第35話:もう限界……
なんとか国王による足止めを回避した俺はミナにこれ以上自分の手を晒すなという忠告を完全に無視し
「ではまた明後日にお邪魔いたしますので、今回はこれで失礼します」
「そんなことを言わず、せめて玄関までご一緒させてくれ」
「いえ、私達はここから帰りますのでお気になさらず……。では、お邪魔しました」
そう言った直後、俺は転移魔法を使い自分達の城へと転移した。
「ん? ここは……俺の部屋とデザインは同じだから、誰かの部屋…だよな。なんでこんな所に転移したんだ坊主」
そんなアベルの疑問などガン無視し、今まで使っていた魔法を一斉に解いた瞬間……実はとある理由でさっきから身体的にも精神的にも限界がきていた俺はそのままベッドへ倒れ込んだ。
それから小さい声で三人向かって
「は~~~あ、疲れた。……もう寝かせて」
「おい、俺の質問を無視して寝ようとするな! 結局ここは誰の部屋なんだよ!」
「俺の部屋。お願いだから黙って」
「ソウジ様は私達と違って初めての謁見。それに加えて今回はお父様との脅しあいといいますか、どちらが今後の話し合いを優位に進められるかの駆け引きもありました。それを力技とはいえ一人で行ったのですから疲れもするでしょう……。ですのでゆっくり休ませてあげましょう」
そうだ、もっと言ってやれ。そして静かに寝かせてくれ。
「いや陛下達は疲れたどころか今も心労で死にそうになりながら色々と動いているだろうけどよ、こいつに疲れる要素なんてあったか? 後ろから見てた感じでは最初っから最後まで余裕しかなかった気がするんだが」
「そんな訳ないだろ。最初っから最後まで俺に余裕なんて無かったよ。あれはただそう見せてただけだ」
「私に教えても大丈夫ならでよろしいのですが、ご主人様は一体どうやって陛下達を相手に平常心を保ったまま話し合いをしていたのでしょうか」
「んなの坊主には圧倒的な力があるんだから勝手に自信が湧いてくる。そしたら自然と平常心も付いてくるってもんだろ」
なんか馬鹿が馬鹿なこと言ってる。人のこと何だと思ってんのこいつ。
「悪いが俺はそんなに頼もしい人間じゃないぞ。あれはただ魔法を使ってポーカーフェイスしていただけ。だから超余裕そうに見えて内心では凄く動揺してたし、あともう少し遅ければそのせいで魔法が使えなくなるところだった」
持続型の魔法は一回使えば術者が解除するか魔力が無くなるまで続くが、動揺した状態で新しく魔法を使おうとすると上手く使えない場合があるのだ。そう考えると咄嗟に弓兵の攻撃を転移魔法で飛ばせたのは奇跡に近い。
もしかしたらああいうのを火事場の馬鹿力と言うのかもしれないな。
「てことはさっきのは全部はったりか……。でも魔法を使っていたとはいえ一国の王様に加え、暗殺部隊の連中が勢ぞろいしてる中であそこまでの立ち回りを演じたのは褒めるべきなのか?」
「交渉としてはかなり無理やりなやり方でしたが、なんの勉強もせずにこの結果なら褒めてあげるべきかと」
「姫様がそう言うならそうなのか。俺も一つ疑問があるんだけどよ、あの部屋で坊主が魔法を使えたのは何となく分かるんだが、何で誰も坊主が魔法を使っているって気付かなかったんだ。あそこにいた暗殺部隊の連中はもちろん陛下も普段ならすぐに気付くはずだよな」
もうホント寝かせてくれよ。こっちに帰ってきて気が抜けたせいか分からないけど、なんか急に怠くなってきたんだけど。
「恐らくですがソウジ様は魔力を探知されない類の魔法を使っていたのではないでしょうか。私のコートを収納ボックスに仕舞う時点で既に魔力を感じませんでしたし」
「確かにそれなら納得だな。実際どうなんだ坊主」
アベルが何か言ってるけど頭がボーとして聞いてなかった。まあアベルだし別にいいか。
「………ちょっと失礼しますねご主人様」
そう言いながらリアは俺のおでこに手を当ててきた。
「んっ、冷たくて気持ちいい……」
「やっぱりちょっと熱がありますね」
「えっ⁉ 風邪か何かですか?」
「いえ、恐らく先ほどまでの緊張状態から解放された反動で一気に疲れが出てしまったのでしょう。ご主人様は疲れが溜まると熱を出しやすい体質というのも有りそうですが」
よく分かったなリア。前半はどうか分からないけど後半は当たりだぞ。昔から遊び疲れでよく次の日とか熱を出して学校を休んでたからな。最近はあんまりなかったけど。
「貧弱な体だなぁ、おい。そんなんでこの先戦闘とかがあった場合どうすんだ?」
「ですがこれは体力が無いとかそういうわけではなく、体質みたいなものですからね。私達が無理をさせないように注意すれば問題ないでしょう。それに最悪はこうして……」
リアは俺のおでこに当てていた手を少しだけ上げ、翳すようにしたかと思えば優し光が溢れ出したのだが
「あら? 私の治癒魔法が効いていない」
「そっ、それってもしかして何か重い病気……。どっ、どうしましょう⁉ 取り敢えず病院に!」
「落ち着けミナ。俺の体はちょっと特殊だから効かなかっただけだろ。どういうわけか普通の怪我ならリアの魔法でも治るみたいだし、別に問題はない」
というのも最近指のささくれを剥いて血が出ていたのだがこれが綺麗に治っているのだ。つまり怪我は治せるが、何かしらの理由で病気は治せないのだろう。まあ心当たりは二つあるしな。
一つはポンコツ女神が行った若返りによる代償。そしてもう一つは………。
「そういえば、今のご主人様と同じ症状の方が一人だけいましたね」
「あっ、お母様! ですがあれは成長を止める指輪による副作用というか、成長を止めている間は一部の細胞等が一緒に止まってしまっているせいだと聞きましたが……。それにあれはマリノ王国の王族と結婚した者にのみ受け継がれている物。それをソウジ様が持っているとは思えないのですが」
あの国の王族はハイヒューマンの一族。その為寿命がかなり長いはずなのに結婚相手はどうしてるのか思っていたんだが、そんな便利な道具があったのか。……まあ俺はいらないけど。
「さて、本当ならここでご主人様に真相を聞きたいところなのですが……更に熱が上がってきたみたいですし、まずはゆっくりとお休みく―――」
ごめん…リア。どっちにしろもう限界…だ………。
体が熱っぽい……。けどおでこが冷たくて気持ちいい。
「んっ、起きたのかの?」
「ん~ぅ。……ティア?」
「そうじゃぞ~。お主の専属メイドのティアじゃぞ~」
「なんだそのふざけた自己紹介みたいなのは」
「お主が熱にやられて誰か分かっておらぬようじゃったからのう。別にふざけたつもりは半分しかない」
半分どころか九分九厘ふざけてただろ。さっきの喋り方は赤ちゃんに接する時の母親みたいだったぞ。
「それで、なんでここにいるんだ?」
「なんでと言われてもの~。わらわが一番暇じゃから?」
「なんで疑問形なんだよ。あとお前は暇なんじゃなくてこれが本当の仕事なの。つまり今は仕事中」
「今のお主は熱で弱っておるせいか普通に喋る時だけじゃなくツッコミの声も小さくて良いのう。全く怒られとる気がせん」
別にいつも怒ってるつもりはないし、ティア自身怒られてるとは思ったことないだろ。
「そういえばこの冷え○タはどうしたんだ?」
「それはリアが薬関係がしまってある棚から持ってきたものじゃな。というか医療品関系は殆どお主が用意したものじゃろうに」
「あ~、リアがいるから別にいらないかと思いつつ一応用意したんだった。まさか自分が使う羽目になるとは」
「今後もあれを使うのはお主がメインじゃろうの」
こいつ、俺がしたことにどこまで気付いてるんだ? 正直これに関しては俺が怒られてもおかしくないからな。あんまりバレていたくはない。
「ティア、腹減った」
「んむ。お主達が帰ってきたのが丁度お昼くらいじゃったし、その後すぐに寝たと考えれば無理もないのう。ちょっと待っておれ、今エメに何か作らせるからのう」
「あくまでも自分ではやらないんだな」
「わらわが作るよりエメの方が味は確実じゃろ?」
「確かに……」
「分かったのなら少し大人しくして待っておれ」
そう言うとティアは足をぷらぷらさせながら座っていた椅子から降り、一旦この部屋を出て行った。
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