第33話:危機一髪

「「「「…………」」」」


「まっ、間に合った……」


俺はそう言った直後、腰が抜けてしまい足元から崩れ落ちていく途中でミナとリアが両脇から支えてくれたため、地面にへたり込むこまずに済んだのが……初めて命の危機を感じたせいか体中の力が抜け、上手く力が入らなくなってしまった。


「おい、大丈夫か坊主」


「…………」


「チッ、坊主のやつ驚きすぎて完全にイッちまってるぞ‼ リアーヌ、早く鎮静魔法をこいつにかけろ!」


「今やってます‼ それより、あっちの様子はどうなっているのですか!」


「俺じゃあ見えねえよ‼ それを聞くためにも坊主の回復を急げ!」


それから少しすると……リアのお陰で段々落ち着いてきたのと並行して余裕が生まれてきた為、自然と怒りが沸き始め……ついには


「ざっけんなよ‼ なんだあの威力は! 咄嗟に転移魔法で海に飛ばさなかったら死んでたぞ! しかも見事に俺だけな‼」


まあ何があったかは言わなくても分かるだろうが、普通に矢を撃ってきた。それもなんか見るからに色んな魔法が付与された矢をだ。そのため咄嗟に転移魔法を俺達の目の前に展開し、初めてドラゴンと戦った海に繋げたことで何とか回避することが出来たのだ。


しっかし、なんつう魔法を使いやがるんだあいつら。千里眼で海に飛ばした矢をずっと見てたけど、まず最初に一本だけ何かの魔法が発動したかと思ったら人間一人を閉じ込められるくらいの透明な箱が現れて、そこに向かって残りの矢が突っ込んで行ったぞ。


その後はも~う爆発するやら、燃えるやら、冷気が充満するは、黒色の怪しいオーラが充満するは、他にも色々あるはで凄いことになっていた。まあ、あんなえげつない魔法を何発も撃てるとは思えないけど。


「そんだけ元気なら大丈夫だな。それで、あっちの様子は?」


「さっきのがあいつらにとっての最終兵器みたいなものだったのかは知らないけど、かなり慌ててるぞ」


「ちなみにどんな魔法だった? さっきの怒りようからして見たんだろ?」


そうアベルに聞かれた俺は先ほどの様子を説明してやると


「それ多分うちの国最大レベルの攻撃魔法だわ。しかもついさっきまではあれの存在を知っている奴全員が必殺必中だと思っていたものだからな。それを避けられたってならりゃあ、そりゃー焦るだろうよ」


「……ちょっとあの人達の所へ行きましょう。誰の指示かは知りませんが、私達のソウジ様にその様な魔法を使ったことを後悔させてあげます」


「待て待て待て。それは国際問題になりかねないから止めろ」


「ご主人様はまだ国王を名乗っておりませんが実質国王みたいなもの。ですのでもう既に国際問題になっていてもおかしくないですよ。それにもしご主人様が国王宣言されていた場合、即戦争もあり得たかと」


あっぶねー。まさか三人の荷物を取りに来たはずが、いきなり喧嘩を売られて戦争することになりましたとか笑えないわ。……他人事なら笑ってるかも。


「あの~、お取込み中申し訳ないのですが……王城の方から入城の許可が出ました」


おっ、門兵のお兄さんがいないと思ってたらちゃんと仕事してたのか。てっきり逃げたのかと思ってたわ。ごめんね。


「よ~し、じゃあ国王本人にお詫びを貰いに行くぞ~」


「坊主、今ふざけてる様に見せて実は滅茶苦茶怒ってるだろ」


「そんなわけないだろ。まあ俺も人間だし、ちょっとは怒ってるけど……。ミナとリアがいなければもう一生この国に来ることはなかっただろうけど」


「本当に申し訳ありませんソウジ様。王宮に着き次第早急に情報を集めさせますので」


「いや、そういうの面倒くさいからいいよ。別に謝られたって何にも変わらな―――」


「私が出来ることなら何でもします! だからっんぅ⁉」


ミナは泣きそうな顔をしながら俺の言葉を遮ってきたので面倒くさくなり、自分の口でミナの口を塞ぐことにした。


……だってこの流れだと絶対に泣かれるやつだし、この後ミナを納得させられる言葉なんて思いつかなかいし。ならもう取り敢えずキスしとけば良くね? という童○らしい考えに至ったわけなんだが


「ご主人様ってば大胆ですね。まさか陛下へのご挨拶より先に国民の前でお嬢様とキスされるとは」


「おい! 何呑気なこと言ってんだ! 向こうで様子を窺ってた警備兵共がこっちに来てるぞ!」


しかも周りにいた人達が騒ぎ出したぞ。当たり前だけど。


「俺は悪くありませんよ‼ 悪いのは全部あそこにいる弓兵部隊の奴らです! でも全力で逃げます!」


俺はそう言いながら急いで王城ぽい場所を探し出した後、ミナはさっきのキスした態勢からあまり動いていなかったので左手でそのまま抱き寄せ、その流れで少し離れた場所にいたリアにも右手で同じことした。


その後すぐ自分にだけ浮遊魔法を使って数ミリ足を浮かせ、そのままアベルの体を両足を使って引き寄せると


「おい‼ いきなり何すんだ!」


「うるせえ! 体が半分になりたくなかったら少しジッとしてろ!」


今のセリフで俺が今から何をするか分かったらしく、すぐに大人しくなった為足を離し……俺は転移魔法を発動させた。






「ここは……マリノ王国の城にある庭か? 一週間ぶりくらいに来たな」


「んっ……、ちゅっ、んふっ……、しゅごひでしゅ、ごひゅじんしゃま……」


「わだじ、ソウジじゃまに…嫌われぢゃうがと思っで……ひっく、えっぐ」


「…………。何してんだお前ら‼ 坊主に泣きついてる姫様は兎も角、お前は離れろこのエロメイド!」


何でか知らないが転移直後、リアがいきなり俺にディープキスをしてきていたせいで前が見えなかったのだが、アベルがリアを引っぺがしてくれたお陰でやっと視界が広がった。


う~わ、離れる時リアの口から涎が糸引いてたぞ……。しかもちょっと目がとろ~んとして顔も少し火照ってたせいで、クッソえろかった。


「あん……。何するんですかいきなり」


「なに坊主とキスしてんだよ! しかも舌まで入れやがって」


「だってお嬢様だけズルいじゃないですか。私だって本当は不安で一杯だったんです」


リアの場合最初はそうだったかもしれないけど、絶対途中から目的が変わってたろ。特に舌の動きとか滅茶苦茶上手かったぞ。……後でサクランボのヘタ渡して口の中で結ばせてみよ。


「別にさっきの件は二人とも関係ないだろ。それに俺の言葉を信じないで呑気に構えてたアベルは兎も角、ミナとリアはすぐに俺のことを守ろうとしてくれたしな。それで嫌いになるわけないから」


この国に関してはこれからの対応次第だがな。


「だそうですよお嬢様……。いつまでご主人様に抱き着いておられるつもりですか?」


「初めてソウジ様に抱きしめてもらいましたが、凄く幸せで離れたくないです」


「いや泣き止んだなら離れてくんね。早く国王様にご挨拶しに行きたいからさ」


「さっきまであんなに優しかったのにいきなり態度変わりすぎだろ。どこがちょっとだよ、かなり怒ってるじゃねーか坊主」


当たり前だろ。確かに俺がいきなり王女相手にキスしたのも悪かったが、次は警備兵が武器を構えてこっちに向かって来たんだぞ。絶対また俺のことを殺す気だっただろ。なんて言い訳をしてくるのか楽しみだよホント。


「てか、俺が怒ってるどうこう関係なしにそろそろ行かないと拙いだろ。門兵に入城の許可を貰ってから結構時間が経ってるし」


「そこはあまり気にしなくても大丈夫ですよ。どうせお父様達の準備が整うまで時間が掛かりますので、逆に丁度良いくらいかと。……ですが流石にこれ以上はゆっくり出来なさそうですね。残念ですがそろそろ行きましょうか」


そう言いミナが離れた直後、何故かリアが近寄ってきたので何かと思えば


「ご主人様、お口の周りをお拭きいたしますので動かないでくださいね」


「あひぃかとう、リア。でもだへのしぇいたろうな」


「そうですね~、やはりご主人様に向かって矢を放ってきた無能共かと……。はい、綺麗になりましたよ」


確かに元を辿ればあいつらだけど、それは責任転嫁って言うんじゃないですかね。だがそんなこと今はどうでもいい。


「よ~し、じゃあ国王本人が何て言うか聞きに行くぞ~」


「なんかお前、時間が経つにつれてどんどん怒ってきてないか?」


「時間が経つにつれて落ち着いてくるのは自然。落ち着いてくるにつれて怒りが増してくるのも自然。つまり今の俺の怒りも自然。………三人とも、この先何があっても絶対に何もするなよ」


そう言いながらいくつか準備を整えていると、俺がこれから何かしらをすると気付いたらしい三人は一人ずつ


「かしこまりましたご主人様。ですが私達が危険だと判断した場合はお許しください」


「それとソウジ様がやり過ぎそうになった場合も止めますからね」


「あ~あ。坊主が何をする気は知らないが陛下も可哀想になぁ」


と言ってきた。


いやいやいや、可哀想なのは二度も殺されたかけた俺だから。そこのとこ間違えるなよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る