第71話:SかMか

そんな俺の怒鳴り声に返事をしてくれたのは隣に座っているミナだった。


「私達もソウジ様がまだ会議室にいる時に聞かされたので気持ちは分かりますが、これに関しては早いに超したことはありませんのでこのまま進めるべきかと」


「そんなこと言いつつ裏ではこっそり三人でドレス選びとかしてたくせに。しかもソウジ君の世界の物を選ぶ気満々だし」


「おい、まさか特注のドレスを勝手に三着も頼んでたりしないだろうな? この間のベッドはまだ許容範囲だったけど、流石にお前らが着るようなドレスは値段が値段なだけに簡単に買えるようなもんじゃないぞ」


マジな話、この世界での王族としての感覚で通販等を使われると普通に破綻するのでシャレにならん。


「それくらい私達だって分かっていますので、この間ルナ様にお願いして物の値段を全てこちらのものと同じにして頂きました」


リアによる驚きの発言を聞いた俺は慌てて自分のスマホでとある電気屋の通販サイトを開き


「俺が買おうとしてたゲームが半額以下になってる……。ちなみに何時頼んだんだ?」


「あれは確か…お嬢様がこの世界では中々見ないような値段のベッドを勝手に買われた後ですね。ご自分で注文しておきながらも流石に拙いと思ったのか私に相談されに来られましたので…その流れでっ、です」


「別に私達は貴方達の関係にどうこう言うつもりはないけれどお金にだけは気を付けなさいよ。じゃないと何時か喧嘩だけじゃ済まない日がくるわよ」


一応セレスさんがみんなの給料から通販代として毎月一定金額を引くようにはしてたみたいだけど、それでも甘かったかもな。


「私達もレミア様と同じような結論に至りましたので、今後は毎月お給料を頂く際にその月に使った分を払うということにいたしました。まあ経費で落としていただける物は別ですが」


「ふ~ん。じゃあ今月分は全部俺の金でいいけど、今後はそれで頼むわ。……あとベッド代に関しては色んな意味でお礼は貰ってるから気にしなくていいぞ。なあ、ミナ?」


そう言うとミナは体をビクッとさせ、珍しく顔を真っ赤にしながら


「あのことはもう言わないでください! 私凄く恥ずかしかったんですからね!」


「う~ん、まああれはお仕置きの意味を込めてやらせてみたけど…ミナにはちょっと向いてないみたいだったし今後は何か悪さをしない限りはやらないかな。別に俺も根っからのS気質ってわけでもないし」


「どの口が言ってるんですか⁉ 初めての私を気遣って優しくパジャマを脱がせてくれたかと思ったら、いきなりソウジ様ってば私に向かって―――」


流石にこれ以上喋らせるのは不味いと思った俺は先ほどの反省を活かし、使う魔力量を調節しながら転移、飛行魔法を使ってミナの口を手で押さえ


「別に俺は母さん達に聞かれても気にしないけど、ミナはいいのか?」


そう聞くとミナは凄い勢いで首を左右に振り出したので手を放してやると、ここまでの状況を見ていた母さんが


「あれは絶対にSね。しかも普段はそんな素振りを一切見せないどころか普段は甘えん坊で少しMぽいのが更にたちが悪いわね。これでソウ君の女の子の中にM気質の子がいたら堪らないだろうけど」


「勝手に人をサディスト認定したり、夜の営みについて解析を始めるな! 余計なお世話だ」


「そうは言っても貴方、さっきのベッドのお礼云々の話をしてる時…特にミナの名前を呼んだ時なんか凄いサディストっぽかったわよ」


「私も横から見てたけどあの時のソウジ君、スッゴイ意地悪そうな笑みを浮かべてたよ。それにその瞬間だけ大人っぽさが出てて尚更Sっぽかったし」


………いやまあ確かにあの日の夜はミナのパジャマを脱がした後、お仕置きの意味を込めて俺の前で一人でしろとは言ったし(命令したら恥ずかしながらもやってくれた)、実は結構良かったとか思ってたりしてるけど…別に相手にそういう趣味がないなら無理強いをする気はないんだからSではないだろ。百歩譲って少し、ほんの少しだけSっぽいかも?


などと考えていると、後ろからまた誰かに抱き上げらえたかと思えばそのままギュ~としてきたので後ろを振り向くと


「何時ものソウ君でも十分母性本能をくすぐられるんだけど、今のソウ君を見てると更に刺激されるというか……もううちの子にしちゃってもいい?」


この人達の………。


「いいわけないじゃないですか! 今すぐご主人様を返してください」


「そうですよ! というかソウジ様も黙ってないで少しくらい抵抗してください‼」


「うんなこと言ったって、ティアの奴が魔力だけじゃなく身体能力までも下げたっぽいからあんまり動きたくないんだけど。実はそのせいで今結構眠いし」


多分午前中の会議で体力というか、主に頭と精神力を使ったのが影響しているのだろう。


「…………。そんなことより私はさっきアンヌがした質問の答えが知りたいのだけど」


「そうそう、じゃないと本当に私が連れて帰っちゃうわよ」


母さんはそう言いながら俺を抱っこしたままの状態でソファーに座りなおしたのを見て、ミナとリアは諦めたのか若干不満そうな顔をしながらも大人しくなった。まあこれに関しては義理とはいえ本当に親と子だし、浮気にはならんだろ。しかも片方は800歳超えてるし。


「ティアが吸血鬼ってことは知ってるのか?」


「ええ、それと吸血鬼は生物の血を吸うことが出来るってことも知っているわ」


「それと血液中にはその生物の魔力が一緒に流れているから吸血鬼は血を吸った相手の魔力も一緒に吸うことができ、魔力回復にも使えるぐらいであとは普通人間とかと変わらないんだよね」


そんな母さんの言葉に対し一度だけ頷いた後


「その特性を活かして俺がティアに魔法を掛けたんだよ。体内に俺と同じ魔力を保有している奴限定で俺と同じ魔法を使えるって魔法をな。まあこんなことが出来るのは吸血鬼だけだし、ティア以外に血を吸わせる気はないから他の奴には絶対に無理だけどな。あっ、一回の吸血による持続時間は大体24時間な」


「ちなみに、結界みたいな持続させるには術者の魔力を流し続けなければいけない魔法に関してはどうなるんですか? いくらティアさんとはいえ一人でそれを維持するのは無理ですよね」


「そういう魔法に関しては一応使えるは使えるけど結局吸った魔力が無くなれば効力は全て消えるし、ティアが俺の魔力を使って作った結界だからと言っても俺はそれに魔力を送ることが出来ないから意味ないぞ」


(まあここまでの説明は殆どが嘘だけどな……。まずティアは特異体質の為アイツが俺の血を吸えば俺が使える魔法は全て使えるし、結界を張った後は普通に俺が魔力をそれに送り続けることが出来る、というか今もしてるしな)


そう念話でミナ達に教えてやると今度はマイカが


「もしかして、この前お城の周りをソウジ君と一緒に歩いてた綺麗な女の人ってティアだったの?」


「そうだぞ。俺が結界を張り替えに行くって言ったら勝手に着いてきたんだよ。しかも俺の血の味を気に入ったらしくって、万が一の為に渡しておいたストック分をジュース感覚で飲みながらな」


(というのも嘘で魔力等の扱いに関してあいつはかなり上手いから俺がティアにお願いして結界を張り替えてもらってたんだけどな)


「そういえば、成長が途中で止まった吸血鬼は血を吸うことによって本来の体の大きさになれるって聞いたことがあるわね」


「……つまり、ミナちゃんは大人の姿になったティアちゃんをソウ君の浮気相手と勘違いしていたと。焦る気持ちは同じ女として分かるけど、もうちょっと情報を集めてからにした方が良かったわね~」






それからも少しだけティアについて話した後、片付けが終わったらしいセリア達がこちらにやってきた。そして子供達は昨日飾った雛人形の前まで母さん達を連れていき、どれが誰なのかを説明し始め、それを二人は本当に嬉しそうに聞いていた。


普通の母親がどういうものか分からないって言ってたけど、二人とも十分普通の母親と変わらねえじゃん。俺が母さんに正面から抱っこされながら背中をゆっくりと優しく、ぽんぽんされているのは意味が分からんが。……いや、確かにこれも普通の母親ぽいって言えばそうだけどさ。


「そういえば、ひな祭りの日には何か特別な物を食べたりなさるんですか? もしそうなのであれば後で私とエメ先輩とでどうするか相談しますが」


「んぁ? まあ一般的にはちらし寿司か海苔巻きが定番どころじゃないか。あとは一緒にお吸い物とか。ふぅ~~あぁ……」


やばい。母さんに背中をぽんぽんせれてせいか気を抜いたら寝そうだぞ。


「そうだ、良いことを考えました!」


あっ、駄目だこれ。ミナがなんか言ってるけど、もう寝よ。

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