第12話 共鳴
俺たちは再び廃村へと向かう。だが、村は静まりかえっていた。
念のため、村の建物をすべて調べて回ったが、壊れかけた家屋の中にさえ、小鬼の姿が確認できない。
「どこに行ったんだ?」
この場所は漁師の村だったようで、海岸に近い場所にある。ゆえに東から南にかけては海しかない。
俺たちは北西から来たので、他に逃げられる場所があるとも思えなかった。
「ね、ハルナオ。あの建物をもう一度調べていい?」
中は二十人ほどが入れば窮屈なほどの広さだ。こんなところに小鬼が逃げ込んだとして、どこに隠れるのだというのだ。
しかも、先ほど俺が中を確認している。
「ああ。頼む」
自ら確認して見落としがないことはわかっているが、彼女を信じてみるのもいいだろう。
俺の返答を聞くと、恵留は呪文を唱え始める。
「灼熱の赤の聖霊よ。煉獄の炎で彼の建物を焼き払え」
恵留の魔法は、礼拝堂のような建物を数分で消し炭にする。
「え?」
たしかに調べていいと言ったが、かなり強引な手法だな。恵留らしいといえば恵留らしい。
燃え尽くして炎が治まると、恵留は建物のあった場所に駆けていく。
「あった!」
恵留が声を上げ、嬉しそうにこちらを向く。
「何を見つけたんだ?」
「この奥に小鬼が?」
「たぶん」
「どうされますか?」
「そうだな。巣穴だとしたら、小鬼がまだまだたくさんいるはずだ。とはいっても、狭いからな」
入り口は大人一人がようやく地下に降りられるほどの狭さだ。舞彩のゴーレムは連れて行けない。中に入ったら奴らの思うつぼだろうな。
でも、小鬼の巣としては想定通りではある。
「まあ、当初の作戦通りにするか」
「はい、では今から準備をします。恵留、明かりを」
恵留が魔法で浮遊する炎の固まりを出すと、それを穴の中に入れてその中を確認する。
「わかるか?」
「ええ、入り口以外は穴を掘っただけですね。特殊な加工で周りが崩れないようになっていますが」
「造ったのは人間か?」
「ええ、そうでしょうね。小鬼はそれを利用しているだけだと」
「例の魔法、もう一回くらいはいけそうだな?」
「ええ、おまかせください」
舞彩が呪文を唱える。彼女が使うのは
「聖なる橙の大地の精霊よ。掘り進めた穴をすべて崩壊させたまえ」
彼女の魔法によって、穴はすべて崩れて埋まることになる。つまりゴブリンは生き埋めになるわけだ。
魔法生物だから呼吸をしているかどうかはわからない。生き埋めにしたからといって窒息死するとは限らないが、こっちとしては悪さできないように排除できればいいので、生死は問わない。
それにゴブリン程度の力なら土から這い出てくることもないだろう。
地味な方法だが、ちまちま倒すよりは効率がいいはずだ。
「そういや小鬼の数ってすごいいたよな。千匹まではいかないまでも、三、四百匹近くいたはずだ。どうやって繁殖したかはわからないが、多すぎじゃないか?」
「と、いうと?」
舞彩が意外そうにこちらを向く。
「この島は周囲四キロほどの小さな島だ。この島に生息する生き物の数だって限りがある。こんなに小鬼がいたなら、この島の動物はすべて食い尽くされているはずだ」
「そうですね。たしかに、あの数は異常です」
舞彩が頬に片手を当てて考え込むような素振りをすると、恵留が俺の目を見ず、そっぽを向いたようにこう告げる。
「ハルナオの知識にもあるけど、小鬼って魔術とか魔力によって増えるって場合もあるんじゃないの?」
「魔術っていっても、黒幕みたいな人間もいなさそうだし、強力な魔力を持った石とか岩でもあるのか?」
俺がそう反論すると、恵留は背中を向けてしまった。
「し、知らないけど」
まあいいか。疑問は残るが平穏な生活に戻れるわけだから。
「とりあえず、これで当面は小鬼に悩まされることはないな。城に戻ろうか」
「待って、ハルナオ」
恵留が何かに気付いたように目蓋を閉じて、耳を澄ますように両耳に手をあてがう。
「そうね。わたくしにも聞こえるわ」
舞彩も恵留と動揺に、耳元へと手をかざし、何かの音を聞いている。といっても俺にはまったく聞こえてこない。
「どうしたんだ?」
「共鳴音です」
舞彩がそう答える。
「共鳴?」
「あたしたちは近くに同じ魔法の波動があると共鳴を起こすの」
恵留がそう説明してくれる。
「同じ波動? ……まさか、近くに魔法のペンが」
「あるかもしれません」
舞彩が笑顔でそう答える。
三つ目の魔法のペンか。七本のペンは、わりと簡単に揃うかもしれないな。空を飛べる魔法が使えれば、この島から脱出するのも簡単だ。
そんな期待を込めて俺もそのペンを探す作業に加わる。
共鳴音はわからないが、特徴的な香りを見つければペンにありつけるはずだ。
が、辺りに漂うのは死臭。小鬼たちが食い散らかした動物のものや、小鬼たちの死体から漂ってくる。
「舞彩姉、アレ」
恵留が前方を指差して舞彩に告げる。何か見つけたらしい。
「そうね。アレの中から感じるわ」
二人はその場所へと近づく。そこにあるのは、俺に頭を撃ち抜かれた小鬼にだった。といっても、周りの小鬼たちよりも一回りデカいタイプだ。
M4カービンの流れ弾に当たって気付かないうちに死んだようである。
「まさかと思うけど、胃の中とか?」
俺が最悪の想像を口に出す。
こいつらなんでも喰うからな。魔法のペンって基本的に良い匂いだから、食材と勘違いした可能性もある。
「そのようですね。たぶん、食べてしまったのでしょう」
「消化されないよな?」
「それは大丈夫です。魔法のペンはどんなことがあっても、形を失うことはありません」
「火の中に入れても?」
「ええ、わたくしたちと同じですよ。魔力がなくならない限り存在しつづけます」
なるほど、それならば腹を裂かなくても大丈夫かな。
「恵留。こいつを燃やしちゃってくれ。たぶん、ペンだけは消し炭にはならないで残るだろう」
おまえがさっき建物を燃やしたのと同じ方法だ。
「あ、そっか」
恵留はすぐに呪文を唱え、死骸を魔法の炎で燃やし尽くす。後に残るのは藍色のペン。
「これはたしか……」
俺は日記に書いてあったことを思い出そうとする。が、それほど読み込んでなかったので、記憶をうまく引き出せない。
「藍色は闇属性ですね」
「なるほど……」
舞彩が俺の記憶を補完してくれる。
「ご主人さま、こちらを」
舞彩からはその藍色の魔法のペンを渡された。胃の中に入ってたとは思えないほどピカピカで綺麗だ。
燃やしたことで不純物が取り除かれたのだろう。おかげで香ってくるのは……爽やかな甘い芳香。その中には優しいリンゴの甘さにも似た感じが漂ってくる。
「
「お嫌いですか?」
「その女性は嫌いだったけど、香り自体が嫌いなわけじゃない。わりと好き」
「よかった。新しく加わるかもしれない妹ですから、少し心配でした。嫌な記憶は匂いと連動される場合がありますからね」
たしかに少し嫌な気分になる。だけど、そこまで深く関わった仕事仲間じゃないから、致命的な悪い印象もない。ゆえに、それほど嫌いな匂いにはならなかったのだ。
とはいえ、次も女の子を描くと思われるのも恥ずかしい。
まるで、性欲全開の思春期の少年みたいじゃないか。あの頃は自分でおかずを描いていたもんな。
「妹とは限らないんじゃないか?」
俺は誤魔化す意味も含めて、そう答える。
「そうですね……たしかにご主人さまの今までに描いたものを見るに、女性だけではないようですね。ですが、ご主人さまを補佐する使い魔は男性がいいのでしょうか?」
「それはまだ決めてはいないが……」
女子ばっかり描いてると、ハーレムになりそうだし、女子同士で陰湿な争いが始まりそうで怖くもある。
だが魔力注入を考えると……アッー!
たしかに女性の方が無難だな。危ない危ない、そっちの世界の扉を開くところだった。
「あたしの妹ができるの?」
恵留がめずらしく俺に顔を向ける。といっても、俺の半径一メートル以内には入ってこないが。
「そうね。このペンのナンバーは【6】。下から二番目の子かな」
「そうなんだぁ」
舞彩がそう説明すると、恵留がなんだか嬉しそうな顔になり、それを隠そうとしたのか両手で頬を抑える。
仕方ない、妹を描いてやるか。舞彩が社会人で恵留が高校生くらいだから……六番目ってことで、中学生……そうだな十三歳ってところかな。
香りがロリータレンピカだし、ロリ服の似合う子でも描こう。
「よし、撤収だ。帰ったら三人目の実体化をするぞ」
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