第41話:まだいたのかよ

いつもよりゆっくりとうどんを食べ進めた為、約20分ほど掛かってしまった。その間エメさんはずっと俺の向かい側の席に座っていたのでもし何か仕事があったのなら申し訳ないが、まあ今回は休憩時間だったと思ってもらうことにしよう。


「ごちそうさまでした」


「…………」


「どうかしましたか?」


「その、こういう場合はどう返事をすればよろしいのかと思いまして……」


少し気になったので詳しく話を聞いてみるとこの世界には『いただきます』、『ごちそうさま』という挨拶は存在しないらしく前者は兎も角、後者は何と返事をすればいいか少し迷っていたらしい。


そんな時にスマホが手に入ったということで早速ネットで調べてみたところ、『お粗末様でした』という返事に辿り着いたのはいいものの今度は自分の主に向かってそれを言ってしまうとお粗末な物を出してしまったみたいになってしまうとかなんとか。


日本語ってホント面倒くさいなあ。


「………身内に対しては『お粗末様でした』、他人というか客人に対しては『お口に合いましたでしょうか?』とかでいいんじゃないですか。自分の周りだとそんな感じでしたし」


「旦那様がそう仰られるのでしたらこれからはそうしたいと思います。……お粗末様でした」


どうやらすんなり納得してくれたらしく、そう返事をすると俺が食べ終えた食器を持ってキッチンへと向かって行った。その為一人になってしまった俺はこの後どうしようか考え始めると、丁度よく誰かが扉を開けて部屋に入ってきたのでその人と少し話でもしようかと思ったのだが


「おはよ~。エメはいる?」


エメさんはキッチンで洗い物をしていた手を止め、その場から返事をした。


「おはようございますルナ様。私に何か御用でしょうか?」


「朝ご飯お願いしてもいいかしら」


「既にご用意してありますので温めなおしてからお持ちしますね」


俺達の時と対応の仕方が同じということは、あの人の中でルナは客人ではないみたいだな。別に何の問題もないけど。


「なにサラッと俺の向かい側に座ってんだよ」


「別にあんたのことが好きだからとかじゃなく、話しやすいだろうと思って座っただけだから勘違いしないでよ」


誰もお前相手に勘違いなんてしねーよ。大体どこからそんな自信が沸いてくるんだよ。


「そういう意味じゃなく、なんでお前がいるんだって聞いてんだよ」


「なんでって昨日はあんたに頼まれたうどんを買ってきたついでに夜ご飯をご馳走になって、そのまま子供達と遊んだり、アベルとセレスと私の三人でお酒飲んだりして…そのままここに泊まったから」


「百歩譲って酒を飲んだところまではいいけど、自分の家に帰れよ。お前なら転移で一瞬だろうが」


「だって良い感じに酔っていたせいで布団敷くの面倒くさかったんだもん。その点ここならエメが寝る場所を用意してくれるから布団に潜るだけで済むじゃない」


こんな駄女神が多くの人から崇められてるとか冗談だろ? ただのヒキニートじゃねーかよ。


などと思っているとエメさんがさっきと同じお盆に、今度は一人分の和食を乗せてやってきた。


「お待たせしましたルナ様。和食というものは初めて作りましたのでお口に合うかは分かりませんが…どうぞ」


「うそ⁉ この出来栄えで初めてなの? 凄く美味しそうじゃない、いっただきまーす!」


それからルナと少し話した後、再びキッチンへと戻って行った。


「あっ! 思い出した。お前勝手に宅配ボックスの中身出しただろ?」


「あ~、昨日転移してるところを見られると面倒だからあんたの部屋を使ったのよ。それで帰りも同じ方法を使うついでに宅配ボックスを見たら九個も段ボールが入ってたから持ってきてあげたってわけ」


「それで中身を透視か何かしてスマホ類だと分かり、ご丁寧に使い方まで教えてくれたってか」


「それだけじゃないわよ。あんたの連絡先は勿論カードの番号からパスワード、通販のやり方までバッチリよ」


なんで俺のカード番号はおろかパスワードまで知ってんの。神の世界では個人情報の保護っていう概念はないのか?


「なに勝手にそこまで教えてんだよ。それ普通に犯罪だからな」


「どうせ後で教えるつもりだったんだからいいじゃない。あと、神様に人間の法律は無効よ」


確かに後で通販のやり方やカード番号等は教えるつもりだったのだが


「どこまで俺のことを知ってんだよ。気持わる……」


「昨日のことは特別よ、特別。教えるならまとめて全部教えちゃった方が良いかと思って、寝てるあんたの頭の中をちょちょいと覗いただけよ。最初はあんたの傍にずっといたティアに怪しまれて、中々やらせてくれなかったけど」


そりゃー、俺の見た目をこんなにした前科持ちの奴が何かしようとすれば怪しむのも当たり前だろ。最終的にはミナにでも確認させて了承を得たんだろうけど。


「でもみんな引き落としはあんたの口座からっていうのがあって、まだ通販は使ってないみたいよ」


これに関してはよっぽど高い物じゃない限り俺のポケットマネーから出すようにする予定ではある。理由はこっちの世界とあっちの世界とで物の値段が違うというのが大きい。


それなのに全部自腹にしたら普通に渡す予定の給料額では足らなくなってしまう。


「他に何かしたことは? ってか今お前が食ってる朝飯の材料はどっから出てきた」


「材料はうどんと一緒に買ってきたのよ。あと、あんたの家の宅配ボックスをちょっと弄って荷物がそこに入れて扉が閉まった瞬間、このテーブルの上に自動転移するようにしといたから」


「また勝手なことを……。しかもうどんと一緒に買ってきてる時点でうちに泊まる気満々じゃねーかよ」


「でも宅配ボックスの件に関しては結構いいでしょ? 一々あんたが荷物を取りに行く必要もないし、エメがネットスーパーで食材を買ったとしてもすぐに届くんだから。これでいつでも和食が食べられるわよ」


悔しいがこの件に関してはこいつに感謝だな。言われるまで買い物や宅配便の荷物は俺が代わりに取りに行けばいいと考えていたし。


「まあこの件はもういいや。それより聞きたいことが幾つかある」


「私が分かることなら答えてあげる。というか無視するとうるさそうだし」


残念ながら今は騒ぐほどの元気はないのだが、答えてくれるならそれでいい。


「俺は日本でも魔法が使えるみたいだが、地球にも魔力が存在しているのか?」


「答えはNO。そんなものがあったら普通に魔法が使われてるわよ。あんたが特別なだけ」


「つまり俺にだけこの世界から魔力が供給されるようになっているってことでいいのか?」


「そういうこと~。分かってるとは思うけど人前で魔法なんて使うんじゃないわよ。特に学校に行くのが面倒くさいから転移魔法~とか」


多分それはバレないようにやります。


「次に勇者召喚についてだ。どうもこの世界では各国百年に一度のペースで出来るらしいんだが、その際必ず一つだけ特別な力が貰えるらしい。これに関してお前ら神は何か関係があるのか?」


「そんなの私は知らないわよ。異世界に地球人を送り込んだのはあんたが初めてだし、特別な力は一つだけってケチ過ぎない? 私なんてそこらの神なら相手にならない程の力を与えたわよ」


「ちなみに神の中でも派閥というか…誰々は地球のどこどこ担当、誰々はこの世界のどこどこ担当とかあるのか?」


「あ~、それはあるみたいよ。私はこっちの世界の神には誰一人として会ったことがないけど」


やっぱりそれはあるのか。まあ人間がいるところに神がいると考えればいるのが当たり前か。


「となると勇者召喚された奴に特別な力を渡しているのはこの世界の神ってことか……」


「そういうことになるわね。どうせ全員私より雑魚だろうけど」


「なんとも頼りになる発言だことで。もしもの時は遠慮なく呼び出してやるよ」


「まあその件に関しては私も協力してあげる。ちょっとこっちの神様も気になるし」


どうせ拒否られると思っていたのだが、意外とすんなり納得してくれたな。ラッキー。


取り敢えず聞きたいことは全部聞き終えたのでそろそろ部屋に戻ろうかと思い始めた頃、丁度ティアが騎士団から帰ってきたようで


「お主、もう起きておって大丈夫なのかの? わらわには大丈夫そうに見えんのじゃが」


「朝飯食い終わったから今からもう一回寝るところ。正直歩くのもしんどいから昨日みたいに運んで」


「しょうがないのう。……ほれ、行くぞ」


あ~、これ楽でいいわ。ティアが来なければ転移魔法で自分の部屋に戻ろうかと思ってたけど、魔法を使うのにも気力が必要だから結構助かる。


「ついでに新しい冷え○タも貼って~」


「その様子だとまた無理をしよったな。まったくしょうがない奴じゃのう」


まだ運ばれてる途中だけど寝ちゃおうかな……。

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