第156話:宗司を気に入った理由
それから俺は二代目に中へ入るよう勧められたのでさっき適当に拾った木の棒を投げ捨て、後ろをついて行くと俺の両脇を双子の姉妹が挟む形で一緒に歩いてきているが……まあ二人とも一定の距離はあけてくれてるし取り敢えず無視しよう。
とか考えながら何も考えずにボーと娼館へと一歩足を踏み入れた瞬間、ズラッと横二列に並んでいたヤクザどもが昨日と同じく一斉に頭を下げたかと思えば今度は声を揃えて
「お疲れ様です兄貴‼」×50
「………総勢50人の舎弟がいるとか凄いなお前」
「ソウジちゃんにはウチが男に見えるなら今すぐ病院に行った方がいいよ。あとウチは双子の姉だから」
なるほど、こっちが姉か。
「………総勢50人の舎弟がいるなんて凄いな妹」
「どう考えてもコイツらは今ソウジに向かって挨拶した。あと私の名前は妹じゃなくてロゼ。ついでにお姉ちゃんの名前はリゼ」
なんか姉の方が『ついでって何よ、ついでって⁉』とか言ってるけど、その前に君達名前と役職がミスマッチ過ぎないか?
だって地球でリゼっ言ったら冷やしても濁らず美しいマホガニー色を楽しむことが出来るリゼ・ティー、ロゼっ言ったらピンク色が綺麗なロゼワインだぞ。しかもロゼに関しては確かフランス語でバラ色って意味だったよな。
100歩譲ってロゼは妹みたいな無気力キャラよりも軽い感じの姉の方が合ってるだろ。何ならどっちも城にあるから実物を見せて改名を勧めてやろうか?
……というのは冗談として
「昨日も思ったんだけどよ、ここってヤクザの事務所とか組長の家とか以前に娼館・男娼のはずだよな? なんで用心棒はいても従業員はいねえんだ?」
「今は全員自分達の部屋で待機を命じさせておりますのでソウジ様がご所望とあればスグに呼んで参りますよ。もちろん希望などがございましたらお聞きしますし、料金等は一切不要です」
「別にこの後少し確かめたいことがあるから聞いただけだから呼ばんでいい。というか絶対に呼ぶな。あといい加減その気持ち悪い喋り方を止めろ」
「だったらまずはこの部屋に入らせろ。昨日からどこぞの馬鹿が魔法で頑丈な結界を張ったせいで自分の部屋に入れないは、中の様子が現在進行形で見えないからいくら説得しても納得しない奴らがいるわで大変だったんだぞ」
………あー、そういえば昨日は直接病院に飛んだ後あんまり触れられたくないことを婆ちゃんに気付かれたってのもあって完全に忘れてたわ。そのまま三限の授業に出たり、地下にある工房に一人籠って村正・村雨用の新しい鞘を作ってたのは覚えてるけど。
ちなみにイメージとしてはリアが持っていたものよりもっとごつく、なんかガ○ダム (ガ○ダムとか一切知らんけど)に出てくるロボットが持ってそうな鞘を二つ作ってそれを一つに繋げたものなのだが、普通に難しすぎて途中で発狂した。でも今回は自分で作ってアベルに自慢したいので絶対にティアに頼む気はない。
「ちょっと昨日の続きやりたくなってきたから帰っていい?」
「ふ・ざ・け・ん・な。なんの続きがやりてえのか知らねえけどせめてこの邪魔な結界を外してから帰れ」
そう言いながら二代目は凄いスピードで俺の前に回り込んできて帰り道を塞いできたので冗談だと言おうとした瞬間、さっきまで横にいたはずのロゼがいつの間にか俺達の間に割り込んでいただけでなく
「ソウジは帰ると言った。レオン邪魔、退ける」
「………………」
「おっ? おおっ? なになに、もしかしなくても久々に私達と殺り合っちゃう感じ? 別にウチは何時でもいいよ♪」
なに勝手に殺し合いを始めようとしてんだお前ら。確かに万が一のことを考えて輸血パックを口の中に突っ込んだとはいえ、わざわざ自分達から殺り合えなんて俺は一言も言ってねえぞ。
「ほら、結界を解いてやったから早く中へ案内しろ馬鹿。あとさっきのは冗談だから間違っても両袖の中にある仕込み刀を出すなよ、ロゼ」
「分かった」
「え~、実はウチさっきからずっと欲求不満だったから内心凄くワクワクしてたのになぁ」
などと色気もへったくりもないことを言いながらリゼが折り畳み式の自分の身長よりもデッカイ鎌をペン回しをする要領で一回転させて服の中へと仕舞ったのを受け、二代目は一度舌打ちしてから
「あの馬鹿三人はまだしもお前ら二人までソウジ相手にお礼参りしに行くって言いだした時点で絶対におかしいとは思っていたけど、まさかここまで気に入っちまうとか完全に読み違えたぜ。無理やりにでも待機を命じるべきだった」
「ソウジが私達より強かったのはもちろん、お前らみたいにワンチャン? みたいな感じが一切しないのがいい。というかそこが一番気に入った」
「まあでもここまであからさまにされちゃうとウチらみたいなのは少しやりにくいんだけど、すぐに慣れるだろうからソウジちゃんは何も気にしなくていいよ」
この二人がなんのことを言っているのか少し分からないところもあったがなんか褒められてる? っぽいから引き続きポーカーフェイス魔法を使って黙っとこ。
………いつからその魔法を使っていたかって? そんなのここにきて喧嘩を吹っ掛けられた時からに決まってんじゃん。だって魔法を一切使わず殺気のみであの五人を出し抜いたとか真っ赤な嘘だし。あらかじめ魔力を感知されないよう細工していただけでバリバリ魔法を使ってそれの度合いを調節をしたり、動かしたりしてたし。
というかそんな高等技術ティアくらいしかできないっつうの。
「ふん、勝手にしろ」
どうやらワンチャン云々というのが図星だったらしくこれ以上突っ込まれないようにするためか、そんなことを言いながら部屋の扉を開けたのだが
「――――ッ⁉ なんばごのにうぉいわ? だれがあやくなんどかじろ。(なんだこの臭いは? 誰か早くなんとかしろ)」
「うーわ、想像以上に部屋中血だらけ。レオンの話じゃ後頭部を思いっきり蹴られた後、死ぬギリギリの強さで踏んづけられたって言ってたけど本当にそれだけだったの? 実は記憶がないだけで体中切り刻まれたんじゃない?」
「多分暖房がつけっぱなしだったり血液をそのまま放置してたせい。それからここまで酷いといくら綺麗に掃除しても染みだったり臭いが中々消えないのは想像に難くない」
「………………」
なんだその『お前のせいでこうなったんだから責任持って掃除しろよ』みたいな目は。どう考えても悪いのはお前だろうが。
「いっどぐげどおでのぞうじだいごうザービズはめだぐじゃだがいがらがぐごじどけよ。(言っとくけど俺の掃除代行サービスは滅茶苦茶高いから覚悟しとけよ)」
「チッ、グダグダ様子見なんかしてないでまだアンタが魔王になる前にこっちから交渉しに行くべきだったぜ」
「…………っぷはーーー。ほら、綺麗にしてやったぞ」
うーわ。一応時間を巻き戻して綺麗にしたとはいえこのソファーもさっきまでは他人の血だの脂だのがべっとり付いてたと考えると気持ち悪いな。なんか体がムズムズする。
とか何とか思っていたものの他の三人はそんなことお構いなしに各自好きなところに座りだしたので一人心の中で、家に帰ったら速攻で今着てるもの全部洗濯しようと誓った。
「それで、結局アンタはなんの話がしたくて今日もうちに来たんだ?」
さっきまでのどこか友達同士の雰囲気みたいものを一瞬で消し、真面目な声でそう二代目が聞いてきたのでこちらもこれ以上はふざけるわけにはいかないと意識を仕事モードに切り替え
「まずはいくつか質問だ。これに関してはかなり重要なことだから少しでも誤魔化そうとした瞬間……」
「俺に答えられることなら何でもどうぞ」
その言葉を聞いたと同時に俺が使える魔法の中で二番目に使いたくないと思っているものを初めて発動させた。
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