第40話:ティアが一番?

ティアによって自分の部屋へ強制連行された後、やはり気付かないうちに無理をしていたのかすぐに寝てしまい起きると朝の11時過ぎになっていた。


……まだ怠い気がするけど感覚が鈍ってるせいか自分じゃまだ熱があるのか分からねえな。……部屋には誰もいないみたいだし朝飯ついでにリビングでも行ってみるか。


ということで俺はゆっくりと起き上がり温くなった冷え○タを剥がした後、リビングまで壁に寄っ掛かりながら歩いて向かった。


「おはようございます旦那様。体調はどうですか?」


「熱はよく分からないんですけど、まだ怠いです」


「申し訳ないのですが先ほどまで水仕事をしていて手が冷たいのでこちらで失礼しますね」


そう言いながらエメさんはこちらに近づき俺の前髪をかき上げてきたかと思えば、そのまま自分のおでこをコツンっと当ててきた。


これじゃあもう姉っていうより母親と子供って感じだな。まあエメさんは実際俺のことは子供だと思っているだろうし、こっちも母親とまでは言わないまでもそれに近い何かを感じてるから別に緊張も何もしないんだけど。


これがミナやリアとかならそのまま抱きしめたくもなるけど、エメさん相手だとそんな気持ちにもならないし……。


それはエメさんも同じらしく、いつも通りの優しい顔のまま


「やっぱりまだ熱がありますね……。朝ご飯はどうなさいますか?」


「ちょっとお腹空いたんで何かお願いしてもいいですか」


「かしこまりました。それではすぐにご用意致しますので少々お待ちを」


そう言い終えた後エメさんはキッチンへと向かっていったので、俺はリビングにあるテーブルへと移動し椅子に座った後、暇つぶしも兼ねて二人で話をすることにした。


「他の人達は何をしてるんですか?」


「ミナ様達は書類仕事を、お嬢様達はリアーヌちゃんの下でお掃除中、セレス様は私達とは別の場所のお掃除を、アベル様とティア様は騎士団の方におられますよ」


「仕事をサボってるのは俺とティアだけか」


「別に旦那様が行うべき仕事はあまりないのですし、そんなに気になさらずともよろしいのでは? ティア様はちょっと自由過ぎますが……」


そう。実は俺の仕事は何かしらの会議に参加することと、承諾等の最終確認が主であとは他国との交流くらいなので意外と暇っちゃあ暇なのだ。今のところは。


「まあティアに関しては最悪肝心な時にいてくれれば大丈夫なんで問題ないですし、俺からは何も言う気はありませんけどね。それに騎士団の方の面倒を見てるみたいだし」


「そうみたいですね。今朝も旦那様のご様子を確認してから、アベルさんを引っ張って行きましたし」


「えっ、あいつ俺の所に来たんですか?」


「はい。朝ご飯の時間に私とミナ様、それにリアーヌちゃんとティア様で起きておられるか見に行ったのですよ。リアーヌちゃんなんか『今日は私がずっと傍にいて看病します』っと言っていました……。まあ旦那様の専属メイドでもありますからそれもちゃんとしたお仕事なんですが、まだ子供達の方がお仕事に慣れていないというのもあって今回は我慢してもらいましたけど」


「確かにリアも俺の専属メイドだけど、もっと暇な専属メイドがいるでしょ。別に誰かが傍にいて欲しかったわけじゃないですけど」


逆に何時間も寝てる俺を見てもらっているのも申し訳ないし、別に照れ隠しとかそういうのではなく本心からそう言ったのだが


「ふふっ、大丈夫ですよ。午前中は騎士団の方に行っていますが、午後は旦那様の所へ行くとティア様が仰っていましたから。昨日だって午後はずっと旦那様のお部屋におられたんですよ」


「あいつ、人のことを心配してるのかしてないのかよく分かんねーな」


「……ティア様の場合旦那様に対して過保護になり過ぎないように、ですが放任にはならないよう気を付けてらっしゃる様ですし、旦那様を一番気遣ってるのはあの方かもしれませんね」


う~ん。ミナとリアの二人が俺のことを気にしてくれてるのは分かるけど、ティアはただ自由なだけのような。


などと考えているうちに俺の分のご飯が出来たらしく、エメさんはお盆にどんぶりを乗せてこちらにやってきた。


「お待たせしました、野菜入りうどんです。野菜の方はしっかりと煮込んでありますので食べやすくなっていると思いますよ」


「うどんってことはルナが買ってきたんですか?」


「はい。ご主人様がお部屋に戻られた後、何だかんだ仰りながらも買ってきてくださいましたよ」


へ~、本当に買ってくるとは思ってなかったかったわ。今度会ったらお礼を……言いたくないからいいか。


ルナのことなんて考えてないで冷めないうちに食べよ。


「いただきます」


「はい。もし体調が悪ければ無理に全部食べなくても大丈夫ですからね」


俺の体調を考慮してか量が少なめなので残すことはないだろうと思いながらうどんを啜り始めると、エメさんは向かいの席に座ったので適当に話を続けることにした。


「そういえば俺が渡した料理本にうどんの作り方なんて書いてありました? あっちでは簡単な料理の部類に入るんでわざわざ書いてるある本は少ないと思うんですけど」


「それなら問題ありませんでしたよ。昨日ルナ様が旦那様からと言って、タブレットという物を渡してくださいましたから」


「…………」


「最初使った時は凄く便利で驚きました。どんなことでもすぐに調べられますし、お陰で料理のレパートリーが一気に増えました。今旦那様が食べているのもその一つですよ」


「ちなみにスマホは持ってます?」


「はい。そちらもルナ様から渡されました。確か私とセレス様にはタブレットとスマホを一台ずつ、ミナ様・リアーヌちゃん・マイカちゃん・ティア様・アベル様にはスマホを一台ずつでしたね……。一応宛先がそれぞれ私達の名前になっていましたので開けてしまいましたが、マズかったでしょうか?」


駄女神のことは一旦置いておこう。今度会ったら一言文句言ってやる。


「別に問題ないですよ。元々みんなの為に買ったんですし、うちでは立場なんて関係ないって言ってるのは俺なんですから見たことがない箱でも何でも、自分宛の荷物なら一々確認しなくていいですよ。流石に怪しい物だったら一回確認してくれた方が助かりますけど」


つまり今回はルナ経由なので別に文句を言う気はない。


「ふふっ、ありがとうございます旦那様」


「なんか俺変なこと言いましたか?」


「昨日皆さんで荷物を開けるかどうかを少しだけ話し合ったのですが、全員一致で旦那様なら大丈夫だろうってお話になりましたのでつい」


「俺の考え方がみんなにちゃんと伝わっていてもやっぱり他とは環境が違いすぎますから、変に遠慮とかされてたらどうしようかと思ってたんですがその心配はなさそうで良かったです」


自分の宛名の荷物とはいえ、明らかに主が用意した物。ましてや異世界の物となれば一度確認するのが普通なのだろうが、それをしない時点で心配のしようがない。


「確かに他の宮殿ではこんなこと有り得ないと思います。ですが旦那様は『そんなメイドとかご主人様とかくだらないことは全部忘れろ! ここに住んでる奴は全員家族だ。だからそんなことで一々遠慮すんな』と仰いました……。私達が仕える主がそう言うのであれば他は関係ありません」


「なんかそれだと仕事でやってる感があるんですけど」


「例え血が繋がっていなくても家族というのは仕事として行えるものではありません。そんなことをすればすぐにボロが出ます。それに私達はミナ様の面接を合格しているのですから、そんなこと絶対に有り得ませんよ」


「……あいつ面接の時に何か聞いたんですか?」


「恐らく城内で暮らす方々だけにだと思いますが、私の場合は最後に『ソウジ様はかなり変わった方ですのでもしかしたら、立場なんて関係ないとか言い出すかもしれませんが問題ありませんか?』と聞かれました。実際はもっと変わっていらっしゃいましたが」


かなり変わった方って。それもうあなたが仕えようとしてる主は変人ですよって言ってるようなもんじゃん。もはや悪口でしょ。


「まあみんなが納得してるなら何でもいいんですけど」


そう言った後俺は黙って残りのうどんを食べ進めた。

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