『機動核装甲カルブ・アル・アクラブ』下
すげぇ。
やっぱすげぇ。
燃え盛る海岸より上陸して、屋台や市場を踏みにじり、果敢に攻めるハンターどもを一蹴し、この島で一番大きいであろうホテル相手に存分に暴力している。
圧倒的な蹂躙、爽快な破壊、スケールが俺なんかと比べるまでもない。まさに桁違い、素晴らしいとしか言いようがない。
何より素晴らしいのは、その残忍さだ。
例えば今、歩きスマフォの女が歩いてる。
画面に釘付けで周りの惨状に気が付かず、瓦礫を踏んでつまずいてでやっと歩くのをやめた。
何やら悪態を吐きながらやっと画面から目を放して現状を、それからきょろきょろしてから上を見上げてご対面、下品な悲鳴を上げる女に、我らがゴ〇ラが足を上げる。
そして一歩、踏み出した。
着地と同時に消える女、途絶える悲鳴、そしてまた一歩、踏み出し持ち上がった足の裏には、ちゃんとべったりとガムみたいに張り付いていた。
よくある、足の指と指との間にいて、運よく助かった、あんんて糞落ちではない。ちゃんと、だ。
これこそ〇ジラ、怪獣の王、ゴジ〇の真の姿、来てよかった。
ただ、良いことばかりじゃない。
あまりの見事さに見とれてしまって、観客がロクに残ってない。
半分に潰れた女、叫び続けてる女、がれきの下敷きの女、そこから助け出そうとしてる女は元気そうだが、死んで異世界でやり直した方が良い顔だ。
あと元気そうなのは、ババァと残念なのと男ばかりだ。
せっかくの怪獣退治、俺の雄姿を黄色い歓声で彩りたかったが、遠ざかる背中をこれ以上ほっとくと帰りの船まで沈められかねない。
〇ジラの進行方向から外れたなんかの家の影から、ただ逃げ込んで震えてることしかできなゴミどもをかき分け、前に出る。
そろそろ狩るか。
◇
瓦礫と瓦礫に挟まれた道、くっきりと足跡の残るアスファルト、燃えてる車、スパークしてる電柱、それらを挟んで、俺はかの怪獣に追いついた。
改めて見上げれば巨体、太い尻尾、ただ両腕が雑な鎌なのはマイナス点だ。歴史あるシリーズを継承するなら残すところは残すべきだし、半端にオリジナリティ入れるのは大反対だ。
ゴジ〇はヴィーガンじゃなくて放射性部室が餌だし、メカゴジ〇は怪獣であって都市ではないし、キングギド〇は神ではあるがよくわからないままやっつけられたりしない。
言いたいことは山ほどあるが、今は置いておく。
モード=グラスホッパー、下半身強化のモード、何はともあれ追いつかなければ。話にならない。
奥歯を噛みしめ、わずかに前かがみにの姿勢、そこから一気に全力へ、加速疾走する。
即興で作ったモードながらこれは、思いのほか使い勝手がいい。
ただ童心に戻ったように、ただ無心で走る。
これには、原始的な喜びがある。
風に髪をなびかせて、がれきを飛び越え、死肉を踏みにじって加速加速、巨大な蹴りたい背中へ今一歩、届く手前で、尻尾がうねった。
跳ねて落ちるは俺の目の前、背後の俺尾を、見えてるはずもないが、まるでねらってるかのように叩きつけてきやがった。
回避、急な切り返し、地を蹴り燃える車を飛び越え向こうへ。
一瞬遅れて地響き、跳ねて浮かぶ車、ひゅんとなった俺の股の間から見えたのは、一撃で砕け散ったアスファルトの、その後だ。
細かく砕かれてる。
それも破片はほぼ粉、そいつが踊っていた。
形は波、波紋、考えられるのは振動、そこに尋常じゃない威力、ならばこれはあれだ、一撃めの刹那の後に二撃目を放つあぁーーってやつだ。
それが何でか尾の先より放たれていた。
原理は知らない。魔法かなんかだろう。
ただわかるのは触れるのも危なさそうということだ。
なら尾へ攻撃は無謀だ。
俺は転がり、背中を痛めながら立ち上がって駆けだす。
目の前で降りた左足、次に上げられた右足、くねる尾の下をくぐって股下へ、駆け込む。
見上げた又の間には何も見えずに顎だけが飛び出て見える。これじゃあ、雄か雌かもわからない。だがゴジ〇なら尾巣に決まってる。ツナばっか食ってる〇ラならメスだ。
性別判断できぬ間に念願の右足が降りた。
今だ。
地面に触れた振動の刹那に跳ぶ。
狙うは足首、アキレス腱の辺り。そこへ狙い通り、跳べた。
……巨人相手のセオリーは足をもぐこと。
転ばし、動きを封じ、垂れた頭を抉りにつなげることだ。
必勝パターン、栄光への架け橋、怪獣殺しスレイヤーの第一手、思わず頬が割けるように笑えてしまう。
……が、狙ってた足があげられた。
ひょい、と、まるで、いやまさに、俺を避けるように、膝を上げ、避けられた。
狙ったようなタイミングに、俺は悪手と知りながらも、上を見上げずにはいられなかった。
長い口、牙の口、その目が笑い、狙い通りなんだと言っていた。
こいつ、ゴ〇ラのくせに賢い。
思う俺へ、ゴ〇ラの巨大な足が、つま先が、音もなくぶち抜いた。
まるでトラックにはねられたような衝撃、当然のようにぶっ飛ばされた。
一撃で全身が悲鳴を上げる。車に引かれたのと比にならない衝撃、危なかった。
モード、名付けるなら、エッグノッグとでもしてくか。
全身全てを前回のスティンガーで包み、卵とする。
完全防御特化のモード、中ば反射でやったものの、功を奏した。
たわみ、受け止め、受け流せた衝撃に、本体の俺へのダメージは薄い。
これでどこまで耐えられるか耐久テストもやってみたいが、今は怪獣退治だ。
殻を破いて代わりに腕へ、スティンガーズを束ねて集める。
相手はゴジ〇、自衛隊の一斉射撃に耐える耐久力、それを上回る物理攻撃ができるなどと、俺はうぬぼれていない。
モード=ディキディキ、真っ白となった腕、拳から二つの突起、間に電撃、俺が持つ唯一の属性攻撃モードだ。
この電撃は、神経伝達用の電流を過剰に強化したものらしい。詳しい原理は未だによくわかってないが、少なくとも電気ウナギと原理とは全然違うらしい。
そいつを左手に、こいつは本来両腕で行うものだが、着地を考え残りは下半身に集める。
距離は十分、的はでかくて外しようがない。後は配分だ。
電撃はたいていの生物にダメージがある。それは俺も、スティンガーズも違いない。
これは、自爆攻撃だ。
放てばその反動が俺らを襲う。
神経を焼く痛み、大量のカロリー消費、そしてスティンガーズの死滅、着地と次とを合わせて考え、配分し、力をこめる。
俺の導き出した数値は80%、雷に一歩届かない威力だ。
それでも、濡れた体には利くだろう。
「痺れな」
雷が放たれた。
◇
全身が痛い。
頭が割れそうだ。
肺から戻る息が血なまぐさい。
満身創痍、残る20%もあまり意味がなかった。
電撃、放ったまでは無事だった。
だが己の雷光に目が眩み、次に激痛、痺れて硬直した体、叫ぶことも敵わず、気が付けば無様に落下していた。
着地も受け身もない、ただ足から落ちたから、骨が折れてないだけだ。
これまでにないダメージ、一番酷いのはプライドだった。
地面に這いつくばって見上げたその怪獣の姿、無傷だった。
俺が、ここまでやって無傷、一切のダメージも与えられず、歩みを止めることすらできてなかった。
全てを覆う影、見上げれば赤い染みのある足の裏、ゆっくりと、だけども確実に、俺へと迫ってきた。
走馬燈、神への祈り、別れの言葉、何もかもが間に合わないで、巨大な足は地に着いた。
…………地面が揺れて、巨大な足が上がって、砂利がパラパラと落ちて、俺は、無事だった。
俺がいたのは、よくある、足の指と指との間、よくある運よく助かった、糞落ちだった。
安堵などない。
全身が燃え上がるような、苦痛をも吹き飛ばす、屈辱、辱め、消えてしまいたくなるような、負の感情だ。
この恥、雪がずにはいられない。
「大丈夫か!」
声、駆け寄られ、抱き上げられる。
そいつは男、見覚えがある。
あの、ビーチで犬の飼い主をどこかに連れてった男だ。
「あんなモンスター、一人じゃ無理だ。今は逃げるんだよ。立てるか?」
訊かれて、頷き、立って見せる。
ふらつく足、蘇る痛み、だが、今までとは比べ物にならないほど、気分が良かった。
俺は、一人じゃないんだ。
◇
これは、〇ジラではなくシン・ゴジ〇をやった時の作戦だった。
名前は何だったか、神話由来だったはずの大作戦、あれは現実でも通用するものだろう。
足りないエネルギーを国中からかき集め、直結させる。
それにならって、俺も、ここでやる。
スティンガーズ、人肉を貪り増え長くなる寄生虫ども、俺以外の常人では操れないだけで、寄生はできる。
まずデブ三人で絶対数を増やし、普通のを逆背の順で五人並べ、それぞれ前倣えで肩を持たせる。その両腕と肩とをスティンガーズを、繋げ、連結して完成したのがこいつだった。
モードの名前は、セックス・オン・ザ・ビーチとでもしておこうか、これが三度目の挑戦だった。
「嘘よ。これは夢よ」
「タスケテ! タスケテ!」
「ああああああああああ!」
「腕が! 俺の腕がぁ!」
「何でだ! 助けただろ! なのに何でだぁあああ!」
みんなの歓声、心が、魂が盛り上がる。
これが改善点、半端に全身を操ろうとすると余計な枝葉ができて電流が散る。だからつなげるのは腕だけ、脳はそのまま、むしろそのおかげで参加者みんなが、役に立っているという実感を持たせることができた。これは、大きな発見だ。
ただ、それもこれで終わりにしないといけない。
手近な人間は切れたし、ゴ〇ラも流石にこちらに気が付いた。
何よりも飽きた。同じことを繰り返すのは大嫌いだし、これはバトルというほどのバトルじゃない。
「だから、終わりにしよう」
繋げた背の順の一番後ろの背中に手を置いて、並ぶ頭が照準、狙うはどてっぱらだ。
「いや―――! やめていやーーー!」
五対の腕がスパークし、電流が流れ、準備に入る。
発射前の充電、それだけで肉が焼ける臭いが漂い、五つの頭の思いが一つになって絶叫が重なる。
「喰らえ! これが俺たちの思いだあぁあああ!!!」
渾身の雷撃が、放たれた。
……光は一瞬、それで目は眩み、瞼を落として真っ暗に、音は僅かに遅れて、だけども轟音に鼓膜が叩かれ脳髄を叩き続ける。
臭いはただの焦げ臭い臭い。
触れてた背中は熱く沸騰し、煮崩れて離れた。
渾身の一撃、目も耳も封じられた俺に、勝利はすさまじい地響きが教えてくれた。
◇
……こうして見ると、得る物は僅かだった。
夕暮れの赤の中、上半身が解けて崩れたゴジ〇は〇ジラじゃなくてロボっぽかった。しかもメカゴ〇ラですらなかった。
何とか星人が作った何とかロボットで、この島に来ていた要人の暗殺に来てたらしい。だからスレイヤーの称号もなしだ。
それで、その要人とやらが何でか電撃で死んで、それがどういうわけか俺のせいにされて、結果今回の報酬は無しになりそうだった。
ビーチは元からゴミだし、建物、食べ物、飲み物、宝物の類は全部瓦礫の下、挙句にハーレムに良さそうな女が残ってない。
お! と思ってひっくり返したら顔が潰れてたり、男だったり、
得られたのは新たなモードだけ、失ったのはここまでの旅費とこれからの旅費、名声は皆殺しで守れたはずだが、ネットに出回ってるかもしれないと考えると、恥ずかしくて顔が赤くなる。
……今回は外れだったか。
凹みながら瓦礫を漁ってると、向こうに動くものがあった。
あの女、なんか写メに夢中だった女、犬を忘れてどっかいってた女が、腹からシェパードっぽい子犬の体を生やしていた。
……じゃなくて、シェパードっぽい子犬が女の腹の中に頭突っ込んで中身を貪っていた。
ずるりと、引きずり出した頭は血まみれのチワワ、口に咥えて引きずり出したのは腸か大腸か、中身だった。それを美味しそうに啜ってる。
見覚えがある犬、ポリープちゃんだったか。
死にかけてたのが元気に食ってる。それもなんか、小さな頭が凶悪に歪んでる気がする。
これは、あーーーあれか、ゴジ〇そうでゴ〇ラじゃないすこし〇ジラなあれは、なんか微量な放射線を出してるらしいとか言ってた。直ちに健康に影響はないからまだ絶望して自殺するなとのたまわっていた。
健康に影響はなくとも、突然変異は起こすのがカンパニー、こいつもその延長線上にあるのだろう。
そんなポリープちゃんが、こっち来た。
口に咥えてるのはカーブからアバラ骨か、俺の前に置いてお座りして、尻尾をフリフリ舌出してへっへ、まるでなついてるようだった。
血まみれで滴ってなければ可愛いのだろう。だが今はホラーでしかなかった。
……いや待てよ?
ここは異世界、仲間になる生物はみな美少女に変身するに決まってる。
ならこいつも、レベルが上がれば美少女でハーレムだろう。
…………ワイルド暴力系ロリ僕娘が欲しい。
「おいで」
両手を広げて差し出すと、ポリープがすり寄ってきた。
そのまま抱き上げる。
良し! メスだ!
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