第158話:無能の可能性

あれから俺は一人ずつ部屋に呼んで面接をしようかと思ったのだが、一々そんなことをしていたら日が暮れてしまうということで一番広い部屋に娼婦・男娼を全員呼び出し、引き続きここで働きたいかどうか質問。


そこから俺が嘘を見抜く魔法を使い真偽の確認をし本当は働きたくないのに……みたいな人も含めこの仕事があんまりという人達が合計で20人いたためその人達と一対一で面談。


その結果この店に来てくれる客と話すのは好きだけど……というのが14人。この仕事自体は辞めたいけどその後働く場所がという人や、辞めたはいいものの客に顔を覚えられてる可能性があるから他で働くのが怖いという人達が6人という結果になった。


なので俺は最初の14人に関しては後で二代目と相談してそういった店を出せるようにすること、他の6人に関しては顔バレを防止すること自体は簡単だからどんな仕事をやってみたいのか少し考えてみてくれということにプラスして、次の仕事が決まるまでは俺が20人分の生活費等を出すから取り敢えず今の仕事は休んでいいと伝えた。


その際隣に座ってた二代目は勝手に話を進めるなと言わんばかりの不機嫌さだったが仮決定とはいえ今後は国がこの店を経営する方針で話がまとまっているのでその件で口を挟んでくることはなかった。ちなみにここまで話を進めているのに仮決定な理由としてはこれは完全に俺の独断でありミナ達にはまだ話していないからである。


まあ昨日のことも含めて全部話せば普通に許可してくれるだろう。そう思っていたのだが………。






「駄目です」


「………え?」


今日の会議は昨日ミナのところへ面接を受けに行ったリゼ・ロゼの二人を採用することに決めたとのことだったので今後の配属先や主な仕事内容を話し合うというものだったためそんなに時間も掛からず終了。なので丁度いいしと二代目のところの話をしてちゃっちゃと許可を貰おうと思っていたのだが、この会話の結末は俺の予想とは全く違った方向へと進もうとしていた。


「私もこの国にそういったお店があることは昔から知っていましたし、マリノ王国の姫として自国の情報がそういった場所で流失しないよう色々と注意もしていました。しかし少なくともこのお城に住んでいる方々は全員そういう場所に行かないことは分かっていましたし、騎士団の方はあらかじめソウジ様が対策していたようなので敢えて今日まで黙っていましたが……やっぱり駄目ですね」


「なっ、なんで? なんで駄目なんだよ!」


「質問に質問で返すようで申し訳ありませんが逆にソウジ様はなんでだと思いますか?」


なんで? なんでだ? 考えろ、答えが分からない以上それっぽいやつを兎に角捻り出せ! ミナに失望されないうちに早く、早く、早く‼


「えっと、国が堂々とそういった店を経営するとなると………」


違うこれじゃない‼ チッ、今のは言葉を引っ込めるのが遅かった。次はもっとミナの表情に集中してゆっくり、言葉を繋ぎ繋ぎにして答えっぽいやつを導きだ―――


「一々人の顔を窺いながら喋ろうとしない! ソウジ様はこの国で一番偉い人であり、これは失敗の許されない外交でも何でもなくただの会議なんですからそうやってビクビクしてないで自分が思ったことはそのまま堂々と喋りなさい!」


「―――――ッ⁉」


「それとさっき私が駄目と言った途端ソウジ様は凄く自信なさげな感じになりましたけど、自分が正しいと思って今回の提案をしたのなら私達がどんなに反対したとしてもその意見を絶対に覆してみせるくらいの勢いで自分の意見を言いなさい!」


「………………」


確かに俺は今回の提案に対して何一つ間違っていないと思っている。思っているからこそ堂々とミナとマイカの前で全部話したし、昨日の20人には任せておけとまで言ってきた。しかしこれはミナ達に否定されないという後楯があってこその自信であり、それがすっぽり抜けてしまったどころか敵に回ってしまった状態で自信を持ってなんて絶対に無理だ。


だって俺が死ぬ気で頑張っている一番の理由はこの世界の人達のためでもなければ、この国の国民のためでもない。この城に住んでる人達に、ミナ達に見捨てられないようにするためなのだから。






その後何も進展がなかったどころかミナはマイカを連れて部屋を出て行ってしまった。その際マイカが『もしこのまま何もしないのなら私が全部貰っちゃうよ?』などと意味の分からないことを言っていたが、そんなことよりも自分はこのまま見捨てられてしまうのだろうか? という不安の方が大き過ぎて全く頭が回らなかったのはもちろん、どうやって自分の部屋まで帰ってきたのかさえ曖昧である。


そんなことを思い出しながら無意識のうちに潜り込んでいた布団の中で体を丸め、そのまま眠りにつこうとした瞬間……誰かがこの部屋の扉を開けて入ってきた。


この足音は…ミナだな。


「あーあ、こんなに服を脱ぎ散らかしちゃって。ふて寝する前にちゃんと着替えたのは偉いですけど、このままだとシワになっちゃいますよ」


昔はよくまだ着る服でも脱いだら床に投げ捨ててっていうのをよくやってたけどこっちに来てからは一回もやってないし、やらないように気を付けてたはずなんだけど。自暴自棄一歩手前ってか?


「………よしっと。全部シワにならないよう椅子に掛けておきましたから外に出る時はちゃんとこっちに着替えてから、もう着ないのなら寝る前に洗濯に出しておくんですよ」


昔は自分の洗濯物をリアに運ばせていたお姫様も今となってはしっかりもののお姉さんみたいな感じでそう言ってくるとそのままベッドに端に座り、俺の脇腹の上に自分の手を優しく乗せた後


「まずはなんのお話からしましょうか? ソウジ様には教えてあげたいことや褒めてあげたいこと、逆に怒りたいことなどなど一杯ありすぎて困ってしまいますねぇ」


「………………」


「ここはやはり一番大事なことから話すべきですかね」


「………………」


「まず大前提として少なくともこのお城に住んでいる私達がソウジ様を嫌いになることは絶対にあり得ませんし、もしそういったことになりえる人がいたのなら私が一番最初に行った面接の時点で落としています。そしてあなたが何やら一人で計画を進めていること、それの成功とともに発生し得ることに対する不安が日に日に増してきて今ではそれを抱えきれなくなりつつあることを私は気付いています。……もちろん他の方々もですが」


今自分だけいい顔しようとしたぞこのお姫様。……まあそれだけ己の気持ちを押し殺して生きることが当たり前の王族からただの女の子になりつつあるってことでもあるんだけど、元が良い子ってこともあって結局正直に白状するところは可愛い。


「………………」


「そもそも私達が初めてソウジ様と出会ったあの日、見ず知らずのあなたに、しかも一国の王女自ら助けを求めた時点でそれだけシラサキ・ソウジという存在を逃したくなかったという思惑があったのはもちろん、勇者様を軽く超える程の力を持っていることを知っても尚こちらから協力を申し出て、次の日には告白してる時点で少なくとも私達三人は何があろうとも絶対にあなたと一緒にいるという、あなたが間違った方向へ進もうとしたのなら何が何でも止めてみせるという覚悟は決まっていたんです。たかだが身内同士の会議で意見が食い違ったくらいで私達がソウジ様の傍から離れていくわけないじゃないですか」


「………………」


「それにソウジ様が『立場なんて関係なしに言いたいことがあれば堂々と言え』みたいなことを色んな人に言っている一番の理由、それは今よりももっといい環境を整えられるように…ですよね? だったらあなたが正しいと、これをすればもっと良くなると思ったことがあったのなら一々人の顔色を窺って駄目そうだったらすぐにそれを取り下げるなんて絶対にやっちゃ駄目です」


「………………」


「時には周りの人達全員を敵に回したとしても絶対に成功させて見せる。それくらいの気持ちがないとこの先国王なんてやっていけませんし、それが出来るようになってようやく普通の国王です。ですが私達の旦那様はそんなところで伸びしろがなくなってしまう程のお方じゃありませんよね?」


「…………当たり前だ。俺はこの世界のためでもなければ、国民のためでもない。ただただ自分の周りにいてくれる大切な人達のために国王になった男だぞ。例えこれ以上伸びしろがないと言われようがお前らを守るためなら無理やりにでもそれを引き延ばして成長し続けるに決まってんだろ」


それに馬鹿は他の奴に比べて脳みそに空きが一杯あるから知識を詰め込もうと思えば案外簡単にそれが出来るのと一緒で無能も可能性の塊だからな。


前者は他人から与えられた知識を、後者は他人から与えられた力を駆使すればそこらの奴らより簡単に上へ行けるのはもちろん、その両方を持ち合わせた俺がこの世で一番になるなんてこと余裕過ぎるっつうの。


「ふふっ、それでこそ私達の旦那様です。でもこれからは一人で抱え込んだりしないでちゃんと誰かに相談しなきゃ駄目ですよ?」


「………………」


「はぁー、ようやく喋ってくれたかと思えばこれですよ。まったく」


そこで喋るのを止めたミナはいきなり布団を引っぺがしてき、俺のことを無理やり起こした流れで自分の両手で顔を挟み込んで半強制的に目と目を合わせた状態へと持っていかれ


「自分から私達の誰かに相談してくれなきゃティアさんに頼んで強制的に心を覗いちゃいます。それが嫌なら今から出す二つの宿題を来週の金曜日までにやってきなさい」


そう言い終えた後ミナが出してきた宿題というのは以下の二つであった。


① なぜ俺は二代目に対してあそこまでの怒りを覚え、死ぬギリギリまでボコボコにしたのかを振り返ってみてそこから分かったことをミナに教える。


② 来週の金曜日にこの国の代表を集めて今ある娼館をどうするか話し合うから、どうしてもこのまま運営を続けさせたいのならみんなを納得させられるような意見なり案なりを用意してくる。

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