第43話:お母さん

マリノ王国の国王と自国の騎士団団長が旧友の仲というのがカッコいいから俺もやりたいというい理由だけでアベルをうちの騎士団に再就職させた後、親父さんが用意していた馬車に乗り宮殿へと向かい始めたのだが


「………酔った」


「大丈夫ですかご主人様。もしあれでしたら宮殿に着くまでお休みになられても大丈夫ですよ」


ちなみにリアの言う『お休み』とは、リアが使う回復魔法の一種で俺を眠らせるということである。


いや、いくら回復魔法が利かないとはいえ症状を軽くする方法の一つや二つくらいあるんだろうからそっちを使えよと思うが…どうやらそれをする気はないらしい。


それは何故か? 理由は簡単。あまりの気持ち悪さに俺は親父さんのことなど完全に無視し、隣に座っていたリアの膝の上に倒れ込んでいるからである。つまりリア的にはこの状態を維持したいがためにそう言っているのだ。


「この馬車は王族用の特別製ですので一般的な物と比べてかなり衝撃は抑えられているハズなのですが……ソウジ様からしたらこれでも駄目だったみたいですね。……あと倒れるなら私の方に倒れてきてくださいよ」


俺の両隣にミナとリアが座っていてもまだ余裕があるほどだし、奥行きも十分な広さがあるので王族用というのは本当なのだろう。だがこれで衝撃が抑えられているとか嘘だろ。


さっきからずっと上下に揺れてるし、段差があった時なんか『ガタン』って音がするぐらいだぞ。………もう我慢できん。魔法使おう。


「ん? 何かあったのか?」


親父さんは馬車の振動及び音が一切なくなったのに気付き、馬車が止まったのかと思ったようでカーテンの隙間から外を覗いたかと思えばすぐこちらに顔を戻し


「???」


「じゃあ俺は寝るから、リアよろしく」


そう言いながら収納ボックスから小さめの毛布を出し、頭から被ったのだが


「はいはい、まだ宮殿までは距離がありますしお休みになるのはよろしいですが、ちゃんと説明してからにしてくださいね」


(……じゃないとこの毛布を引っぺがしますよ)


(じゃあミナの方に行くからいいわ)


(そんなこと言う人には回復魔法をかけてあげません)


(…………)


それは困る。いくらポーカーフェイス中とはいえ酔った状態での話し合いとか無理。


ということで渋々リアの腰に抱き着くのを一旦止め、毛布を目の下までおろし


「俺が衝撃吸収魔法を使いました。仕組みはよく分かりませんが……恐らく馬車が走る度にタイヤへ伝わる衝撃を魔法により吸収、それを外へ逃がしてるんでしょう。……これでいい?」


「はい、よく出来ました。あとは私達にお任せください」


リアの許可が下りたため俺は態勢を元に戻し、目を瞑ると同時に心地よい眠気に襲われた。






「あーーー⁉ またソウジ様がリアーヌに抱き着いて寝てる!」


「………うるさい」


「おはようございますご主人様。早速ですが宮殿に到着致しましたよ」


なるほど。リアが俺を起こそうとしたらミナが毛布を剥いだか何かして、さっきの大声に繋がると。


「親父さんは?」


「親父なら先に降りて待ってるぞ。俺も外で待ってるから早く来いよ」


そう言いアベルも外に出て行ってしまったので馬車の中には俺とミナ、リアの三人だけになり


「ご主人様。身だしなみを整えますので少しジッとしていてくださいね」


リアはそう言うものの俺の格好は相変わらず白いシャツに黒いズボンという最低限の恰好である。……ジャケットくらい着ようかな。


「今日はこれも着るから合わせてくんね」


「あら、ジャケットをお持ちだったのでしたら前回もお召しになればよかったですのに」


「この前はミナの父親に会う気なんてなかったから用意してなかったんだよ」


「なるほど。ポーラー・タイとかはありますか?」


ポーラー・タイってネクタイの紐バージョンだっけ。これからは正装することも増えそうだし今度買おうかな。


「持ってないから今日はカジュアル気味で頼む」


「ではここをこうして……こうですかね。じゃあ最後に髪の毛も弄りますね」


今日は馬車の中ということもあり、リアは膝立ちになったのだが……そのお陰というかなんとういうか、俺の目の前、しかも凄い近くに胸がある状況になってしまった。


「…………」


取り敢えず目を瞑っておけばいいかとか思ったけど、それはそれでリアの匂いとか体温がいつも以上に感じられてヤバいな。


そんなことを考えてたらいきなり俺の頭がリアの胸へと引き寄せられ、そのまま抱きしめてきた。……胸柔らか。


「前回はご主人様が何もするなと仰いましたのであれでしたが、今回は私達が全力でお守り致しますのでご安心ください」


「なんで髪を弄ってた流れからそうなるんですか⁉ さっきからリアーヌばっかりズルいです」


「ふふっ、それでは先に降りて待っておりますので」


ちょっと待てー‼ 色んな意味でさっきのは嬉しかったけど、このヤキモチ焼き中のお姫様の対処法を教えてから降りてけよ。童○坊やの頭じゃキスするぐらいしか思いつかないぞ。


そんな俺の心の声も虚しくリアは馬車から降りて行ってしまった。


「…………」


ほら~、ミナちゃんったら凄い膨れちゃってるじゃん。なんか考えないとな。………よし、これでいこう。


「なんですか? 言っておきますけど今の私は頭ぽんぽんだけじゃ満足しませんからね」


妹モードのミナでも流石にこれじゃあ満足しないのは分かってたっつうの。でもこのままミナの頭を俺の方に引き寄せて……耳元でこう囁いてやったらどうかな?


「ほら、さっさと国王のところに行ってミナとリアを貰いに行くぞ……。断られても貰ってくけど」


このセリフのポイントは前半は囁くように、そして最後の『断られても』のところは聞こえるか聞こえないか位の声で言ってやることである。


こんなこと始めてやったのでどうなるかは賭けだったのだが、ちゃんと効果はあったらしくミナは恥ずかしそうに下を向きながら小さい声で「はい……」とだけ言い先に一人で降りて行ってしまった。


ポーカーフェイス中はある程度心の余裕が生まれるのは知ってたけど、あんな恥ずかしいことでも普通に出来るんだな。


まあ心の余裕っていっても限度があるわけで、前回は途中から表面上は余裕そうでも内心はガタガタだったけど……。


まあ今日は大丈夫でしょう。とか思いながら外に出ると


「お待ちしておりました。シラサキ様」


一人のメイドさんがそう言い頭を下げると、他のメイドや執事っぽい人達が一斉に頭を下げ始めた。


「………俺は帰るけどお前らはどうする?」


言ったそばからいきなり限界が来てしまったのでそう三人に聞くと


「着いたばっかりでそれはないだろ坊主」


「まあご主人様のお気持ちも分からなくはないですが……。大体これはどういうことなんでしょうか、メイド長」


「ちょっと~、なんでそんな怖い顔してるのよリアーヌ。あとこれは陛下の命令であって私が考えたわけじゃないわよ」


メイド長の喋り方かるっ! しかも見た目だけで言うとこの人……17歳くらいだよな。


「シラサキ様、申し訳ないのですが私が愛するのは夫一人だけですので。代わりではないですが私の娘はどうでしょうか」


「いやっ、別にそういうわけで見てたわけでは……。それに本人がいないところでそのようなことを言うものでは……」


ちょっと待て。この人誰かに似てないか? ………分かった! この人リアに似て―――


「お母様に勧められなくとも私は既にご主人様のものですのでご心配なさらず」


んぅ⁉ この人ってリアのお母さんなの!


「あら。別に陛下を疑っていたわけではないけれど、その話は本当だったのね。これは私もレミアちゃん達に混ぜてもらおうかしら」


誰だよレミアちゃんって。次から次に俺の知らないことばっかり言うんじゃない。


「今日はこれまた勢揃いだな。坊主的には一気に挨拶できて丁度いいかもしれないけど」


「ちょっと面白そうだな。俺も仕事サボってブノワのところに行こうかな」


「いや流石にそれは駄目だろ。ちなみにレオンの親父さんは?」


「あいつならブノワと一緒にいるはずだぞ」


こらこら君達まで知らない名前を出してくるな。しかもブノワってミナの父親じゃねえかよ。何者だよそんな奴と一緒にいるとか。


「まさかいきなり息子が増えるなんて思わなかったけど、背伸びしてる感じがまだまだ子供っぽくて可愛いわね。さっ、陛下が待ってるし行きましょう…ソウ君♪」


「えっ⁉ あっ、ちょ……」


「なんでご主人様とお母様が手を繋ぐんですか⁉」


リアに続きミナまで騒ぎはじめ、多分俺達のことを迎えるために集まっていただろうメイドや執事達はよく分からないが温かく見送ってくれた。

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