世界の狭間の独り語り

三谷一葉

狂人は語る

 おめでとう! 君は19800人目の選ばれし勇者だよ!

 え? ここは何処かって? 死んだはずじゃないのかって?

 またまたぁ、本当はわかってるんでしょ?

 君はね、転生するんだよ、転生。異世界転生ってやつ。世界を救うためにね。

 トラックに轢かれそうになった子供を庇って自分は死亡。くぅぅっ、泣けるねえ。その自己犠牲の精神、まさに世界を救う勇者に相応しいっ!

 あ、君が助けた子なら大丈夫だよ。無傷だ。過擦り傷一つないって言うんだから、凄いよねえ。


 君はこれから、ソルフェルージュっていう世界に転生する。最初はただの農民の子供さ。何処にでもいるような、ね。

 ソルフェルージュは魔族と人間が対立していて、人間は今にも魔族に滅ぼされそうになっている。

 今までに何人もの勇者が魔王を倒そうと頑張ってきたけれど、この魔王がなかなか強敵でね、みんなやられちゃったんだ。

 その魔王を倒すために産まれるのが、そう、君なんだよ。

 そんなに不安な顔をしないでおくれよ。大丈夫。君は選ばれし勇者なんだ。


 あ、そうそう。君にひとつ、プレゼントがあるんだ。神様からの贈り物ってやつだね。

 ん? チート? 何それ?

 …………ああ、君の世界ではそんな小説が流行ってるんだね。だから飲み込みが早かったのか。

 まあ、似たようなものだね。どんな力が欲しい? ひとつ選ばせてあげるよ。

 ふうん。『全てを守れる防御の力』か。良いんじゃない? 格好良いよ、勇者っぽくて。

 ああ、いつまでもこんな謎空間でお話なんてしたくないよね。ごめんごめん。もう終わりだから。

 じゃあ、改めまして。

 おめでとう! 今から君は、勇者だよ!




★★★


 ああ、おめでとう。あんたは19800人目の選ばれし生贄だ。

 ん? ここは何処かって? 死んだはずじゃなかったのかって?

 …………どうでもいいだろ、そんなこと。

 あんたはな、転生するんだよ、転生。異世界転生ってやつ。世界を救うためにな。

 トラックに轢かれそうになった子供を庇って死亡。ハッ、笑わせるねえ。そのジコギセーセーシン、だから生け贄なんかに選ばれるんだよ。

 あ、あんたが助けた子供なら死んじまったよ。あんたに突き飛ばされた先で他の車に轢かれて、道路に内臓ぶちまけて苦しみながら死んだとさ。凄い最期だよなあ。


 あのフクロウが2番目の勇者を食い殺してから、世界は全く変わってしまった。

 異世界転生してハーレム築いて、その中の女の子とラブコメに洒落こもうったってそうはいかない。紙とペンと何かがあれば何でも出来ると何処かのお偉いさんは言ったらしいが、結局世界のルールに誰も逆らえはしないのさ。

 あの子供は最後の3分間に、一体何を思っただろう。恨みか? 嘆きか? お前に突き飛ばされなかったなら、そのまま即死できたのに。

 変なジコギセー野郎の中途半端な情けに助けられて、3分間だけ寿命を伸ばしたあの子供は、あんたと同じように異世界に転生したかもな。最高の目覚めだねえ、まったく!

 この仕事も、もう丸々3年ぐらいはやってるのか。祝! 3周年! …………うわあ、超虚しくなった。


 何言ってるかわからないって?

 いいんだよ。

 俺が何を言ったところで、生け贄には、ソルフェルージュに転生するんだとか、神様からの贈り物があるんだとか、そんな風に聞こえるんだから。

 ふうん。『全てを守れる防御の力』ね。ま、良いんじゃないの。ジコギセー野郎っぽくて。今度はちゃんと守れたら良いけどな。

 ああ、そりゃあこんな謎空間に長居なんてしたくないよな。悪い悪い。もう終わるから。

 それじゃ、改めて。

 おめでとう! 今日から君は、生け贄だ!















 …………今回は、ずいぶん早かったな。

 ああ、飢饉か。

 それじゃあ大人にすらなれなかっただろうな。

 『全てを守れる防御の力』なんてタイソーなもん持ってても、腹は膨れないからなあ。

 トラックに轢かれて即死するのと、餓死するのと、どっちの方がマシなんだろうね。

 まあ、どうでもいっか。




 ぎゃはははははっ!

 そうさ、そうだよ!

 みーんな1番目が悪いんだ!

 つまりはこの俺! この僕! この私!

 俺が僕が私が失敗しちゃって、2番目がフクロウなんかに食い殺されちゃったから、19798人も転生させられちゃってんの!

 いい加減気づけよ、馬鹿じゃねーの。異世界から転生したってチートなんてタイソーな力もらったって、誰も誰も誰も! だーれも世界なんて救えやしないんだよ!

 無駄無駄無駄無駄! 無意味! 意味なし!

 …………あー疲れた。もうやめよ。










 おや、また客人だ。












 おめでとう! 君は19801人目の選ばれし勇者だよ!

 (おめでとう。あんたは19801人目の選ばれし生贄だ)

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