『噴鬼』上
大きなタイヤの大型バスがざりざり進む。
三番コロニー『ワイルドアームズ』の砂漠をざりざり進む。
ざりざり進むバスの一番後ろの席に乗ってる俺はざりざり揺れていた。
硬い席、不愛想な運転手、疲れ切った乗客たち、クーラーなどなく、開け放たれた窓からは熱風と日航が容赦なく差し込んでくる。
道がないからやたらと揺れて、だけども音は静かで、なんでも排気ガス考えてモーター駆動の最新型らしい。
その割には乗客が西部劇そのもののマントと帽子と拳銃と荷物なのがあれだが、これが異国情緒と言うものなのだろう。
温いマテ茶のペットボトルの飲みながら、窓の外を見つめるのは、何とも言えない雰囲気があった。
見知らぬ土地を旅する感じ、嫌いじゃい、だがしかし車酔いが全部をダメにする。
ぐらつく頭、こみ上げる吐き気、それから逃れる安直な手段が寝てしまうこととしってしまってか、ひたすら眠い。
これがまだ続く。帰るまで続く。帰ったら仕事が待っている。
休日になってない休日、それでも気分は悪くない。後悔もしてない。
少なくとも、この手の銃と、目の前の奴隷と、収穫は大満足だった。
◇
切っ掛けは誰かの命乞い、面白い話をしろと命じた時の断末魔の情報だった。
ここの売りはサイボーグと銃器、それも民間が潜りでやっていて、特別な許可もなく、現金さえ払えば手に入る。
その後わちゃわちゃ言ってたが、結局は「隙あり死ね!」と言ったキリ黙ってしまった。
それで気になって、個人的に訊いて回って、それでやっと今日、休みを奪い取って、こうして買い物に来れたのだ。
銃を売ってるという最寄りの村まで物資を運搬してるトラックをハイジャックして半日、たどり着いた村は正直言ってがっかりだった。
名前なんか覚えてない。辛気臭い砂漠の村、発電の塔の根元にへばりついたキノコみたいなバラック、比較的涼しそうな地下は立ち入り禁止で、後は難民だか貧乏人だかが雑に暮らしてるだけの場所だった。
食い物はべちょべちょのオートミールだけ、住民は垢臭く、女子供はいてもマントを羽織って露出はほぼない。
酷い村、がっかりを抱えながら銃のマークのあったバラックを覗いたらパラダイスだった。
鉄、工具、研磨の機械にプレスの機械、外に負けない熱気が、狭い室内に溢れていた。
そこで作られるのは当然銃、それも拳銃だった。
リボルバー、ブローバック、ストライク式やデリンジャータイプ、片手に収まる凶器、それがずらりだった。
それは同一規格の量産にあるたんぱくさも、高級ブランド品のごってりとした優雅さもなく、ただ実用性のみを追求した武骨な強さがあった。
その中で白鉄に輝いていたのが、この一対の銃だ。
マガジン式マシンピストル、小口径で銃身が二十五センチ、重さ四キロ弱、フルオート射撃とセミオート射撃の切り替えが可能で、グリップの底や銃身の下には打撃戦を想定した突起が付いている。
それが二丁、一対になるようデザインされていて、薬莢の排出もそれぞれ外側になるよう右と左とに分けられていた。
それぞれの名は、左手用が『リベリオン』右手用が『イクリビオン』と、生かす名前だった。
一目ぼれだった。
試し撃ちは試すためでなく銃の使い方を教わるため、一発撃っただけで殺してでも奪い取ることは決定した。
幸い、持ってきた金額で予備マガジンと銃弾、入れる皮のアタッシュケース含めて余裕で買えたため、殺さずに済んだ。
ただ失敗はガンベルトがないこと、なのでずっと手に持ち続けるか、アタッシュケースに入れるか、スティンガーズで体に縫い付けるかとも思ったが、これぐらいはどこのコロニーでもあるらしいので、持って帰ってからのお楽しみにした。
それで帰ろうかと思った次に見つけたのは、素敵な次のハーレム要員の奴隷だった。
正確には、奴隷ではなくて難民らしかった。
バラックの端、こんな砂漠で靴磨きの仕事をしている大と小の二人組、はっきり言って視界に入れるのも不快だった。
しかし、大きい方の顔を見た瞬間、こちらも一目ぼれだった。
かなりの美人、しかも『鬼』だった。
日焼けして、垢塗れで。短い黒髪もぼさぼさで、やせ細っていたが、かなりの美人、加えて八重歯に額の二本の角、日系を思わせる顔立ちだ。
話を聞けば彼女らはまんま『鬼』の一族で、普段は何の問題のないただの亜人らしいが、感情が爆発すると魔力と身体能力が向上するらしい。そこまでは普通だが、問題はメンタル面で、何か一つに取りつかれると、それが愛でも怨でも、それに取りつかれ、周りが見えなくなるらしい。
つまりは重く、めんどくさく、敵に回すとどこまでもしつこい。だからやんわりと差別され、誰か敵かわからない状態で弾き出し、迫害されてきた、らしい。
つまりあれは誰も所持してない奴隷ってことで、つまりは拾ったもん勝ちってことだった。
さっそく話しかけ、一緒に来ないかと誘い、昔鬼族に助けられた恩返しをしたいと嘘をついて、まんまとだましてのこのこついてきて、ゲットできた。
◇
休日潰して収穫二つ、下手なクエストよりかは有意義だった。
ざりざり揺れる車内でうっとりと取り出した『リベリオン』を撫でながら、隣の内側の座る彼女を見る。
名は『キリキ』と言うらしい。歳は十八のこと、ギリギリの年齢だが、動きも話し方もおっとりしていて、世間知らずで騙されやすく、まさしくお嬢様と言う感じだ。特技は家事全般、お姉さまキャラとしてハーレムがまた華やぐことだろう。
後は持ち帰って、少し太らせて、服は虎柄のビキニと巫女服と悩むところだ。
黙って席に座り、揺れに揺らされ、うっつらしている彼女はとても魅力的だ。
浮かぶ妄想、邪魔するのは、彼女の膝を枕にして、俺と彼女との間にいる小さいのだった。
名前なんか忘れた。瓜二つで、だけども生意気そうな男だとわかる顔、同じく角と八重歯、歳は十に届かず、言われなくとも弟とわかる。それだけに美形ではあり、そっち方面の変態になら人気だったろう。
二人は唯一生き残った肉親で、どこに行くにも一緒だと言っていた。
それを無理やり引きはがして揉めても面倒なので一緒に連れてきたが、どこかで隙を見て捨ててこよう。何、学校に行ったと騙してそっち方面の変態に売りつければ、あるいは新たなハーレム要員とトレードすればいい話、決して無駄にはならないだろう。
と、前の席が騒めき始める。
「てめぇ俺のケツ触っただろうが!」
痴漢騒ぎだった。
休日を台無しにしかねないハプニング、それも被害者も加害者も男らしい。
何でこんな車内で、全部が二連席で、一番後ろだけが並んで五連席という、長距離バスな内装でどうやって痴漢などできるのか、いやできてないから騒ぎになってるのか、何にしろ面倒ごと、これ以上騒がれるぐらいなら黙らせようか、思った瞬間、前進のスティンガーズが騒めいた。
警戒、警告、虫の知らせ、危機的状況、それほどまでにあの痴漢は強いのか?
迷ったのは一瞬、その刹那の後に、爆音に、バスが大きく揺れた。
跳ね起きるキリキちゃん、ガバリと起き上がり弟を抱きしめる姿は母性を感じさせて最高の萌えだ。
思う間に車体が大きく揺れて、曲がって、そして止まった。
騒めく乗客、止まった車体、窓から見れば進むはずだった方角が見える。
そこに、大きなクレーターができていた。
砲撃、攻撃、敵襲、強盗か?
推理するもそれは怪しい。
そもそもこのバス、乗客は大して多くない。ほとんどが俺と同じ旅人か、個人で少量を運搬している行商で、荷物を差し引いても半分は空いている。
金も俺が一番だろうし、それさえもバス代払うのがギリギリの金額、そのバスから奪うにしてもたかが知れてる。
行商もほとんどが売り払った後、旅人も銃とかお土産買った後だし、後は彼女ぐらいしか金目のものはない。
その彼女だって、乗ったのは偶然、なら付けられ狙われたかとも思うが、だったらあそこの村で攫えばいい。
ならなんだ?
……考えても答えは出なかった。
と、影が走り抜けた。
一瞬の暗転、若干の涼しさ、遅れて聞こえてくるのは風を切る音、すなわち飛行する何かが、このバスの上を飛びすぎて行ったのだ。
嫌な予感、猛烈に嫌な予感がした。
目の前で砂が波打つ。同時に熱風、突如の砂嵐の只中に、黒の巨体が降り立った。
目を引く緑の模様、目立つシンボルは交差した銃、人に似て人に非ざるフォルム、腕がいっぱい、その手にライフルがいっぱいだった。
異形としか呼べないその姿、間違いなくロボット、それも熱血スーパー系だった。
「そこのバス、聞こえるか」
外から発せられる声、この機械からの声、なかなかりりしく、渋い声だった。
「全員が降りて、横一列に並んでもらおう。指示通りに動くなら、必要以上に危害は加えない」
渋い声で言っても常套句は常套句、強盗のそれと変らなかった。
「私の目的はただ一つ、いや、ただ一人だ。安田ヒロシ、やつの命さえもらえれば他には危害は加えない」
……最悪だった。
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