第157話:無能なペテン師

「んじゃ早速一つ目の質問だ。ここの従業員、つまりは娼婦と男娼はどこから連れてきて、どういう採用基準で雇っている?」


「質問に質問するようで悪いがまずは確認だ。昨日俺が話した兄貴がこの国の王族貴族と仲が悪かったってのは覚えてるか?」


あー、これ長くなるやつだわ。うん、今日はミルクティーの気分だな。


「お菓子はクッキーでいいか?」


「ソウジがものなら何でも美味しい。文句を言う奴は誰だろうとぶっ殺す」


「珍しくロゼが上機嫌なところ悪いけど、このタイミングでその言い方はちょっとどうかとお姉ちゃん思うよ?」


「………そんなことを思いつくお姉ちゃんの方がどうかと思う。でもティア以外に血を吸わせないというのならそっちもありかもしれない。ついでにあれがどんな味かも気になる」


そういえば少し前にティアが『魔力というのは微量ながらも血液以外の体液にも含まれておるから気を付けるのじゃぞ』とか言ってたな。あとそれは一般論であり俺みたいな馬鹿みたいに保有魔力が多い奴は理論的に言えばそれに含まれる魔力も濃くなるとかなんとか。


「血液だろうが体液だろがティア以外の吸血鬼には絶対に吸わせる気はないから、さっきお前らに渡した人工血液で我慢するか他の奴ので我慢しろ。ってことでお前ら二人はお茶でも飲んで少し黙ってろ」


「おい待て。なんで会話を途中でぶった切ったアンタが『やれやれ』みたいな感じ出してんだよ。どう考えても原因はアンタだろ」


「………ああ、覚えてるぞ。それがどうここの従業員と繋がるんだよ?」


「コイツ、人のことを無視してお茶を入れたりなんだりで潰した数分間を無かったことにしやがったぞおい」


「………………」


んー、入れ方はリアに教えてもらって完璧なはずなんだけどやっぱり全然違うな。朝自分で入れて飲む時はまだ頭が働いてないせいもあってあんまり気にならないけど、ストレートティーだったら飲めたもんじゃなかったかもしれねえな。


「チッ、この国の王貴族が横暴だったのはついこの間始まったことじゃねえんだよ。つまり奴らが気に入った女子供を誘拐してくるなんてことも日常茶飯事」


「なるほど。そこで初代の出番ってことか」


「そうだ。最初の方は仲間が全然いなかったり各国との繋がりがなかったせいでそんなに多くの人達を助け出すことが出来なかったものの、そういった情報が入り次第秘密裏に連れ出して……ってのをアンタがこの国を乗っ取るまで俺達はずっと続けていた。もちろんそこの二人もだ」


今二代目が『そんなに多くの人を』云々という部分の詳細を濁して喋ったが、恐らく助け出した後のことを考えて何人までなら保護できるかとかを入念に計算したうえでそういった行為を行っていたのだろう。


もっというと途中からは違ったのかもしれないが、少なくとも最初の方は出来るだけこの娼館・男娼で働いてくれそうな奴らを優先的に助け出していた…とかな。


「当時は安定した収入を得る方法や伝手が全然足りなかったんだ。こればっかりは昨日みたいに文句を言われる筋合いはないからな」


「別に俺は何も言ってねえし、自分達でそれが正しいと思ってやったのなら一々反応してんじゃねえよ」


まあだからって何でもかんでも許すわけではないし、コイツらが取った作戦も人によっては納得いかない人もいるだろう。しかし少なくともこの件に関していえばそれも一つの方法として間違いではなかったのではないかと個人的には思う。


何故ならコイツらは目先の犠牲者全員ではなく、数年、数十年先に出るかもしれない犠牲者を当時よりも出来るだけ多く助けることを選択しただけだからだ。それで全然仕事をしてなかったってんなら話は別だけど。


………絶対にあり得ない話だがもし今の話を聞いて、数年、数十年先にいるかも分からない犠牲者の為に見て見ぬふりをするとか(笑)なんてことを俺に言ってくる日本人がいたのなら、ルナじゃないが『お前の体の中は血液の代わりにグラブジャムンの汁でも流れているのか?』って聞きたいけどな。


「ふん。こっちはその道のプロなんだからアンタみたいなガキに言われずとも分かってる。念のためだ、念のため」


「さいですか。だったら早く採用基準を教えてくださいな」


「採用基準については初期から現在まで変わらず、本当にこの業界でやっていきたい奴だけというのが決まりだ。だから助けてやったことを理由に脅したりなんてことは一切していないし、仕事がないからという理由からここで働こうとする奴らが出てこないよう毎回面接もしている。まあ流石に俺達に嘘を見抜く魔法なんてものはないからそれも完璧とまでは言えないだろうけど、他国との繋がりを使ったりして仕事の紹介もしてるから大丈夫だとは……思う」


「これは全部ホント。レオンが利益に走ってセコイことをしないよう面接の時はこっそりお姉ちゃんと監視してたから大丈夫」


この双子、絶対何かぶっ飛んだ能力を持ってるぞ。


「ソウジちゃんが私達の何を知りたいのか簡単に予想が付くけど、まずは自分のお仕事を片付けない限りは教えてあ~げない♪」


「………次の質問だが、どうやって娼婦・男娼に客から色んな情報を聞き出してたんだ? いくらこういう場だと口が軽くなる奴が多いとはいえ素人にそれを狙ってやらせるのは難しすぎるだろ」


「最初はそうかもしれねえけど基本客と喋ることが仕事だからな。新人には見習い期間を設けてそこら辺のスキルは全部叩き込んでから出すようにしているし、この双子みたいな暗殺や情報収集を得意とする奴らを使って潜入調査なんかもさせてるから結構簡単に手に入るぜ。つってもあんまりやり過ぎて折角出来た繋がりを切られたら嫌だから必要最低限って感じだけどな」


「とか何とか言いつつこの店にきた客からは毎回吐けるだけ吐かせてるけどね~」


「それは鴨葱が悪いし、別に聞き出したところでこっちは知らないふりをしとけばなんの問題もない」


鴨葱ってもしかして鴨が葱を背負ってやって来るの隠語的なやつか? まあこの世界にそんな言葉存在しないだろうからバレないだろうし、どうせ初代が考えたんだろうけど。他国と仲良くしたいとか言っておきながらバリバリ煽ってんじゃねえか。


「取り敢えず知りたいことは全部分かった。次は娼婦と男娼の面接を俺がするから一人ずつここに連れてこい。んで少しでもこの仕事を辞めたいと思ってる人がいたのならそいつは問答無用で俺が全員貰ってく」


「はいはいはーい! 私はここでの仕事を辞めてソウジちゃんの所で働きたいでーす‼」


「私も貰われる」


「お前ら二人のことは知らん。そんなにうちにきたければ直接ミナの所に行って面接してもら―――ってもういねえし。どんだけお前嫌われてんだよ」


「元々あの二人は人助けの為に暗殺家業をやってたところを俺と兄貴が当時のこの国の非情さを盾にして仲間に引き込んだもんだからな。このままここにいてうちの従業員だけを守るんじゃなく、お前の所に行って他の人達もって気持ちがあるんだろ。あとは……お前に何か可能性を感じたのかもな」


「ははは、俺に可能性? そいつは随分と見る目があるじゃねえか。一体どこまでついてこられるのか今から楽しみだぜ」


「それが本心ならとんでもねえ狂人だし、ハッタリなら相変わらずの百面相ぶりだし。どっちにしろこんな奴俺は二度と敵に回したくないね」


残念ながら俺は不思議の国のアリスに出てくる帽子屋でもなければ怪人百面相でもない、他人から与えられた力や知識を駆使して自分の気持ちすら欺いているただの無能なペテン師だよ。


なんて普段は心の奥底に沈めこんで意識しないようにしていたことをふと思い出しながら、早速俺は面接を開始することにした。

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