第121話:激怒からの

ティアによる無茶苦茶な模擬戦のお陰か他人の殺気を感じられるようになったと同時に、今の俺は怒りの感情みたいなものが昔よりもハッキリと感じ取ることが出来るのだが…これはかなりヤバそうだぞ。


とか思いながら起き上がると早速ルナが


「ちょっと⁉ なんで私の前に箸が刺さった山盛りのご飯が、しかもこんな乱暴に置かれたわけ‼」


「あ、もしかしてお塩も必要だった? どうしよう、この家にある分だけで足りるかなぁ」


「なんで怒ってるか分からないけど、取り敢えず私は塩ご飯よりも納豆ご飯派よ!」


マイカが怒ってるところなんて初めて見たけどやり方といい、言葉といいエグ過ぎだろ。しかも喋り方はいつも通りなのに顔が無表情だから滅茶苦茶怖い。


的外れなことで怒ってる馬鹿はどんなに怒っても怖くないけど。


「誰もお前が食うご飯にかける物なんか聞いてねえよ。今のは多分さっき俺に向かって言った脳みその砂糖漬けに対する意趣返し。『テメェの脳みそも砂糖漬けになってるみたいだから、真逆の塩でも入れれば中和されていい感じになるかもよ』ってな」


「なにそれ怖っ‼ 給湯室で同僚の悪口を言い合ってるOL並みに怖いんですけど。ちょっとマイカの頭の中にはザ○ソースでも入ってるんじゃないの? というか入ってる! ヒタヒタに入ってる‼ 絶対マイカの脳みそはザ○ソース漬けになってる‼」


誰が脳みそ漬けで例えろと言った。あと人の婚約者の脳みそを勝手に世界一辛いソース漬けにするな。


「はあ、別に俺は最初から気にしてなし、何より馬鹿に構うだけ時間の無駄だからマイカも気にすんな」


「確かにソウジ君は私達の世界で、しかも一国の王様として生きていくことの意味を甘く考えながら私達の世界にやって来たのかもしれない。でも、今はそんなことを考えていた人と同一人物とは思えないほど凄く頑張ってるし―――」


えっ⁉ まさかの俺の言葉はガン無視パターンですか? 昨日の夜から婚約関係になったとはいえ一応俺は君の上司でもあるんだけど。いやさ、別に最初からそんなものあってないようなものだった…というか自分でそうなるように持って行ったからそれでいいんだけどね。


というかメッチャ褒めてくれるじゃん。なんか最初の方は『はいはい、自分の彼氏の惚気話ね』みたいな感じで呆れてたルナが押され始めてるぞ。……マジで数えられる程度しか他人から褒められた記憶がないせいか恥ずかしくなってきたし、今日の新聞を読むついでに消音魔法も使おう。


ということで俺は自分の周りに消音結界を張り、ティアが着替えと一緒に持ってきてくれたらしい新聞の一面に目をやると


『ソウジ・ヴァイスシュタイン陛下が四人目の婚約者を発表‼』


………………。


あれ? もしかして疲れすぎて文字を読み間違えたのかな?


いや、絶対そうだよね? だってマイカが俺の所に来るために家を出たのが21時ぐらいだって言ってたし。それを知っているミナ達が急きょ新聞社に向けて情報提供したとしても、普通に考えれば早くて明日の朝刊にこの記事が書かれるはず。


つまりあの見出しはただの見間違いだ!


そんな名推理を導き出した俺は再び新聞の一面に目を向けなおしてみると


『ソウジ・ヴァイスシュタイン陛下が四人目の婚約者を発表‼』


おいおい、誰だ自分の立場をフル活用して無理やり夜中に新聞社の人間を呼び出した挙句、今日の朝刊の一面を書き直させた奴は。とか思いながら記事を読み進めていくと……


どうやら昨日のうちにミナが警備室の機能を使い俺達の婚約を発表したらしく、勇者率いるクロノチアとの戦争がすぐそこまで迫っているこの時期に敢えてそれを行ったのは『勝利への自信を国内外に発信する為では?』と考える者が多い。また一部の間では残り二人についての予想が盛り上がりを見せている…と。


なるほどね~。確かに警備部の機能を使えば嫌でも俺達の婚約の話が各自の耳に入ってくるし、夜にこの発表をすれば間違いなく新聞社側は話を聞きにくるはず。


そうすれば死ぬ気で次の日の朝刊に間に合うよう記事を書くだろうし、前日に行ったミナの放送を見ていない国外の奴らもそれを見て知る可能性が高い。


あとは冒険者や商人なんかが他国に行った際にこの話をしたり、逆に他所からきた奴らにうちの国民がこの話をしてくれることによって勝手に話は広まっていく。その証拠に勇者率いるクロノチアと全面戦争をすることになったことをその日のうちにお知らせしたら凄い勢いで話が広まったしな。


まああの時の俺はただ座ってただけなのに対してティア・アベル・セレスさんの三人は勇者達相手に圧倒的力の差を見せつけたもんだから、一部ではソウジ無能説が出てるらしい。まあこれに関しては勇者による的外れな考察を鵜呑みにした奴らがほとんどみたいだけど。


今回の件で指揮を取ったであろうミナを含めうちにいる人達は全員優秀だっていうのに、それに比べてみんなの救世主勇者様ときたら俺の仕事を増やしてくれるは負け確定の戦争をすることになるはホント余計なことしかしねえな。


これじゃあ救世主じゃなくてただの疫病神だろ。


とか思いながら別の記事を幾つか読んでいると、いきなり誰かに新聞を取り上げられたので消音魔法を解除しながら目線を上げてみるとマイカがおり


「ご飯遅くなっちゃってごめんね~。もう準備出来たから一緒に食べよう」


「うぅ、ぐすっ……。ごわがっだぁ、わだじずごぐごわがったのに…ひっく、な゛んでだすげてぐれながっだのよ、ばがぁゾウジ」


「え、あ、はい。ありがとうございます」


今マイカのどこかいつもより優しい声と同時に、泣きながら俺のことを責めているルナの声が聞こえたんですけど。というか明らかに人の向かい側で泣いてるんですけど。一体俺が新聞を読んでる間に何があったていうんだよ。


そんな意味の分からないカオスな状況が人の家のリビングで、しかも家主が知らぬ間に起こっていたのだが、何故か詳細については聞かない方がいい気がしたので俺は敢えて触れずにマイカが作ってくれた朝ご飯兼お昼ご飯を食べることにした。






そんなこんなで三人仲良く? ご飯を食べているうちに落ち着いたらしいルナに対し、間違いなくアイツを泣かせた張本人であろうマイカが積極的に話を振ったお陰か食べ終わった時にはいつも通りのルナに戻っていた。


そんな姿を目の前で見せられると『お前はそれでいいのか?』と聞きたくもなるが、当の本人は食後のデザートとお茶を心の底から楽しんでいるのようなので触れないでおくことにした。その為俺は二人の会話を聞き流しながらタブレットでネットニュースを読んでいると


「――っと、―ょっと! ちょっと‼」


「んだようるせえな。飯だけじゃなくデザートまでご馳走になっておいてまだ文句があるのか?」


「食後のティータイムとはいえタブレットを見ながらデザートを食べてるだけでなく、私に呼ばれたにも関わらず目を合わせようとしないアンタにだけは例え嫌味であっても言われたくないわね」


少し前まで泣きながら人に助けを求めてたくせに随分と生意気な口をきくじゃねえか。一体何を言われたのかは知らねえけどいっそのことマイカに人格が変わるまでボコボコにしてもらえよ。


「はぁ、これでよろしいでしょうか? こう見えて結構忙しいので用事があるのでしたら手短にお願い致します」


「なに一人でイライラしてるのよ。逆に私が怒りたいくらいなんですけど…と言いたいところだけど何だか今はアンタも色々と大変みたいだから我慢してあげる」


「それはどうもありがとうございます。それでご用件はなんでしょうか?」


戦争することが決まった昨日から今日の朝までは特に何も感じずにいたが、あれは自分の周りにいる人達が超絶良い人だったり相性が良かっただけだったみたいだな。その証拠にルナが今日家に来てからというのもイライラしっぱなしだし。今とかその相性最悪の奴に邪魔されたせいでイライラのピークを迎えてるんじゃないかってくらい無性にイラつく。


などと一人頭の中で考えているとルナが俺の前に透明な小石みたいな物を一つ置き


「さっきアンタのことを馬鹿にしたお詫びにこれをあげる。……この石には何でも好きな物を一つだけ、しかもなんの犠牲もなく封じ込めることが出来る、全世界で一つしかない超レアアイテムだから大事にしなさい」


ちなみにそのレアアイテムの制約等についてだが


・この石に封じ込められる機会は一度だけなのでやり直しが効かない

・一度封じ込めたものは二度と取り出すことが出来ない

・もし封じ込めたいものがこの世に一つしか存在しない場合は、勝手にもう一つ生成されるようになっているが命等は無理

・中に入れるものによっては継続的に入れ続けることが可能

・この石に対して誰が何をしようと絶対に中身を取り出すことが出来ないのは勿論、破壊することも不可能

・この石に封じ込めたものの力なり何なりを使えるのは登録者本人とそれが許可された者のみ

・本当かどうかは知らないが渡した張本人であるルナでさえ上記のことは出来ない

・この石の大きさは登録者のみになるが自由自在に変えることが出来るだけでなく、登録者が許可した者以外は触れることが一切出来ない

・登録出来るのは一人だけであり、そいつが死んだ場合あらかじめ本人の意思で別の者に登録権利を譲渡されていない限りそいつの死と同時に消滅する


とかなんとか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る