第十三章

第146話:イチゴ狩り

二日前に行われたスロベリア主催のパーティーで素晴らしいプレゼンを行った後、神業のごとく完璧な手際でティアと入れ替わって今回も無事ダンスを踊らずに乗り切って見せた俺は次の日も朝からキッチリと仕事をこなし……ついに迎えました学生時代最後のGW初日‼


そんな貴重な休日の一日目をいかがお過ごしかといいますと


「サキ兄ぃ、今度はあの屋根に赤いランプがついてて五月蠅い車に抜かされたです! 早くさっきみたいに抜かし返してです‼」


「ソージ兄ぃ、今度は140キロくらい出して~」


「お兄ちゃん、早くしないとあの車を追い抜けなくなっちゃう! もっとスピードを上げてです‼」


などと後部座席から無茶苦茶なことを言ってくれちゃってるリーザ・サラ・アリスの三人と


「どうやらあの白黒の車はソウジ様にとって都合の悪い存在のようですし、休憩も兼ねてお茶をどうぞ」


と、助手席にお行儀よく座りながら運転者に対する完璧な対応をしてみせるエレナの計四人を自分の車に乗せて高速道路を走っております。


「あの白黒の車はパトカーっていって騎士団みたいな仕事をしてる人達が乗ってて、今はスピード違反をしてる悪い車を捕まえる為にあんなスピードで走ってるわけで、それを抜かしたら俺が捕まるっつうの。………お茶ありがとう」


「ちなみに何キロ以上出すと捕まってしまうのでしょうか?」


「えーと、確か最後に見た標識には100って書いてあったはずだから…101キロだな」


などと特に何も考えずに答えてやると質問をしながら水筒の蓋を締めていたエレナの手がピタリと止まり、そのまま怒った時のリアみたいな雰囲気を出しながら


「先程までは何キロで走っておられたのでしょうか?」


「………………」


「お、お菓子食べるです?」


「う、うちはグミを持ってきたから二人にも分けてあげる」


「私はクッキー! クッキーがあるですよ!」


おいー、さっきまで散々人のこと煽ってたくせに危険を感じた途端三人して知らんぷりはねえだろ。まったく、うちにそんな薄情な人間は一人もいないってのに一体誰に似たの?


「黙っていては何も分かりませんよ、ソウジ様」


「ひゃ、120キロくらいかな~、……というのは嘘でMax130キロまで出してました」


「普段ルールを破った者に対して厳しい処罰を下している、下す立場にあられるお方が―――――」


それから、30分以上にも及ぶリアそっくりのお説教が続いた後『このことはリアーヌ先輩にも報告させていただきますので』という今年一番恐ろしい宣告を受けてしまった。






「以上のことに気を付けて、30分間という短い時間ではありますがみなさんお楽しみください」


イチゴ農家のおじいちゃんによる説明が終わり、隣にいた奥さんらしき人がビニールハウスの扉を開けると…今か今かと待ち望んでいた子供達が元気よく中へと入っていた。


もちろんそんなことをしてるのは他所のお子さんであってうちの子達はメイドの性なのかお行儀よくある程度人が減るのを待っているどころか


「イチゴは一杯あるんですから小さい子供みたいに突撃しようとしないの」


「確かにイチゴは沢山あるかもしれないけど時間は30分しかないんだぞアリス。ということで今すぐその手を離せ」


「30分もあれば十分な気がするですけど、サキ兄ぃは一体何個イチゴを食べるつもりなんです?」


「これじゃあどっちが保護者か分からない」


おいおい、言ってくれるじゃねえかサラちゃんよ。君がおじいちゃんの説明中にコッソリ練乳を指につけて舐めてたことは知ってるんだぞ。しかもその瞬間スッゴイ目を輝かせてたし。


エメさんの教育の賜物なのか俺以外にはバレてなかったみたいだけど。


「あんまり羽目を外すようでしたらこのこともリアーヌ先輩に報告しますよ」


「ちょっと待って、いえ待ってくださいエレナさん。それだけは本当に勘弁してください!」


その後も最近お姉さん面するようになってきた四人を相手していたら何故かイチゴ農家のおじいちゃんがこっちに近寄ってきたのを見て


(いくら見た目17歳のままできたとはいえ薄色のサングラスをかけてる男がJC四人といるのは流石に怪しまれたか?)


などと考え咄嗟に魔法で誤魔化そうかと思った瞬間、その人は態々子供達と視線を合わせるために少ししゃがんだ後…優しい顔で


「他のお客さん達の為に最後まで中に入るのを我慢してくれてありがとう。お陰でみんな入れたみたいだからお嬢ちゃん達も中で一杯イチゴを食べておいで」


言われるまでそのことに気付いていなかったのか四人は一瞬ポカーンとした後、周りをぐるっと一周見回したかと思えばこれまた四人揃って


「「「「は~い♪」」」」


と元気よく返事し、本人達はバレていないつもりなんだろうが完全に早歩きでビニールハウスの中へと向かって行った。なので一人残されたあの子達の保護者こと俺は一旦サングラスを外し、お礼を伝えたところ


「いやいやとんでもない。逆にお礼を言いたいのはこっちの方ですよ。最近は私達が説明している間も平気でスマホを弄っている人や、いい大人が誰もいないビニールハウス内の写真を撮りたいがために我先にと突撃して行く人などが多くて……。逆にあそこまで礼儀正しいお客さんは久しぶりですよ」


「例えどんなに短い時間でも我慢できなくてすぐスマホを見ちゃうとか、イチゴの写真だけを撮って食べないってのは聞いたことがありますけど最近はそんな人もいるんですか? 自分が昔きた時はまだガラケーだったてのもあってそんな人は一人もいなかったと思うんですけど」


「別にガラケーが主流だった時代には一切迷惑行為がなかったっというわけではありませんが、明らかにそれが増え始めたたのはここ最近のことですからね」


その後も昔は持ち帰り禁止だと言っているのに持って帰ろうとする客がよくいたのに対し、逆に今はその場で写真を撮ったら捨てる人が増えただの、昔は我先にと中へ入ろうとする客がいたのに今は写真を撮るために入ろうとしない・入らせようとしない人が増えただのという話を聞かされた。


約10分間もな‼


まあこういう話を分かってくれる若者が中々いなかったからつい嬉しくなっちゃってってのもあったんだろうけど。


その証拠に途中で奥さんが俺達の間に入ったら正気に戻ったらしく、おじいちゃんが謝りながら『もしあれでしたら今からの時間+次のお客さんと一緒に~』って言ってくれたし。


だがそれをしてしまうと子供達が途中でお腹一杯になったり、飽きてしまう可能性があったのでそのことを伝えた後に


『馬鹿共が地面に捨てた、でもまだ普通に食べられるイチゴをください』


と返したところ、何でもそういう客対策であらかじめ中にそれ用の籠が等間隔で設置してあるらしく今いる人がいなくなったらそこから好きなだけ持っていきなと言われた。


いやなにその籠。マジでこの国の人間どうなってんの?


なんてちょっと意識高い系みたいなことを考えながらビニールハウスの中へ一歩足を踏み入れると…すぐにイチゴの甘い香りが感じられ、正直そんな馬鹿共のことなどどうでもよくなりました。はい。






その後俺達は奥さんから貰ったビニール袋一杯にイチゴを詰め込んでからお礼を言いに行ったところ呆れられるどころか『そんなに持って行ってくれるなら』とジャムの作り方まで教えてくれたり、最後には二人揃って駐車場までついてきて『また来年も来てね』と温かく見送ってくれた。

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