第34話:やっぱり国際問題に……

あれからリアを先頭に城内へと進み、とある扉の前で止まると


「こちらがいつも陛下がお客様とお会いされる際に使われるお部屋です。なので今回もこちらで大丈夫かと。陛下が既におられるのかは分かりませんが……」


「なるほど。んじゃ、みんなの準備が整ったら開けていいぞ」


「パーティー会場に入る時はあんなに嫌がっていたのに、今回は自信満々だな。まるで別人みたいだぜ」


「男子三日会わざれば刮目して見よ。いつまでもあの時の俺だと思うなよ」


「言葉の意味は何となくしか分からないけど、坊主のことは毎日見てるぞ」


などと俺らが話しているうちにミナはコートを脱ぎリアに身だしなみのチェックをしてもらっていた。なので俺はミナからコートを受け取り収納ボックスの中に仕舞うと、慌ててアベルも脱ぎだし


「俺のも邪魔だから一緒に入れてくれ」


「自分の荷物くらい自分で持てってママに教わらなかったのか?」


「そんなことを言いながら、ちゃんとアベルの分も仕舞って差し上げるのですね。……準備はよろしいでしょうかご主人様」


そう聞かれたため俺は一度頷くと、リアは扉の前まで移動し二回ノックした。すると


「どうぞ……」


そう一言男の声が返ってきた。その為リアがゆっくりと扉を開け、そのまま扉を抑えているので俺達はミナを先頭に軽く挨拶をしながら部屋へと入った。


「三人ともお帰り。ボハニア王国の偵察ご苦労だった。………そして、そちらの方は初めまして…だね。私は十代目マリノ王国国王、ブノワ・マリノだ。よろしく」


「私はソウジ・シラサキ。日本での場合は白崎宗司です。先ほど日本と言ったことからも分かる通り、私は異世界人ですので以後お見知りおきを」


「日本人か……。色々聞きたいことはあるが、まずは座ってくれ」


そう言われたので俺は陛下の向かい側にあるソファーの真ん中に、その隣にミナが座ったのを確認してから陛下も腰を下ろした。


当たり前だがリアとアベルは俺達の後ろに立っている状態だ。うちとは違う。


「今回は取り敢えず軽い挨拶をと思ってね、私以外は誰もいないんだ。お茶は少し我慢してくれ」


「いえ、お気になさらず」


さて、お茶すら出さないということは速攻で話を終わらせる気なのか……それとも何か別の狙いがあるのか。


「では早速だがまずは謝罪をさせてもらおう……。先ほどの弓兵の件は本当に申し訳なかった。つい最近まで我が国の周辺では戦争が行われていてねえ。今回の勝利国は魔法の杖を持った100人の兵と鉄の馬車1台だけというあまりにも少ない人数で、しかも圧倒的勝利を収めたという。それで少し兵達も過敏になっているんだ」


「そんな時にボハニアへ偵察に行っていたミナ達が怪しい男と一緒に帰ってきたと」


「いや別にシラサキ殿が怪しいというわけでは……。ただ数日前からボハニアで起こった騒動の噂もあったので一応ね。それに最悪ミナ達三人がいれば何とかなるという確信もあった」


「つまり俺がミナ達の敵であればそのまま助けず弓兵達の攻撃で殺されていたと。流石王様は考えることが違いますね。俺には到底思いつかない発想ですよ」


もちろん皮肉であるのだが、挑発には全く乗ってこず別の話へと流された。


「そこで今回の件でお詫びをしたいと考えていたのだが、何でも君は私の娘であり第一王女でもあるミナにキスをしたそうではないか。それも国民が大勢見ている前で……」


「今回はその件をチャラにしてやるから許せ…と?」


「ハッキリ言えばそうなるが悪い話ではないだろう? 君は知らないかもしれないがミナは現在王位継承権第一位でもある。その為まだ許嫁などはいないとはいえ、ある程度の候補は何人か存在しているんだよ。そして一番の問題は私の大切な娘の唇をどこの馬の骨とも知らない男が奪った。そんなことをされて黙っている父親はいない」


完全に脅しにきたな、これ。ならこっちも遠慮はなしだ。


「う~ん、父親としては100点ですが……国王(仮)とはいえ一応他国の王様に向かって当たれば必殺の攻撃、しかもこの国最大レベルの攻撃魔法を撃っといてその言葉は0点ですね。まあ私のことを舐めてその判断なら100点ですが」


「別にそういうわけでは。ただ私は君の心配をして―――」


「………一人、二人、三人、四人、五人、六人、七人、八人、九人、十人」


「いきなり誰もいない所を指をさしながら人数なんて数えてどうしたんだい?」


「それとあそこに城の外部から来た人間は魔法を使えないようにする魔道具もありますね。一応魔法で見えないように隠しているようですが……。実は私達が住んでいる城にも同じようなことをしているんですよ。まあうちの場合は魔道具ではなく私が城全体を結界で覆っているんですけどね……。こんな風に」


そう言った後うちの城に張ってある結界と同じものをこの城に張ると、先ほど指をさした所に今までは見えなかった十人が一斉に姿を現し出した。魔法で隠れていたのだから当たり前だが。


「皆さん短剣とか持ってますし陛下の護衛ですか? 十人も護衛が付いてるなんて羨ましいですね。とか言いつつ私にも一人護衛がいるんですが、今日城を出る前に着いてくるか聞いたら……」


俺はそこで一度言葉を切り、変身魔法で自分の姿をティアにして


『今日はミナ達の荷物を取りに行くだけじゃろ。なら別に危険なことは何もなかろう』


「とか言ってうちの騎士団の相手しに行っちゃったんですよ。いや、目的地に着いた瞬間殺されかけたっつうの。………あれ? 面白くありませんでしたか? 俺的にはここ最近で一番面白い話だと思うんですけど……。ああ、もしかして私の護衛が小さい女の子だったからドン引きしているんですか? 大丈夫ですよ、ああ見えて吸血鬼の420歳らしいですし、ミナ・リア・アベルの三人が相手でも余裕だそうですから」


ちなみに俺の変身魔法は声や姿は勿論、体自体本人になれる。つまり俺が女になれば普通に男とセッ――することも出来る。まあ男とセッ――するなんて絶対にごめんだが。


ん~、でも自分の女体化を作ってミナ達と百合セッ――するのもありだな。ちょっと考えておこ。


とか俺が頭の中でふざけたことを考えていると、さっきはワザと護衛と言ったが間違いなく暗殺者とかそれ関係の人達が一斉に動きだそうとした瞬間


「待てお前達……。私が指示を出さない以上シラサキ殿に手を出すでないぞ」


おっ、呼び方が君からシラサキ殿に戻ったな。別にどっちでも良いけど。


「話が長くなりそうならお茶でもご用意しましょうか? まあ私が用意出来るのは日本で売られている物が殆どなのでお口に合うかは分かりませんが」


「ソウジ様、今回はお父様の対応が悪かったせいで怒っているのは分かります。ですがこれ以上ご自分の手の内を晒すのはよくないかと」


「え~、でも誰かに口の中の水分を吸われたせいで実は結構喉乾いてるんだけど」


「誰のせいか分かりませんが今は陛下とのお話し中。我慢してください、ご主人様」


「いや犯人お前だろ」


完全にいつもの空気になったな、この部屋。アベルとか自分の国の王を前にしてツッコミ入れてるし。


「今までの私の対応は一旦抜きにして幾つか質問をしたいのだが、いいだろうか?」


「いいですよ。別に陛下を責めに来たわけでもないですし、先ほどの対応は全然気にしていませんので」


「嘘つけ。滅茶苦茶怒ってたじゃねーかよお前」


「あんまり五月蠅いと置いて帰るぞ」


「ふざけんな! ここから歩いて帰るのに何日掛かると思ってんだ!」


歩いたことないから知らねーよ。


「まずはソウジ殿とミナ達三人との関係について教えてくれないか」


「アベルはうちの騎士団の団長で、リアはミナと俺の専属メイド、それでミナはうちの宰相で―――」


「アベルは正しいですが、私とリアーヌの部分は何か一つ足りないんじゃないですか…ソウジ様」


「ちょ、ちょっと待てくれ。今の情報だけでもかなり大問題なんだが、まだあるのか?」


そりゃそーだ。王位継承権第一位の王女が他所の国の宰相になっていたり、自分の国の騎士が他所の国の団長になっているんだからな。これに加えて二人を嫁に貰いますなんて言ったらどうなることやら。


「いえ、無いで―――」


「私とリアーヌはもうソウジ様のものです」


「まだ違うだろ! お前ら二人とも処○だろうが!………あっ」


「まっ、まあその話は置いておこう。次の質問だが、つい先日ボハニア王国で大きな騒ぎあったという噂がこちらまで流れてきているのだが、その騒ぎの中心人物というか…主犯格はシラサキ殿でよろしいのか……な?」


これに関してはどんな噂が流れているのか分からないため、あの日起こったこと全てを説明すると陛下は真っ青な顔をしながら


「うっ、嘘だよな?」


「本当ですよ。というか陛下の場合嘘を見抜けるんじゃ…ああそうか。……はい、確認をどうぞ」


「…………」


あ~あ、固まっちゃった。ここで小説とかなら護衛とかが


『貴様‼ 陛下に何をした!』


とか言いながら襲い掛かってきて国際問題になりかけるみたいなのがテンプレだけど、現実でそんなことはないんだな。まあそんなことをしたら速攻で首が飛ぶだろうけど。物理的に……。


とはいえ暗殺者共はいつでも動けるよう相変わらず臨戦態勢ではあるけどな。さっきとは違ってこっちはオートバリアを発動させてるからどうでもいいけど。


「落ち着けお前達。今の話は全部本当だ」


「ですが陛下! そんなこと普通に考えてあり得ません! この男が陛下に何かしたに決まってます‼」


おっ、いいね~。小説ぽい展開になってきたじゃん。でもそろそろ限界だから付き合ってあげられないんだわ。


「どうやら彼以外にも納得していない人達がいるようですしこちらをお貸しいたします。これを使えば当時の様子を見ることが出来ますのでよろしければ皆様でご確認を。あと今回はギルドにも協力してもらったので、そちらにも確認していただいていいですよ」


そう言いながらテーブルの上に魔法で改造しておいたテレビを置き、使い方を知識共有で直接脳へ送った。


改造内容は魔力でコンセント不要、破壊・盗難・解析が不可、スマホで撮った動画をテレビに保存可能などである。魔法さまさまだなホント。


「誰かがギルドに確認しに行くなら一緒に連れて帰りますが、どうします?」


「いや、それは大丈夫だ。ギルドには連絡を取り合う特別な魔道具があるらしく、情報の共有は異常に早い。噂では勇者召喚を行って作らせたとも言われているが、詳しいことは私も知らない」


それが本当ならギルドおっかな過ぎだろ。そりゃー国が相手でも余裕でいられるわけだ。


「そうですか。ではミナとリアの件については改めてご挨拶に伺いますので、本日はこの辺でおいとまいたします」


「よっ、よければ食事でもどうだ? そろそろお昼だし、お茶を出さなかった分も含めてということで」


陛下側からしたらこの国に手を出さないという確約が欲しいんだろうけど、マジでもう無理だから帰らせて。


「そうだ! わざわざ帰るのも大変だろうし、いっその事うちに泊まって行くのはどだろう?」


絶対に嫌だ。こうなったら念話でミナとリアに助けを求めよう。じゃないとマジで魔法が使えなくなる。


ということで二人に助けを求め、明後日また来るということで話がまとまった。

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