第42話:親父さん

「本当に大丈夫なんですか? 別にソウジ様が会う相手は私のお父様なのですし、今日無理に行かなくてもいいんですよ」


何故ミナが玄関でこんなことを言っているのかというと、ミナの父親と約束した日の朝には熱が下がったとはいえまだ病み上がり。しかも俺が熱を出した原因と言ってもいい程の人に今から会いに行くのだから心配になるのも分かるっちゃ~分かる。


「でも今日行くって約束しちゃったし……。まあなんとかなるでしょ」


「お嬢様のお気持ちも分かりますが今日は交渉などではなく、ご挨拶に伺う予定だけですので大丈夫ではないでしょうか」


「前回はそれで殺されかけたけどな。ぶっははははは」


当事者の俺からしたら笑い事じゃねえつうの。


「そんで、どこに転移すればいいんだ? 面倒くさいしいきなり庭にでも行くか?」


「今回は大丈夫だと思うけど庭は止めておいた方がいいと思うぞ。また殺されかけたら坊主もたまったもんじゃないだろ?」


「次ソウジ様にそんなことをしたら即死刑です。大体前回だって本当は殺されていてもおかしくなかったのですから、次はありません」


「やはり無難なのは入国審査が行われている門の近くが一番よろしいかと」


あの殺されかけた思い出と、ちょっと俺が気に入ってる門番がいる所か。あんまり気は進まないがしょうがないか。


「んじゃあ門まで飛ぶから離れるなよ」


そう言うと約二名は前回と同じで腕を組んできたので俺はアベルのことだけしっかりと確認し、転移した。






今回も門のすぐ近くに転移したのだが朝の十時過ぎということもあり、ちょっとした列が出来ていたので俺達は最後尾に向かいながら


「はい到着。パッと見た感じ今日は弓兵部隊様はいないな~」


「もはやそれ警戒とかじゃなくて嫌味だろ。どんだけ根に持ってんだよ」


「……この間ティアに訓練場の改造を頼まれてさあ。どんなのがいいんだって聞いたら


『そうじゃの~、やはりあやつらには色々なシチュエーションでの戦闘訓練をさせとうから、それが出来る訓練場がよいのう。もっと具体的に言うと気候・地形の変化が自由とか、誰かが実際に体験した戦闘を再現できるとか……』


って言ってたから作る予定なんだけどさ、やっぱり使用感を確かめるためにテストが必要だと思わないか?」


「…………」


どうやら俺が言いことを理解したらしく、アベルは黙ってしまったので俺はそのまま言葉を続け


「最初は注文者のティア本人に確認作業をやらせようかと思ってたんだけど、アベルにやってもらうことにしたわ。もちろんシチュエーションは俺がここで殺されかけたやつな。どうやってあの攻撃を回避するのか見せてくれよ」


ちなみに誰かの戦闘記録を再現する場合、相手が使ってきた攻撃の威力はそのまま再現されるようにするつもりだ。もちろん痛みを感じるだけで実際は掠り傷一つ付かないようにするので危険はない。


まあ即死級の攻撃を食らっても死にはしないとはいえ、それ相応の精神的苦痛を感じるんだけど。


「そういえばティアさんはどうしたんですか? 流石に今日は付いてくるかと思ったのですが」


「あいつなら、『そのレベルならわらわが行く必要もなかろう』とか言っていつも通り訓練場に行ったぞ」


「まあ陛下からしたら前回のことを考えると、ご主人様の護衛でもあるティア様がいなくて良かったと思われるでしょうが……」


そりゃそーだ。なんたって自分の護衛対象が命の危機に晒されたのだから普通なら文句なり、誰かの首を差し出せだの言われてもおかしくないからな。普通なら。


俺の護衛メイドは普通じゃないので逆に感謝しそうだが。


「つか、さっきから普通に師匠の声で喋ってるけど、そんなことも出来るのかよ」


魔法で他人に変身出来るんだからそれくらい簡単に決まってんだろ。………いいこと思いついた。


「『そんなことで一々驚くなんて、アベルはソウジ様の凄さを全然分かっていませんね。あなたはもうクビです』」


「うえ゛⁉ クビってどっち? マリノ王国の方か? それならまだ坊主の国で―――」


「『両方に決まっているでしょう。あなたみたいな人、ソウジ様の国には勿論この国にも不要です。分かったら早く私達の前から消えなさい』」


「そっ、そこまで⁉ 坊主のことが好きなのは分かるけど、流石にそれは横暴すぎないか姫様」


「ちょっ、私は何も言ってませ……ああ゛っ、ソウジ様!」


まあ、普通にバレるわな。


「あははははは……。お前クビな」


「おかしいだろ! 普通は姫様の声を使って遊んだだけっていうオチだろ」


「ご主人様。アベルで遊ぶのもいいですがそろそろ私達の番ですよ」


後ろを向きながら話していた俺にリアがそう声を掛けてきたので前を向くと、丁度順番が来たらしくこの間の門兵が姿勢を正し


「お待ちしておりました、ミナ様・リアーヌ様・アベル様、そしてソウジ様」


「お仕事ご苦労様です。早速ですが入国の許可とお父様への連絡をお願いしたいのですが」


「はっ、かしこまりました。少々お待ちください」


この前と違って随分と対応が落ち着いてるな。まあ事前に俺達が来ることは分かってただろうし、当たり前っちゃ当たり前か……。あれはあれで面白かったのに。


一人そんなことを考えているうちに俺以外の三人は例のメダルみたいなのを光らせ、入国の許可を得ていた。


「俺それ持ってないんだけど入れるのか? まあ入れないなら前回みたいに不法侵入するけど」


「それは是非ともご遠慮頂きたいんだがねえ、ソウジ君」


予想外の方向から自分の名前が聞こえてきた為そちらを見てみると、そこにはアベルに似た若い男の騎士がいた。


「おっ、親父⁉」


「親父? ってことはこの人はアベルの父親か?」


「はい。この方の名前はアシル・アベラール。アベルのお父様ですよ、ソウジ様」


親父に苗字があるってことはもしかしてアベルって


「お前、実は貴族かなんかなのか?」


「まあ俺の家は歴史ある騎士の一族だからな。自分で言うのもなんだが……この国では結構高位の貴族だぞ」


「はあ⁉ そんなこと一言も聞いてないぞ!」


「お前には言ってないんだから当たり前だろ」


どうやらアベルの家は有名らしく、隣国に住んでいるなら知らない人の方が少ないらしい。だが俺はこの世界の人間ではないので知らないのは当然なわけで


「雇い主にそのことを言ってないとか身分詐称だから。やっぱお前クビな」


「なんか知らんが大変だなアベル。このままじゃお前無職だぞ」


「ちょっ、それどういうことだよ親父。まだ俺ってっこっちの騎士団に所属していることになっているんじゃないのか?」


まさかの無職になりそうなアベルの言葉を無視した親父さんは俺に向かって


「ということで改めまして。私はアベルの父でこの国の騎士団団長でもある、アシル・アベラールだ。よろしくソウジ君…いや、ソウジ・シラサキ様の方がいいのかな?」


流石アベルの親父さん。俺の正体を知っていてその態度か。


「別に名前は好きに呼んでくださって構いませんよ。今のところは、ただの異世界人ですので」


この人が俺のことをどこまで知っているのか分からないため、ワザと『異世界人』と言ったのだが……反応は無しか。当たり前だが今日も魔法でポーカーフェイ状態である。


「あははははは、もちろん知っているとも。今この国の騎士団や王貴族の間では君のことで大騒ぎだからねえ。色々な意味で……」


最後だけ声を低くしたなこの人。……探りついでにちょっと遊んでみるか。


「あ~、これ絶対にミナのせいだは。いきなり男を連れ帰ったあげく、『私とリアーヌはもうソウジ様のものです』とか言ったからだわ。アベルの親父さん含め皆さん可哀想に」


「いや、絶対坊主が色んな魔法を使いまくったのが原因だろ」


「まだいたのかアベル。お前はもうクビにしたんだから早くこの国の騎士団に戻……そっちもクビになったんだっけ? だったら尚更こんな所にいる場合じゃないだろ。早く次の就職先探して来いよ」


「あははははは、ブノワの奴が君に脅されたって言うから心配していたのだけど…普通に面白い子じゃないか。良い人に出会ったなアベル……。残念ながらクビになったようだが」


この人アベルの親父さんだけあって面白いな。完全に気に入ったわ。


「なあミナ。アベルの代わりにこの人をうちの騎士団に入れようぜ」


「流石にそれは無理かと。アベルならまだしもアシルは騎士団団長ですし、何よりお父様とは旧友の仲だそうなので絶対に離さないかと」


なるほど。だからさっき親父さんは自国の王様なのに呼び捨てだったのか。


「マリノ王国の王様とその国の騎士団団長が旧友の仲か……ちょっとカッコいいな。俺もそれやりたいからうちで団長やんないかアベル」


「旧友の仲になるのはよろしいですが、間違っても悪友にはならないでくださいよ…ご主人様。私はこの前の飲み会でのこと、一生忘れせんので」


この前の飲み会というのは俺が夜中に回復魔法を使ったり、ゲロッた時のことを言っているのだろう。あの時のリアはマジで怖かったからな~。気を付けよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る