第120話:上機嫌からの
「―――、―――君、―ろ―ろ起き―――君」
んぅ……、この声は…マイカだな。……ならいいや。
「こ―――こら、今ちょ――起きか―――度寝しようと――の!」
「う゛んぅ、……うるさい」
今何時なのか知らねえけど普通に眠いから静かに寝かせろ。
「うるさいじゃなくて早く起きる‼ じゃないと学校に遅刻しちゃうでしょうが!」
「今日はサボる」
「サボるじゃなくてちゃんと行くの! だいたいソウジ君の予定を管理するのが私の仕事なんだから、そう簡単にサボれると思わないでくれるかな」
クッソ、大学は高校や専門学校と違って授業がある日や時間がバラバラだから例えサボって家でゲームをしてたとしても誰にも怪しまれずに済んだのに、今じゃご覧の通り優秀な専属秘書様がお付きになられておるがゆえにそれをするのがかなり難しくなってしまいましたよ。
「………………」
ということで俺は無言で目を開いた流れでゆっくり起き上がるとマイカは満足そうな顔をしながら
「はい、よく起きました…ちゅっ♡」
たった今嫌々起きたばっかりだっていうのに、好きな子からキスされただけで気持ちが180度変わるとは我ながら単純過ぎて心配になるレベルだな。
「………何故にエプロン姿? というか昨日着てた服とは違うやつを着てるみたいだけど、一体どこから持ってきたんだ? この家と城を自由に行き来できるのは俺と大人状態のティアだけのはずなんだが」
「はい、これはソウジ君の着替え(ティアコーデ)で、こっちはこの部屋に置いてあったヘアアクセサリー類が入ってるケース(ティアに教えてもらった)」
君もあの三人と同じように髪の毛を結べと。……最初は左手のリハビリの為にやってたはずなのに何時の間にかそれが暗黙の了解になりつつあるんだよな~。しかもその為にかは知らないけど三人とも仕事とかで邪魔にならない限りは頑なに結ぼうとしないし。
などと今日までの婚約者三人の行動を思い出しながら着替えを始めた俺は、ベッドに腰かけて着替え終わるのを待っているマイカに向かって
「それで、結局そのエプロン姿の理由はなに?」
「なにって、ソウジ君が私のエプロン姿を気に入ってくれてるみたいだったからティアに頼んで着替えと一緒に持ってきてもらっただけだよ。それにどっち道朝ごはんを作るのに必要だったし」
「……ちょっと待て。いつ、誰がマイカのエプロン姿を気に入っていると言った? 少なくとも俺はそんなことを言った覚えはないぞ」
まあ実はかなり気に入ってるし、子供達がセレスさんと散歩に行ってたりで人手が足りない時にしか見れないから内心かなりテンション上がってるけど。
とか考えていたのも束の間、マイカはこちらのことを全て知っているとでも言いたげな顔で俺のスマホに手を伸ばしたかと思えば見覚えのあるロック画面をこちらに向けてきて
「まず一回目のロック画面はお城にいるみんな(ソウジ君以外)が写ってる写真、次に二回目のロック画面はミナの写真、三回目はリアーヌ、四回目はセリア、そして五回目は……私服の上からエプロンをつけて家事をしている私」
「そのような写真…私の記憶には一切ございません」
「今月に入ってからは出来るだけセレスさんの休みをソウジ君が学校でいない日に合わせるようにしてたから自然と子供達が外に出掛ける日も被ってくるし、それに伴って私がリアーヌ達と一緒に家事をする日も同じ日になるはず。もっと言うと子供達は休みの日でも朝と夜ご飯を作る時だけは勉強も兼ねて必ずメイドの仕事をすることになっているから私が家事をするのはお昼だけであり、基本その時間ソウジ君はいないはず。となるとこの写真が撮られたのは先月か先々月の可能性が高く、式典前後は私も自分の仕事が忙しくてお手伝いを再開したのは四月に入ってからなのを考えると……この写真が撮られたのは私達が初めて出会った日からティアと三人でデートに行った日辺りまでの間ということになる。つまり私が病室で半告白みたいなことをするより前からこんな写真を本人に内緒で撮影し、ロック画面に設定しちゃうくらい意識してくれていたってことでしょ?」
なにこの推理力の凄さ。平成のシャーロック・ホームズならぬ、異世界のシャーロック・ホームズでも狙ってんの?
……さり気なくとはいえ結構最初からこちらに行為を寄せてくれていたからよかったものの、一歩間違えていたらストーカー扱いされていたであろうこの行為を誤魔化す為 + 折角俺好みの格好をしているのだからこの機を逃がすわけにはいかない。
ということで、早速俺はマイカの声で喋る準備をし
「『……私はとある国の宰相兼秘書、白崎マイカ。上司で実質同級生の白崎宗司のスマホを弄っていたらロック画面の写真が複数パターンあることを発見した。それを自分の推理付きで得意気に話していた私は、背後から近づいてくるもう一人のソウジ君に気付かなかった』」
「えっ、ウソッ‼ いつの間に⁉」
「『私は本物のソウジ君に後ろから抱きしめられ』」
「一瞬瞬きをしただけなのにベッドに押し倒されて―――きゃっ」
「ふんふんふ~ん♪」
あれからベッド・お風呂の二つで色々とあり、そのお陰でもの凄く上機嫌になったマイカの髪の毛を三つ編みにしてやったところ超絶上機嫌になり…今は鼻歌を歌いながらご飯の用意をしてくれているのだが
「……つっ、疲れた」
マイカが他の三人に比べてちょ~っとだけ性○が強いことを忘れていた俺はテーブルに突っ伏したまま誰に言うでもなく、そうポツリと言うと
「だらしないわねー。男ならもっとシャキッとしなさいよ、シャキッと」
「なんでお前がここにいるんだ…ポンコツ女神様よ」
「なんでってマイカから朝ご飯をご馳走する代わりにお願いを一つ聞いてほしいって連絡がきたから10分前行動で6時50分にこっちに来て、あの子の寿命関係を弄ってあげたら、『じゃあ今からソウジ君を起こしてくるからちょっと待っててね』って言うから私は一人ウキウキしながらこの椅子に座って待っていたっていうのに……なんで朝っぱらからイチャイチャしてるのよ‼ お客様を、しかも神様を数時間も放置とか私に何か恨みでもあるの⁉ というか色々と察して一旦自分の家に帰ってあげたことに対するお礼は⁉」
ちなみにルナはマイカの髪の毛を結んだ後、つまりは一から十まで一通り終わった後に折り返しの連絡をマイカから貰ったらしくちゃんと玄関から入ってきたし、本人もこう言っているので本格的になる前に家を出って行ったのだろう。
「少なくともうちのメンツは誰もお前のことをお客様だと思ってないし、実は凄く偉い神様だなんてこれっぽっちも信じてないから安心しろ。それと子供達に関してはたまに来てくれる面白騒がしいお姉ちゃんくらいの認識だ」
「まさしく類は友を呼ぶってやつね。うんうん」
なんか一人で勝手に納得してるところ悪いけど類友ってのは同じ波長の持ち主同士が引き寄せられて一か所に集まるとかっていう説があるらしいから、もしそれが正しければお前も俺と同じ波長の持ち主として引き寄せられたってことになるぞ。
なんて返したら絶対に面倒臭いことになるので俺は別の話をすることにし
「話は変わるけど、例えば勇者召喚された人間がチート能力を使って現代兵器を大量に出した場合、それを出した張本人を殺せば全部消えるのか?」
「そりゃー、私達神様から貰ったチート能力を使おうとした場合必ずその人物の体の中に入ってるチートの素みたいなやつを通して力を使うんだから、その人が死ねば全部綺麗サッパリ消えるわよ。まあいきなり停電したかと思えばそのまま一生復旧しないようなものだから、アンタが死ぬのが遅ければ遅いほどあの国は大混乱に陥るでしょうね」
「その理論で行くと俺にチートの素を授けたお前が死んだ場合俺と俺の国の全国民が大混乱に陥ることになると。……よし、絶対に死ぬなよ」
「あははははは、異世界系の小説とかアニメの見過ぎで24時間年中無休で頭の中で砂糖を大量生産し続けて脳みその砂糖漬けを作ってたせいで死にかけたアンタよりは確実に長生きするに決まってるじゃない。それに私達神様には寿命なんてものはないんだから心配するだけ無駄無駄」
チッ、これに関しては何も言い返せねえ。
「どうやら脳みその代わりにグラブジャムンを詰め込んでる奴も世の中にはいるみたいだけどな」
「なに? 話の流れで何となくは分かってたけど…あっちの世界にいるって言う勇者と戦争でもするの?」
いつものテンションでルナが聞いてきた瞬間、俺が寝そべっていたテーブルに何かを勢いよく叩き付けたかのような振動と音がしたので何事かと思い急いで起き上がってみると………。
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