑠が例の呪文を唱える。少し時間がかかるので、その間に舞彩に事情を聞くことにした。
「なんであの船は、いきなり砲撃してきたんだ?」
「えっとですね。修復に足りない木材をゴーレムを使って集めて運んでいたんです。その時にちょうど船が通りかかって……わたくしたちを見て、なんだか怖い物を見たように急に攻撃してきたんですよ」
「あー……なるほどねぇ」
ゴーレムは見慣れない人にしたら、ただの化け物だもんな。
それにしても、まだ撃ってきてる。こっちが攻撃してないのに何を恐れているんだ? 怖いならこの島に近づかなきゃいいのに。
「ハルナオさま。解析が終了しました。あの船は全長百十八メートル。最大速力は三十八ノット。五十口径の十二.七センチ連装砲を三基六門、十三ミリ単装機銃が二挺、六十一センチ三連装魚雷発射管を三基装備した駆逐艦クラスの軍艦かと」
俺の嫁……じゃなくて、それって、もろ吹雪型の駆逐艦じゃねえか。吹雪は好きな艦だけにスペックはそらで言えるからな。いや、でも……まさか?
一つの可能性が頭の中に浮かぶが、魔法と魔物という要素がそれを否定する。つまり異世界転移ではなく、タイムスリップなのだということをだ。
「乗務員は?」
「えっと、あれ? 艦橋に五人、砲室内部に一人ずつ、機関室に二人」
あれが正規の駆逐艦なら二百名以上乗っているはずなのだが……。
「少なくないか?」
いや、ここは魔法がある世界だし、その人数で運用できるのか?
「それ以外は確認できません……いえ、前方の甲板下区画に五名ほどの女性が捕らえられています」
「なるほど、舞彩の海賊だと言ったのは間違いでもなさそうだな。もしかして、この城の物資でも狙ってるのか?」
海賊もしくは、軍の脱走兵の可能性も高い。
「襲っても何もないのにね」
「海賊なら返り討ちにしてやっても構いませんよね? ハルナオさま」
愛瑠が舌舐めずりをして、そんなことを言う。
「お、おまえの魔法は強力そうだから、まだ封印な。もうちょっと安全なところで実験してからにしよう」
ここでマイクロブラックホールを使わせるわけにはいかない。まあ、本当にとんでもない威力なのかどうかもわからないけど。
「えー、どれだけ威力があるか見たかったんですけどぉ」
愛瑠は不満げだ。某ラノベの爆裂娘みたいに大魔法をぶっ放すのが癖になったら面倒なんだぞ。
俺は彼女を無視して、舞彩と恵留に指示を出す。
「舞彩。それから恵留、おまえたちにあいつらの相手を頼めるか?」
「はい、ご指示とあらば殲滅いたします」
「余裕だよ。あたしたちの居場所をボロボロにした報いは受けさせるんだから!」
二人ともやる気満々のようだ。
「ある程度攻撃してきたら多分上陸してくると思う。そしたら攻勢のチャンスだ」
「了解しました」
「うん、わかった」
俺は愛瑠にあの駆逐艦が接岸しやすい場所を割り出させる。これも彼女の
「はい、わかりました。ハルナオさま。少々お待ち下さいね」
その間、俺はもう一度船を観察する。なるほど、形は吹雪型の駆逐艦にそっくりだ。
もともと艦船に詳しいわけではなかったが、とあるゲームの影響で艦船を描く機会が高くなったから有名どころは頭に入っている。
と言っても、艦船に関しては見本なしではシルエットくらいしか描けないがな。
軍旗はないが、艦名くらいはあるだろうと、船体の横に書いてある文字を読む。
「カ……ズ……ミ? 反対から読むんだっけ? それでもミズカか。こんな名前の艦は知らないぞ。なあ、舞彩。俺の知識の中にある艦船名でこれに似た奴はあるか?」
困ったときの記憶補助。俺が一度習得した知識であれば彼女らもそれを共有しているらしい。
「いえ、ありませんね」
「ま、そうだよな。ここが俺の元いた世界だったら魔法なんかあるわけがない。小鬼がいるってのも御伽噺だしな。タイムスリップより異世界転移の方が可能性は高いだろう」
「ハルナオさま、あの船が接岸しそうな場所がわかりました。ここから海岸沿いに東へ行った所に波の穏やかな入り江があります」
「よし、行くぞ」
俺は魔法のペンで、すでに題名を抜かして描き上げた武器の絵に名前を入れる。
「ベレッタ92」
イタリアの自動拳銃だ。
武器類は暇な時に何枚か描き上げていた。実体化しても一日で消えてしまうので、描き上げた絵をストックしておいて、必要な時に名前を入れるという方法をとる。
こうすれば
入り江に近い森の中から船がくるのを待っていると、予想通り駆逐艦を接岸させて何人かが上陸してくる。
「えーと、上陸してきたのは八人か。艦内には攫われたであろう女性が五人に、海賊が二人残っていると。間違いないな、愛瑠」
俺は彼女に再確認をさせる。
「はい、間違いありません」
「船を奪ってこのまま逃げる?」
恵留がそんな提案をしてくる。
「それも良い案だな。けど、恵留は船の操船ができるか?」
彼女は首を振る。
「愛瑠はあの船を解析できたんだろ? 操船は?」
「ただ動かすだけならできますよ。けど、あの船はハルナオさまがいた世界の船みたいに自動化された部分が少ないので、少人数では難しいですね。陸地にたどり着けるかとか、座礁しないで済むかとかは、運次第ですね。あと、これ重要なんですけど、あの船、燃料があまりありません」
「なるほど、だから、必死になってこの島に上陸したかったんだ」
「舞彩、恵留。なるべく生け捕りにしたい。この世界の情報を知りたいからな。できるか?」
「ええ、お任せ下さい」
「任せて!」
二人は元気に承諾する。
「じゃあ、舞彩のゴーレムで脅かしながら城の方へと追い詰めて、恵留の魔法で無力化してくれ。なるべく手足に火傷を負わせろ。無力化したら、ロープで縛って、その後に治癒魔法をかけること」
「わかりました」
「うん、わかった」
俺の指示で二人はそのまま海賊を追って駆けていく。
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