第145話:いったいいつから○○○○○○いないと錯覚していた?

「んで、結局何しに来たんだよ。生憎ミナ達は朝から街に買い物に行ってるし、子供達もセレスさんと一緒に遊びに行ってるから当分の間は帰ってこないはずだぞ」


「あらかじめ息子から許可を貰っていたとはいえ、その留守宅に私が勝手にお邪魔していることに対して何も言ってこない理由が知りたいのもあるがそれは一旦置いておいて……まずは昨日のスロベリア奪還作戦だけでなく旧クロノチアでの今回の件に関する鎮静化までやってくれたのはかなり助かった。本当にありがとう」


「本当にありがたいと思っているならこの後数日以内に行われるであろうパーティーにうちのメンバーは全員欠席でお願いしたいんだが」


というか絶対にその話をしにきただろ。ってことでいつも使ってる手帳でも準備しておこう。


「今回一番活躍した者達であり、今回開かれるパーティーの主役が欠席なんて無理に決まっているだろ。特にお前はな。ということで今週の金曜までで空いてる日を教えてほしいんだが」


ほらな。


「はーあ、今のところ俺の予定が空いてるのは木曜か金曜だけど…って、あれ? いつの間にか今週の木曜から日曜まで全部休みになってる」


まあこんな予定を勝手に入れられるのは俺の秘書であるマイカしかいないんだけど。……知らなかったってことで無視するか。


そう思い木曜か金曜どっちが気持ち的に楽かを真剣に考えようとした瞬間、背後からただならぬ気配と共に


「すみませんがソウジ君は先ほど自分でも言ってた通り日曜日までお休みの予定ですので、どうしてもパーティーに参加させたいのであれば来週の月曜日以降でお願いします…ね? ブノワ陛下」


「いや確かに私も息子に休みを取らせてやりたい気持ちは君達と同じなのだが、こっちとしては出来るだけ色々と進めておきたいことがあってだ―――」


「お父様が言う進めておきたいことというのはこの間うちで開いたパーティーにワザと連れてこられたゴミ共ではなく、本来来られる予定だった貴族達との顔合わせ+商談等の話といったところでしょうか? もしそうなのでしたらソウジ様が初主催のパーティーでゴミ掃除を押し付けてきたそちらの責任ですので私達が態々そちらの予定に合わせる筋合いは全くと言っていい程ないと思うのですが」


「あれはいくらこっちが説明しても納得しない層を一掃するために仕方なくやっただけで、本当は途中で総入れ替えするつもりだったのに息子が勝手に家出したから……」


あの時一人も真面な奴がいなかったから薄々そうなんじゃないかとは思ってたけど、やっぱりそうだったか。……結果的にはいい勉強になったのと感謝してくれた人達がいたからってことで敢えてこっちから聞くつもりはなかったんだけど…面と向かってネタバラシされるとイラッくるな。


つっても今回の件に関しては今話に上がっているパーティーまでが計画の中に入ってるわけだし、早ければ早いほどいいのはこっちも同じだからな。そろそろ助け舟を出してやるか。


「今回ばかりはご主人様が何と言おうと絶対に譲りませんからね」


「……まだ何も言ってないんだけど」


「こんなものを二日連続で飲んでまでして学校や仕事に向かわれている方の考えなど簡単に分かりますし、何より私達がこの部屋に入ってきたことにすら気付けないまでに疲れている方をこれ以上働かせるなど専属メイドとしても、貴方の婚約者としてもさせるわけにはいきません」


あれ~、その栄養ドリンクの空き瓶は二本ともティアに頼んで隠ぺいを頼んでおいたはずなんだけど……これは完全に嵌められちゃったみたいですね。


「別に栄養ドリンクなんてこの世界でいう疲労回復魔法みたいなもんなんだから、そんなに怖い顔しなくたって―――」


「言っておくけど私達が目を瞑ってただけでここ一週間ソウジ君が毎日それを飲みながら勉強だったり仕事をしてたのは勿論、実際はカフェインの効果を使って数時間の間だけ無理やり自分の脳を誤魔化す飲み物だってことを知ってるんだからね」


「そもそも本当はソウジ様にそんな危ないものを飲んではほしくなかったのですが、どうやっても疲労回復の魔法が効かないのと…学生と国王の二重生活を送るにはそれしか方法がなかったので私達が細心の注意を払う形で今日まできましたが、午前中の仕事で今回の件について一段落した以上は何がなんでも休んでもらわないと困ります」


全部バレてたのね。


「ということですので、どうしてもご主人様を主役にしたパーティーを開きたいのでしたら早くても来週の月曜日以降になると皆様にお伝えください。もちろん事情を説明する際には大学のことは伏せて…ですよ」


今はどうなのか微妙なところだが少なくとも数ヶ月前までは自分の雇い主だったはずの相手に向かって脅すかのようにリアがそう言うと、ブノワの親父がダメ元でなんとかならないか? みたいな顔をこちらに向けてきたので無言で首を横に振って返したところ


「まったく、我が娘達ながらいい男を伴侶に選んだものだ」


百歩譲ってリアは分かるけどいつからマイカまでアンタの娘になったんだよって感じだけど、本人達はそんなことよりもまずは言葉の意味が分かってないみたいだな。


まあ間違いではないような気もするしどうでもいいか。


一人そう思っていると大人しく諦めて帰ることにしたのかブノワの親父はソファーから立ち上がり、この部屋の扉に向かって歩き出したので見送るために俺もそれに続こうとした瞬間その人の手が自分の頭の上に優しく乗せられ


「今回はよく頑張ったなソウジ。……お互い立場というものがあるせいで中々ハッキリと褒めてやれないだろうけど、私とレオンは表に出さないだけでちゃんとお前のことも見てるから、何かあったら何時でも相談しにこい」


「そうか。なら最初にも言った通り俺達がパーティーに参加せずに済むよう出席者を説得しといてくれ」


「流石にそれは無理な相談だ。ということで私はそろそろお暇させてもらうよ」


俺の冗談と見せかけてマジなお願いを軽く受け流した親父はそう言いながら、これ以上何か条件を付けられる前にと逃げるようにマリノの城へと帰って行った。






それからの数日は母さん達が例の賞状を見に来た以外は特に変わったこともなく、基本休日中は家の中で過ごすという少し前までは当たり前だった半引きこもり生活を送っていたらあっという間に約束の祝勝パーティーの日がきてしまった。


その為渋々ながらも宗司・ティア(専属メイド)・ユリー(護衛)の三人と、ミナ・リア(専属メイド兼婚約者)・アベル(護衛)の三人という合計六人がヴァイスシュタイン王国からの出席者としてスロベリア王国主催のそれへと参加させてもらい、今はうちの国では既に全国民が使っている家庭用台所・水洗トイレ・電気の説明。


またそれらを次は旧クロノチアの国民を対象に普及させていく予定ですので、その後の経過を見てそれぞれの国にでもこれを採用するのかしないのかお考え下さい…といった内容のプレゼンをし終えたとこである。


ちなみに残りの婚約者であるセリアとマイカはというと、二人とも俺が主催のものか身内だけなら気を使わなくて済むけど他所の国のは面倒くさいから行きたくないと拒否られた。


いや別に俺だってきたくてきてるわけでもなければ、この会場に入った瞬間から始まった貴族様によるご挨拶、マリノ関係者による謝罪、スロベリア関係者によるお礼などのクソ面倒な対応をしてるわけじゃないからね。


とか考えながら若干ふて腐れ始めているとまたどこかの貴族様が近付いてきた。しかも今度は若くてお綺麗な娘さんが同伴ですかお父さん。


「(もう嫌になって自己紹介とかは全部聞き流した。つかぶっちゃけ関係ないし) 先ほど行われた説明ですが、あのスクリーンとやらに映し出された資料が素晴らしかったのは勿論、ソウジ様の話し方がお上手だったこともあって警備面でのことなどお構いなしに即刻我が国にも…とお願いしそうになってしまいましたよ」


「正直あれは地球の技術を使って作った資料が良かっただけで、私の喋りはまだまだだったと思うのですがそう感じてくださったのならよかったです。………そうだ」


なんて自然体を装いながら表紙部分に『ヴァイスシュタイン王国で現在採用されている警備システムについて』と書かれているA4用紙の束を一つ手渡し


「まだ一ヶ月ちょっと分のデータしかありませんので参考になるかは分かりませんが、もしよろしければお持ち帰りください」


「そんな、このような貴重な資料を軽々と―――」


「よろしければ今から私と一曲踊っていただけませんでしょうか、リディお嬢様」


そう言い終えた後右手を差し出すと、彼女はお上品な笑みを浮かべながら『是非お願い致します』と返事をし、自分の手を軽く添えるようにしてきたのを確認し


「もしあれでしたら私達が戻ってくるまでの間にはなってしまいますがその資料の中身を読んでいただいて、何か気になる点がございましたらご質問ください。……丁度曲が変わるようですしそろそろ行きましょうか」


最後にそう言い残し、はお嬢様と共に会場の真中へと向かっていった。

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