第138話:異世界人から見た勇者とは

あれから少し玄関で一人突っ立っていたもののエメさんが帰ってくる気配もなかったので宣言通り自分の部屋へと戻ってシャワーを浴びた後、二人がお風呂からあがってくるのをベッドに寝っ転がりながら待っていると、隣の大部屋に繋がっている扉が開き


「あら? てっきり私は大浴場の方へ行ったのかと思っていたのですが、ソウジ様がシャワーだけなんて珍しいですね」


「そんな『なんで分かったんだよ』みたいな顔をされましても……。ご主人様はいつも一人でお風呂に入られる時はタブレットで動画を見たりスマホを弄ったりで結構長湯をするじゃないですか。そのことを知っている人なら誰だってすぐに分かりますよ」


「俺のことをそこまで理解してる君達に対してこういうことを言うのは大変申し訳ないんだが、どうしても理解できなかったから聞くけど……その恰好は一体誰に教えてもらった?」


というのもこの二人、一応下着は着けているもののそれ以外に身に着けている物といえばミナが見覚えのある大きい目のパーカーを一枚、リアがこれまた見覚えのある大き目のワイシャツを一枚のみという何ともエロ可愛い姿をしているのだ。


「やっぱり私にパーカーは似合いませんか? 個人的にこの格好は結構気に入っていたのですが……」


「いや、別にそういうわけで言ったわけじゃないというか…その服が大きいせいでかなりの萌え袖になってたり、下半身がいい具合に隠れてるお陰で似合ってるどうこう以前にむちゃくちゃ可愛いし、それでそんだけ可愛いなら俺が適当に選んだものじゃなくミナが本気で組み合わせを考えれば普通に私服としてパーカーを着ても似合うと思いますけど、そういうことではなくてですね―――」


「お嬢様のことはお褒めになられたのに私のことはスルーなされたということは、私の今の姿をお気に召してもらえなかったということでしょうか?」


「お気に召した、お気に召しましたよ。着衣が乱れた時とかにチラッと見える女の子の下着姿が好きなのを完全に熟知したうえでワザと真ん中のボタンを、しかも二個だけ留めるという何とも絶妙な調節のお陰で大変お気に召しましたが、………取り敢えずそんな恰好でいたら風邪ひくから早く布団の中に入れ」


そう言いながら俺は二人の手を掴んで半分引っ張り込むように布団の中へと導くと、今日はミナが右側に寝る順番だったらしく入る寸前でさり気無く手を放し場所を入れ替えてきたので心の中で反省しつつ、抱き寄せるとそのままあっちも抱き着いてきてくれて


「ソウジ様のお洋服を着ていたお陰でずっと貴方にぎゅ~されているような気分でしたが、やっぱり本人にしてもらうのが一番好きです」


「いつもご主人様と寝る時は隣の部屋のベッドか私の部屋の物に二人っきりでという風にしていましたが、こうやって小さいベッドに三人でというのも悪くありませんね。……なんだか昔を思い出します」


「あの時はよくお母様かアンヌのどちらかを挟んで三人で寝ていましたが、気付けばそんなことをすることもなくなって…そしたら今度は好きな人を挟んで寝るようになって。………私は今回の戦争を、そして方法は違えど同じ世界、環境下で育ったであろうソウジ様の今日までの頑張りを見てきてことによって勇者召喚について色々と考えさせられ、二度とこんな非人道的なことを行ってはいけないと思わされました。……でも私は好きになった男性とこうやっていられるのが凄く嬉しくて―――」


確かに勇者召喚は自分達の為だけに誘拐もしくは拉致行為を行っているのに加え、ほぼ必ずと言っていい程そいつはチート人間兵器として戦場に送られる。


というかその為にワザワザ国側は百年に一度の大魔法を使って呼び出してるんだから人を殺したことがあろうがなかろうが知ったこっちゃねえ。ちゃんと便利に働いてもらわなきゃ困るってのが本音だし、ミナも無意識のうちに勇者という存在はそういうものだと思い込んでいたのだろう。


もちろんさっきから黙ってはいるものの、俺に抱き着く力が強くなったのに加えて少し手が震えているリアも……。


「二人はもう既に知ってるかもしれねえけどな、俺はくだらない理由でこっちの世界に連れてきてもらったんだよ。だから最初は適当に貰ったチート能力を使ってダラダラ暮らしていこうかとも考えていたんだけど、あれよあれよで大切な人達が一気に増えちまって。これ以上話すと長くなるからあれだけど、結局俺は誰かに無理やり連れてこられたわけでなければ、嫌々ここまで頑張ってきたわけでもない。……俺はきたくてこの世界にきて、毎日死ぬ気で頑張ってでも守りたいと思わされた人達がいるからこそ努力し続けてる。その証拠に俺はなんか―――ってどっちも寝てるし」


喋っている途中で二人の気配が変わったのでもしかしたらと思い左右に視線をやると、ちょっと強めに抱き着いたまま寝落ちしてしまったらしいミナとリアがいた。なので起こさないよう軽く頭を撫でながら


こんだけ可愛い寝顔をしてるってことは取り敢えず俺のことに関しては納得してくれたみたいだな。となると問題は勇者召喚についてなんだがこの世界には全部で五つの大国があり、今の俺が脅しをかけてそれを使用禁止に出来るのはまだ二ヵ国のみ。


しかも大国だろうと小国であろうとも関係なく勇者召喚を行えるとなると一番手っ取り早いのはあの計画を……、一秒でも早くソウジ・ヴァイスシュタイン魔王化計画を成功させるしかないか。……つってねー♪


最後にそうおちゃらけた後騎士団用の集会場へと転移した。






「陛下、アベル団長以外の団員は全員揃いました」


「オッケー。んじゃちょっと今後の説明をするからリサも座ってくれ」


そう言うとリサは軽く一礼した後ユリー達の方へと向かい、お淑やかに着席したので


「はい、まずは皆さん今日一日お疲れさまでした~。お陰様でスムーズにスロベリアを奪還できただけではなくクロノチアの乗っ取りにも成功しました。別に俺はいらねえけど」


「言い方は兎も角まだまだこの国は成長途中、しかも私達現地人からしてみればゴールが未知数過ぎるせいでどういった反応が国民から出てくるか分かりませんからね。そうなるとソウジ様のお考えは妥当かと」


「とまあ今ユリーお嬢様が言ったような理由もあってクロノチアの今後についてウチは基本ノータッチでいくつもりなんだけど……取り敢えず今日はもう難しい話は無しだ! 打ち上げの説明をするぞ‼」


そう言った瞬間さっきまで表面上だけは真面目な顔をして座っていた初期メンの男共が一斉に沸き上がったもんだから、まだ入ったばっかりで俺の性格やこの騎士団の空気感を完全には掴めていない二期組が驚いていたり、ユリー達が呆れていたりするがこれがウチなので慣れてもらうしかない。


「ってことで夜ご飯の分の酒とバーベキューの材料を用意したんだけど、まだ三時半過ぎということでそれとは別にお菓子とつまみ、酒を用意しました。はい拍手~」


「「「「「ウエェェェェェェェイ‼」」」」」


『『『『『パチパチパチパチパチ‼』』』』』


相変わらずノリいいなお前ら。俺のことを馬鹿にしてティアとアベルにボコられててた時から比べたら随分と仲良くなったもんだ。その証拠に俺が合図を出せば


『『『『『パン・パパパン‼』』』』』


………自分でやっといて何だけどさ、それ誰に教えてもらったの? 実はこれをやったのは今日が初めてなんですって言っても、絶対に誰も信じてくれないレベルの完成度なんですけど。


「まあいいや。ってことでさっきの説明の続きなんだけど、一応男女で全部分けておいたから一緒に打ち上げをしてもいいし別々でもいいし、そこら辺はお好きにどうぞ。あと夜ご飯は家族と食べたいとか、夜は家に帰りたいっていう人はこの後俺に一言声をかけてくれ」


その後も警備や見回りの仕事をどうするかや、どんなに馬鹿騒ぎしようとも他の人に迷惑を掛けない限りは許すし明日の朝回復魔法を使ってゾンビのように働かせてやるから安心しろ…など色々な情報を順番に伝えていき


「連絡は以上。それでは各自協力して荷物を好きな所に運んだ後、打ち上げを開始せよ‼」


そう言うとみんなティアに鍛えられたお陰か、見事な連携を披露しながら続々と外に向かい始めたのでそれを眺めているとリーダーが近づいてきてきて、夜は自分の家に帰ることを伝えてきたので俺は収納ボックスに仕舞っておいた飲み物とお菓子、それとバーベキューの材料を各四人分ずつテーブルの上に出した。


そしてもしアーデルさんが今日の夜ご飯についてまだ考えていないならお土産にどうぞと勧めたところ、どうやら家族にはいつ帰るれるか分からないと伝えていたらしいのでありがたく頂いていく言われた。


あっ、別にこれはパワハラとかではありませんよ。なんせうちの社内方針は相手が誰であろうと文句があるなら直接じゃなくてもいいから兎に角それを本人に伝え、それについて解決策を考え実行するですから。


それに基本使わないとはいえ俺とミナは嘘を見抜くことができるんだから、上司に気を使って~なんてやるだけ無駄だし。

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