第44話:二度目の限界
あれから親父さんと別れ、目的地に着くまでの間というもの
『ご主人様から手を離してください』だの『私もソウジ様と手を繋ぎます』だの他国の宮殿を歩いているとは思えない態度で歩き続けた。
あっ、俺以外は自分の国どころか家だった。……ってことは他国の宮殿で騒いでたのって俺だけじゃん。
「はい到着♪。失礼しま~す、ソウ君達を連れてきました」
いやだから…かる! うちのティア並み軽くない?
申し訳程度のノックをしたかと思えばそのまま扉を開け、そのままリアのお母さんが部屋に入っていったので俺達もそれに続くと……ソファーに座っていた陛下は立ち上がり
「わざわざ来てもらって申し訳ないシラサキ殿。まずは座って楽にしてくれ」
今日のメンツは国王、その隣に知らない女性、その二人の後ろに知らない男性、その隣にリアのお母さん。前回より俺に対して友好的なのは分かるが、前回より面倒くさいだろうことも分かる。
「では失礼致します」
そう言い俺とミナはこの前と同じソファーに座ったのを確認した後、陛下とその隣の女性も腰を下ろした。
「さて、まずはこれを返すよ。ありがとう」
ああ、改造テレビのことね……。さあこの後はなんて言ってくるのか楽しみですねえ。
「一応こちらでも事前にしっかり使えるかのチェックはしていたのですが、大丈夫だったでしょうか?」
「あっ、ああ。何の問題もなかったし、シラサキ殿の活躍は映像とやらとギルドの両方で確認することが出来たよ」
「そうですか。それは良かったです」
………………。
ここで皆さん沈黙ですか……。本当はこういうのは嫌なんだけど、有利なのはこっちだし適当に話し掛けてみるか。後ろにいるリアのお母さんと陛下の隣にいる人は自分は関係ないみたいな感じだし。お母さんの隣の人は俺に注意を向け続けている感じだけど。
「取り敢えず初めましての方もいらっしゃいますので改めて……。私はソウジ・シラサキ、日本では白崎宗司と申します。立場としては元ボハニア王国の新国王(仮)みたいな感じですかね」
「ではこちらは私から紹介させてくれ。私の隣にいるのが妻でレミア・マリノ。そして後ろにいる男がリアーヌの父親で名前はレオン。この国の宰相をやってもらっている」
二人は陛下の紹介に合わせ、軽く頭を下げてきたのはいいのだが……。チッ、親父さんが面白そうとか言ってた理由はこれかよ。………帰ろうかな。
「陛下とリアーヌさんのお母様のことは存じておりましたが、他のお二人はそれぞれ奥様と旦那様でしたか。遅くなりましたが、ミナ様とリアーヌさんにはお世話になっております」
そう言い俺が頭を下げるとリアのお母さんが
「ソウ君ったら、交渉なんて全然慣れてないだろうに陛下とこの人を脅そうとしててホント可愛いんだから。レミアちゃんはどう?」
「そうね~、さっきアンヌが言っていた通り背伸びしている感じがあって可愛らしいわね」
「いや、あの君達。実際に私とブノワは今シラサキ殿に脅されてるところなのだから、静かにしていてくれないかな」
「すみませんシラサキ様。私の妻が何か失礼を致しませんでしたでしょうか?」
へ~、お母さんがあんなんだからリアは誰に似たのかと不思議だったけど、お父さんは真面目なんだな。
「いえ、別にそんなことは。それに今日はお詫びを貰いに来たとかではなく、ご挨拶に伺ったわけですし。そんなにかしこまらずとも大丈夫ですよ」
「お詫びを貰いに来たわけじゃないとか言ってる時点で脅しだろ、それ」
このアベルの言葉が引き金になり、今まで我慢していた緊張や悩みなどが溢れ始め……最後は我慢できなくなってしまい
「………あ゛ぁーーー‼ 俺は本当に脅しに来たわけじゃなくて挨拶に来ただけなの! 前回のことはちゃんと説明してくれてこっちが納得できればそれでいいって考えてたの! なのに何で変な駆け引きみたいな時間が始まるわけ⁉ もーーー、やだぁ‼」
「えっ⁉ おい、いきなり泣くなよ坊主」
「大丈夫、大丈夫ですよソウジ様。落ち着くまで私がこうしていてあげますからね」
そう言いミナは俺のことを抱きしめながら背中をぽんぽんし始め、リアはアベルを叱り始め、向こう側でもミナとリアのお母さんが両父親に同じことをし始めた。
今は自分のことで頭が一杯な為ハッキリとは聞こえなかったが……リアはアベルの余計な一言を、ご両親側はもう800歳以上のくせして子供に大人気ないという感じだった。
あれから十数分が過ぎた頃……ようやく落ち着いた俺はミナに顔を拭いてもらい、ポーカーフェイスの魔法など当に切れているため素の状態で
「もう面倒だから敬語とかなしでいくから……。それで、前回の説明は?」
「ああ、私達に対してならシラサキ殿が楽な喋り方でも構わないが、他の王貴族相手の時は一応気を付けるんだぞ。それで前回のことなのだが……」
それから陛下とリアの親父さんによる説明が始まり、それらをまとめると
・最近まで行われていた周辺国での戦争というのはマリノ王国の隣国だったらしく、その国とは友好関係を結んでいた。
・最初はその国が優勢だった為このまま勝利すると思われていたのだが、突然魔法の杖を持った100人の兵と一台の鉄の馬車により一瞬で戦況は引っ繰り返り敗戦。国を完全に乗っ取られてしまった。
・この出来事はミナ達が偵察に行っている間に起ったらしく、三人は何も知らなかった。
・敗戦国の元国王は自分の影武者を立て、一部の貴族達を連れてこちらに避難。今は息を潜め反撃の時を狙っている。
・そんな状況のため今この国は緊張状態が続いていたので、最悪ミナ達三人でなんとか出来るレベルの攻撃を俺に向けて放ったと。
「それで、その影武者はまだ生きてるのか? もし殺されでもしてたら本物の王様が国を取り返したところで、一度は自分達を見捨てたくせにってなるだろ」
「それは大丈夫だと思いますよ。何が狙いなのかは分かりませんがその国の国王(影武者)にそのまま国王を続けさせているようですし、国民には一切手を出していないようですから」
「……ただただ国土を広げたかったのか、いずれは世界征服でもしたいのか」
「私は後者だと思います。各国の宮殿には必ず異世界の勇者を召喚する為の魔法陣がありますし、タイミングが良ければすぐにでもそれを行うことが出来ますので」
つまり勇者を使って他国を乗っ取り、魔法陣が使える状況なら新しい勇者を召喚して……を繰り返すってわけか。
「別に一年、二年で世界征服する必要もないし、勇者だってある程度いれば足りるわけだから無謀な夢でもないのか」
「そういうことだ。ちなみにシラサキ殿は日本人と言っていたが、勇者召還でこっちに来たのか?」
「いや、俺は別の方法でこっちに来たから勇者云々は関係ない。あとは秘密」
「世の中知らない方がいいこともあるし、こちらから無理に聞いたりはしないさ」
「ふ~ん。国王様がそんなんでいいのか?」
勝手なイメージだが、国王というのは自国を守るためにありとあらゆる情報を集めようとするもんだと思っていたのだが、全然そんな素振りも見せなかったのでそう聞くと
「シラサキ殿が考えていることは何となく分かる。だが私はそれ以上に君との繋がりを重要視することにしたんだよ」
「いや、普通さっきまで自分達のことを脅してた奴にそれはないでしょ。ちょっと国王として問題ありじゃね?」
「私がそう決めたのはシラサキ殿が本音を吐き始めてからだ。どうやら私の妻やアンヌは最初から気付いていたようだがな」
どういうことだ?
「その様子ですとご自分では気付いていないようですね……。これは私の予想ですが、シラサキ様は何か魔法を使って人格か何かを弄っていたのでないですか?」
「手の内を明かすとミナ達に怒られるから言わないけど、大体は当たってる」
「それのせいで私達には本来のシラサキ様が見えず、信頼してもいいのか分からなかたのです」
「なるほど。あんたら二人からすればその魔法を解いた状態の俺なら余裕で真意が読み取れるってことか。ミナ達と初めて会った時も似たようなことがあったから不思議でも何でもないな」
ミナとリアのお母さんが凄いのか、この二人の人を見る目がないのか……。多分前者が正解だろうな。
あの二人、ミナとリアの着ている服がこの世界の服じゃないと一瞬で見抜いていたっぽいし。その証拠に隣国の説明が終わった辺りから女四人で集まって服の話をしている。
あとアベルは勝手にどっか行った。大方服の自慢でもしてるんだろうけど。
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