第11話 追撃しますか?

 翌朝、朝食後に魔法ペンを使って絵を描く。実体化する物を考慮して、火属性である赤いペンで描き上げた。予想通り、描いた絵は消えなかった。


 銃砲類は火器というから、火属性というのが当て嵌まるのだろう。


 そして、俺が今手にしているのはM4カービン。米軍が採用している歩兵用小銃アサルトライフルだ。


 体力的なことも考えてわりと軽めのものを魔法のペンで描いた。というか、見本なしで描けるのはそんなに多くない。その中で扱い易いこちらにしただけである。モデルガンも持っていたしな。


 そんなわけで、さっそく海に向かって試し撃ちをしてみた。


 パシュッという軽い音がするだけで反動がほとんどない。弾が本当に発射されているのか疑うほどだ。


「うーん……」


 俺が銃を構えるのをやめ、全体構造を改めて見ていると舞彩マイがこう声をかけてくる。


「ご主人さま。練習をなさるなら、的のような物をお作りしましょうか?」


 まるで長年連れ添った夫婦のように、俺が何も言わなくても舞彩は察してくれた。


 彼女の顔を見ると、少し顔が火照ってくる。昨日の濃厚なキスから、そのまま勢いで最後までしてしまったのだ。魔力の注入を。


 満足そうな舞彩の顔を見るのはなんだか恥ずかしい。それでも、心だけではなく身体まで繋がれたという経験は、俺の自信に繋がるのかもしれない。


「ああ、そうだな。頼む」


 俺が何事もなかったかのように、平静を保ちながらそう答えると、舞彩は余った丸太から小鬼の形をした木彫りのような人形を作り上げる。


 俺はそれを的にして撃つことにした。


 反動がないのでぶれることはない。照準を合わせて引き金を引くと、木で作った人形の頭部が吹き飛んだ。


 かなりの威力である。


 たぶんこれは弾を火薬で発射しているのではなく、魔法的な何かを利用しているのだろう。そもそも、この銃の正確な構造を俺は知らんのだからな。


 さらにこれはM4カービンであってM4カービンではない。ガンマニアの知人に見せたらダメ出しを出されるレベルだろう。


 俺の記憶力も細かい部分は描けてないと思うし、足りない部品もあるかもしれん。そうなると、これはアサルトライフル風の魔法アイテムだ。それならハンドガンの方がよかったかな? と少し後悔した。


 次に連射フルオートに切り替えて弾を撃つ。本物であれば装弾数は三十発ほど。一分もしないうちに弾切れを起こすだろう。


 が、もう三分くらい経つのに、いっこうに弾切れは起こさない。


 実体化が今日一日限りとはいえ、弾数に限りがないというのはありがたい。ある意味チートすぎるな。


「よし、行こうか」


 俺は舞彩と恵留エルに声をかける。


「ご主人さま。心配ですので、これにお乗り下さい」


 舞彩が呪文を唱えると、地面が盛り上がり、土でできた三メートルほどの人型の化け物が現れた。いわゆるゴーレムか。


 ゴーレムの頭の部分には、人が乗れるようなお椀状になって座席が付いている。舞彩の気遣いにも感謝しないといけない。歩かなくて済むのは楽でいいな。


 恵留が先頭となり、次が舞彩、そして最後が俺とゴーレムという隊列で森の中を突っ切っていく。


 ゴーレムの歩く速さは前を歩く二人と変わらない。動作はゆっくり目だが、歩幅が長いので意外と速度はある。ただし駆け足はできないらしいので、逃走するときはゴーレムを捨てて自分で走った方が速いとも舞彩に説明を受けていた。


 森を抜けると砂浜のような海岸が見えた。


 小鬼退治ではなく探索であれば、ここらへんで休憩してお約束の水着タイムなんてことを楽しみたいのだが、そんな暇はない。


 海岸沿いに歩き、さらに岩だらけの丘を迂回してもう一度森に入ると小鬼らしき生物を見かけた。だが、こちらの姿を見るや逃げ出していく。


 巨大なゴーレムに圧倒されたのだろうか? いや、斥候で単純に仲間のところへ知らせに行ったのかも知れない。


 それならちょうどいいと、ここに罠を張ることにした。


「舞彩。例の魔法を使ってくれ」

「了解しました。ご主人さま」


 舞彩は淡々とその作業を行っていく。俺たちは周りの気配に気をつけながら彼女を見守った。


 作業が終わるとすぐに移動だ。


 そしてついに森を抜けたところに廃村のようなものを見つける。木造の家が三十棟ほどと、中央に教会のような建物がある小さな村だ。


 そこには食い散らかしたような動物の死骸が大量に散乱している。


 ただ、小鬼の姿は確認できない。


「舞彩が見つけたのはここの廃村だったよな」

「はい。望遠鏡で見えたのはこの場所で間違いないですね。小鬼たちはどこかに隠れているのでしょうか?」


 舞彩がおっとりした口調でそう答えると、恵留が何かに気付いたかのように声を上げた。


「ハルナオ! 来るよ」


 ゴーレムに対して投げられた石ころが合図のように、大量の小鬼が俺たちに向かって襲って来る。


 恵留はそれをほぼ蹴りでやっつける。回し蹴りと踵落としのみで小鬼たちを倒していた。なんだか、汚い物だから手を使いたくないみたいな感じではある。


 舞彩の場合はゴーレムを数体召喚し、そいつに豪快な動きをさせて小鬼たちを踏みつぶしていった。


 俺はゴーレムの頭部から降りず、アサルトライフルをフルオートにして小鬼の数を減らしていく。


 小鬼たちの一匹一匹の戦闘力は大した事がない。銃がなくても俺でも倒せるかもしれなかった。ただ、なにせ数が多い。


 その数は百を超えるだろう。今までどこに隠れていたのだ? と思えるほど、倒して倒しても数が減らない。


「舞彩! 恵留! 打ち合わせ通り、少し後退するぞ」


 先ほど小鬼たちと出遭った地点まで戻る事にした。このまま戦っていてもキリがない。一気に片を付けるために、勝負を賭ける。


 恵留を囮にして、ゴーレム二体で小鬼たちが逸れないようにしながら罠のある所へと誘導した。


「舞彩!」


 小鬼たちがわらわらと恵留目当てに追っかけてきたところで、罠を作動させる。


「聖なる橙の大地の精霊よ。大地の偽装を解き、真なる姿を表せ」


 舞彩のその呪文で、恵留のすぐ後ろの部分からすり鉢状の穴ができる。底の方には地下水と混ざった土が、底なし沼の泥のような状態になっていた。


 小鬼たちは吸い込まれるようにその穴へと落ちていく。数十匹いや、百匹以上の小鬼がその罠に引っかかる。


 小鬼たちは這い上がることもできずに、その中に沈んでいった。


 だが、それを逃れた小鬼たちが廃村の方へと逃げていく。


「追撃しますか?」


 舞彩がそう問いかけてくる。


「ああ、殲滅するぞ」

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