第137話:取り敢えずは一段落

「えーと、確か人工衛星側が勝手にピントを合わせてくれるように設定したはずだから……おーい、見てるかブノワとレオンの親父。見てなかったら普通に職務放棄だけど。ってことで今から最後の後片付けをしに行くからちゃんと引き継ぎの準備しとけよ。つか三時にはそっちに迎えに行くからよろしく~」


ちなみに今の時刻は午後2時45分なので10分ちょいでクロノチアの宮殿にいる奴らを片づけなければいけないのだがスロベリアの方は宮殿内含めさっきの戦闘で既に全員片付けてあるのでむしろ余裕しかない。


余裕しかないのだが、俺の今日の予定は分刻みレベルで忙しいのでどうせ会議室で優雅にお茶でも飲みながらこの状況を見ているであろう上級層を気遣う気など一ミリもない。さぁ、慌てふためきながら自分達の部下に指示を出したり何なりするがいい!


「……どうやら引き継ぎの準備は既にできておるようじゃぞ。その証拠に『これくらいの嫌がらせなら可愛いもんだ』とブノワが言っておったり、『アンヌさん達程ではないにしろ私達もソウジ殿の父親としてある程度は彼を理解しているつもりですからね。これくらいなら簡単に想像できましたよ』とか言いながら紅茶を飲んでおるぞ。流石に朝から一緒におった者達は全員半信半疑だったようじゃがのう」


「なにっ⁉ ………ッチ、こうなったら意地でも驚かせてやる。ってことで一分で片付けるぞ‼」






そんな子供っぽい意地に他の四人を巻き込んで早速クロノチアにある宮殿の玄関前へと転移したのだが


「「「「「………………」」」」」


俺を含め五人全員が今までにないほど警戒心を、しかも瞬時に最大まで上げたってことはみんな気付いてるみたいだな。となると一回国民が見る用のモニターには適当な映像を差し替え、残りの方は俺の視界をカメラ代わりにして


「……一応どんな攻撃をしてもこの城が崩れないように魔法はかけておいたけど正直戦闘の激しさによって何分持つか分からないから気を付けてくれ。それからティアは双剣、俺は銃のみで乗り込む…でいいか?」


『まあ室内で戦う可能性を考えれば妥当じゃな。今のところ人の気配は一切感じられんとはいえこの世の中絶対はあり得んのじゃし』


『突入するメンツはどうする? 王城なだけあって広いっちゃ広いけど、流石にそれで戦闘になったらキツイぞ』


「まずは小回りがきく俺とティアが中に入って全部屋の索敵を行う。んでお前ら三人は外から警戒しててくれ。もし五分過ぎても戻ってこなければどこか安全な所へ逃げたのちルナに連絡しろ」


この作戦は別に自分の方が三人より強いからという理由で言っているのではなく、まずさっきも言ったが小回りがきく攻撃方法を持っているのが俺とティアだから。次に移動速度だけでいえば確実に俺の方が早く走れるという二点に加え、何かが原因で敵を外に逃がしてしまったり連携のことを考えてのものである。


そんなことを一々説明せずとも理解してくれたらしい三人は真剣な顔で一度だけ頷いてくれた。ここで二人を置いていくなんて…などと甘ちょろいことを言わなかったのは流石である。


「んじゃ、行くぞティア』


『うむ』


こっちに自分の口元を見せながらそう言った後スグに扉の方へと視線を移したのでお互い一呼吸置いたと同時に玄関扉をぶっこ壊し、室内へと向かって走り出した。






それから俺とティアは使える魔法全てを駆使して宮殿内の確認を隅々まで済ませ、最後にこの国の王だった奴の部屋らしき場所に突入し


「……ここも同じか。ちなみに死体の数は?」


『外から数えた時と同じ、そこに倒れておる男で丁度じゃ』


「はーあ、取り敢えずミナ達をここに呼ぶか」


ということで早速千里眼であっちの様子を見ながらミナに念話を繋ぎ、中の状況を理解するためにも歩いてこっちにきてくれるよう頼むと数分ほどで三人が現れた。


「何か質問は?」


「なんか部屋の扉だったり壁が派手に壊されたんだが、あれは元からか?」


なんだその呆れたようなの眼差しは。もしかして俺らがぶっ壊しながらクリアリングしたとでも思ってんのか? 失礼な奴だな。


「当たり前だろうが。んな一々丁寧にドアを開けて入ってられるかよ面倒くせえ。……チッ、直せばいんだろ、直せば」


「私達はソウジ様達と違ってここに向かって真っすぐきましたので全部確認したわけではないのですが、もしかしなくても全員首を切られた状態で亡くなられていた感じですか?」


「ああ、それを行った犯人を含めてな」


そう言いながら俺は右手に刃物を持ったまま首から血を流し倒れている男を指さすと、どうやら見覚えがあるらしいリアが


「確かこの国の国王様は戦闘に関してはカラッキシだったはずなのですが、それは間違いないのですか?」


「確かに俺はコイツの素性を全く知らないが流石に一人であの人数を、しかも中には兵士らしき奴も何人かいたんだから不可能に近いことは分かってるし、繰り返し何回も調べてはみたが結果は全部同じ。この男が全員を一撃で切り殺したのち自分も首を切って自殺。完全にお手上げだよ、ワトソンちゃん」


「ちょっと待てい。何故今わらわではなくリアーヌの奴をワトソン呼びしおった? どう考えてもお主の相棒はわらわじゃろうて」


さっきからずっと黙って部屋の中を調べてると思ったら、そこで反応すんのかよ。


「だってワトソンってホームズの相棒兼医者だったんだしそう考えればリアが……確かに言われてもれば相棒はティアの方がシックリくるな。じゃあお前ら二人で一人の探て……いや、二人で一人ならリアとミナか。う~ん?」


「くだらなさそうなことで悩んでるとこ悪いんだけどよ、この机の上に置いてあるリンゴって何なんだ? この時期にリンゴは珍しすぎだろ」


「スロベリアとかいうイチゴみたいな国を乗っ取ったくせにリンゴなんかを食おうとしたから呪われたんじゃねえか?」


「流石にそれはないと思いますがソウジ様ですら分からないとなると本当に呪いの可能性すら考えなきゃいけないかもしれませんよ。……なんせこの世界には勇者召喚という当たり前のように見えて、実は全然当り前じゃないものが存在しているくらいですから」


つまりミナは最悪この事件の裏には神がいるかもしれないと……。おいおい勘弁してくれよマジで。






結局あの後も使える魔法全てを駆使して調べてはみたものの何も分からなかったので一旦この件については保留にすることにし、マリノ・クロノチアの二ヵ国への引継ぎや国民に向けての勝利宣言などを済ませた俺達は真っすぐ家へと帰り今日は各自夜ご飯の時間までは自由行動ということにした。


もちろんエメさんもである。というかこの人に関してはお昼の仕事が終われば自由にしていいと伝えてあったのだが、律儀に俺達が帰ってくるのを待っていたらしい。


ちなみに子供達はみんなで仲良く俺の部屋にある大きい方のベッドでお昼寝中だとか。あとティアは自由行動と聞いた瞬間に風呂へと消えていった。


「あー、疲れた。ってことで一緒に昼寝しない?」


「ソウジ様からのお誘いでしたら喜んで。流石に今日は私でも少し疲れましたしね」


「それでは一度お風呂に入りましょうか。ご主人様もご一緒いたしますか?」


大変嬉しいお誘いではあるのだが、本当はこの二人を休ませてあげるためにワザと昼寝に誘っただけであって俺はそんなことをする気は一切ないので


「本当は一緒に入りたいんだけどそんなことしたら間違いなく五限の授業に遅刻しそうだから止めておく。あと大部屋の風呂は既に沸かしてあるから一緒に入ってもいいけど、子供達のことを起こさないように気をつけろよ」


そう言うと二人は仲良く返事を返した後、早速俺の部屋へと向かっていった。


「坊主は風呂に入んないのか?」


「俺は自分の部屋のシャワー室を使うから、大浴場を使うなら貸し切りにしていいぞ。どうせあそこは鍵さえかければ誰も入ってこないし、各部屋同様特殊防音設定だから静かに休めるぞっ…てそんなこと既に知ってるか」


ちなみにうちのお風呂事情は各部屋にシャワー室が一つずつと大浴場が男女で一つずつ。そして大部屋にミナ達が勝手に作った六人くらいなら余裕で入れる風呂が一つなのだが、たまにどちらかの大浴場を貸し切ってイチャイチャしているどころか、その為に大浴場の防犯設備等をガチガチに固めているのは内緒である。


まあ別にアベルが同じようなことをやったとしても他の人の迷惑にならないならご自由にとしか思わないけど。


「そ、そうか。んじゃ、悪いんだけど…その、男湯貸切らせてもらう……わ」


なんだアイツ、顔なんか赤くしやがって。変なの。


………あれ? さっきまでエメさんもここにいたのに、いつの間にかいなくなってる。

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