第32話:マリノ王国へ行こう

昨日ミナが言った通り本当にマリノ王国へ行くことになった俺達四人はそっちの方にある入国審査の門を超えたところでアベルが


「坊主、ここまでは普通に転移魔法で来られたがこの先はどうするだ? あれって一度行った場所か、自分が見える距離までしか行けないんだろ」


「ああ、だからここからは俺が見える限界の場所まで転移して~を繰り返して行くことにした。道はここを真っすぐでいいのか?」


異世界での移動手段あるあるの車を使っても良かったのだが、普通に昨日の今日では納車出来ないので諦めた。それに家具とかみんなの洋服を買うのに結構お金使っちゃったし。まあここ最近で一番お金を使ったのはブラックカードを作る時だけど。


一々現金で払おうとすると金額が大きすぎるし、だからといって適当なカードを作って上限とか来たら嫌だからネットで調べてみたところ、銀行に5000万円持っていけば普通に作れると書いてあったので作った。


もちろんリア達には内緒である。そんなことを言えば間違いなく怒られる。


「はい。ここを真っすぐ進めば入国審査が行われている門まで行けますけど……え~と、何故私をそんなに見ているのでしょうか?」 


「いや、ただミナが今着てるコート結構高かったんだよな~っと思って」


みんなに買ってやった服も決して安くはないのだが、今ミナが着てるコートは0の数が違う。まあコートだからしょうがないというのもあるのだが、ミナが普段着ている服はドレス風の物である為それに合わせようとするとどうしても値段が値段になってしまうのだ。


「だっ、だって昨日ソウジ様が、『俺がミナに渡した服に一番合うと思うコートを選んでくれ』って値段の部分だけ隠して写真を見せてきたんじゃないですか!」


「あれはカタログだから別に俺が隠したんじゃない。元から書いてないんだ。……たっく、値段を見た時はビビったぞ」


「ですが写真越しとはいえ良い物をお選びになられたお嬢様の目は本物。それに加えて高価なだけでなくちゃんとお洋服にも合うデザインですし、王族としての選択であれば100点ですね。元一般市民だったご主人様に対してあのお値段の物をお願いなされるのはどうかと思いますが……」


「でもこいつ滅茶苦茶金持ってるんだし良くないか? それにこれからは王族として生きていくわけだし、そういうことにも慣れていかねーと」


「お前が履いてるそのブーツとコートも結構高かったんだからな。しかも勝手に騎士団全員のサイズまで調べてきやがって。おかげで全員分買わされたじゃねーか。しかも各々に好きなデザインの物を選ばせやがったせいで注文するのがクソ面倒くさかったし」


「いやでもマジでこの靴スゲーんだぞ! 今まで履いてたやつと違って動きやすさは勿論、通気性とかも抜群でよー。しかもコートは軽いのに今までのとは比べ物にならないくらい温かいし。帰ったらあっちの騎士団の連中に自慢してやるぜ!」


当たり前だろうが。お前が今履いてるブーツとコートは現役軍人が使ってるやつだっつうの。頼むから他所の国の騎士団のサイズまで聞いてくるなよ。


「は~あ……。リアはコートとかいらなかったのか? ここまで文句を言っておいてなんだが、半分冗談だから別に遠慮しなくても良かったのに」


「いえ、別に今回は長時間移動をするわけでもありませんのでご主人様がご用意してくださったこの、国家レベルでも見たことがないほどまでに頑丈な防御魔法が付与されたメイド服で十分です」


「なんだ気付いてたのか。まあ俺の服以外は全部付与してるけど」


「私の他にお嬢様、ティア様、セリア様、エメ先輩、セレス様も気付かれていますよ。ですが何故ご主人様の物だけはそのままなのでしょうか? 私達からするとご自分の安全を一番に優先していただきたいのですが」


「俺の場合服じゃなくてコートに付与しようと思ってるんだけどなかなか良いのが見つからなくてな。だから俺だけそのままなんだよ」


やっぱ普通のコートじゃつまんないし、特注にでもするか? でもデザインのセンスは皆無だしな~。


「はあっ⁉ マジでかよ! ちなみにどれくらいの防御力があるんだ?」


「………これくらい」


そう聞かれたので俺は頭の中で妖刀ムラマサを思い浮かべ、手の中に現れた刀を鞘から抜き……思いっきり斬りつけると


「――――――ッ⁉………しっ、死ぬかと思った」


力任せに振るうだけなら楽なんだけど、やっぱり難しいな。


「さっ、そろそろ行くぞ。危ないからあんまり離れるなよ」


そう言うと何故か俺の右腕にミナ、左腕にリアが腕を組んだ状態になり、その近くに腰を抜かしたアベルが一人という形になった。まあ温かいからいいか。






それから何度か転移を繰り返していると復活したアベルが


「いや~、にしてもこれマジで楽だな。地面に座ってても勝手に進むとか歩くのがアホらしく感じるわ」


「なんかウゼーからお前だけここから馬車で行けよ。あれも同じで座ったままでも勝手に進んでくれるだろ」


しかもちゃっかり汚れないようにビニールシートまで敷いてるし。


「こんなの体験しちまったら二度と馬車なんて乗れねーよ。だいたい坊主も座ればいいじゃねーか。なんで立ってるんだ?」


「出来るだけ遠くを見れるように立ってるんだよ! お前マジで置いてく……っん? あれって門だよな」


そう自分で言いながら何も考えずに転移したのが間違いだった。


「うおっ⁉ ………えっ? ええ゛っ‼ ミナ王女様⁉」


「はい、私はマリノ王国第一王女のミナ・マリノです。ただ今ボハニア王国の調査から帰還致しましたので入国の許可と王城への連絡をお願いします」


「はっ、はい。では申し訳ないのですが一応王族関係者だと証明できる物をご提示ください」


そう門兵の人に言われると俺以外の三人はポケットやカバンからメダルみたいな物を取り出した。するとそれらは金色に光りだし、それを確認した門番の人は


「はい、ありがとうございます。………それでですね、何と言いますか……ミナ様とリアーヌ様に挟まれているそちらの男性は一体……」


…………やっべ‼ 本当は門の手前で別れてミナ達に呼ばれたら城内にこっそりお邪魔する予定だったのに、完全に忘れてた。


「そっ、それじゃあ俺はこれで……」


「この方は私達の旦那様です。なのでこのことも連絡をお願いします」


そうミナが言った瞬間、俺達に興味はあるけど王族だからマジマジ見れない……けどコッソリ見ちゃう! みたいなことをやっていた奴ら全員が一斉に振り向き、俺のことを見てきた。


「こっ、怖い……」


「はっ! 私としたことがソウジ様に注目が集まる可能性も考えずにあんなことを。すぐに王城にお連れしますからもう少しだけ我慢してくださいね」


「いっ、いや、俺はどこかで適当に待ってるからさあ。荷物を運ぶ時だけ呼んでくれればいいかな~と」


「多分坊主が考えてたのは荷物を運ぶ時だけ王城に入って、そのまま誰にも会わずに帰るつもり……とかなんだろうけど普通にそれは無理だろ。いきなり三人分の荷物が、しかも数人では運べない量が一気に無くなったら変だし」


「………もしかして俺、嵌められた?」


「なんだ、気付いてなかったのかよ。てっきり俺は別の何か良い方法があるのかと思ってたんだが」


あの時はどうやって二人に許してもらうか考えるので頭が一杯で気付かなかった。


「いついかなる場合にも冷静に考えることが大事ですよご主人様。私達が怖かったからといって思考力が鈍るようではまだまだです」


「もうさあ、何でも良いからここから離れたいんだけど。さっきからどんどん人が増えてる……というか、遠くの高台から弓を構えてる兵士が見えたんだけど」


なんか凄い勢いで横並びになる人影が見えたため、気になって千里眼を使ったらハッキリと見えてしまったのである。


「流石にそれはないだろ。いくら坊主が怪しいからって言ってもこっちには姫様がいるんだぞ」


ミナとリアは俺の怯え具合から警戒態勢に入っているが、アベルは俺の言葉を信じず余裕そうにしているので視界を共有してやると


「……うわっ⁉ マジじゃねーかよ! しかもあいつら全員ただの弓兵じゃなくて魔法を併用するタイプの弓兵だぞ! 確かにあいつらなら坊主一人だけに狙いを定めるのなんて朝飯前だ!」


「どうにかしろよ‼ お前あいつ等の仲間だろ!」


「そんなこと言われたってこの距離じゃどうにも出来ねーだろ‼ こういう時こそ坊主の魔法だろうが!」


「俺の戦闘経験は海の上を飛んでるドラゴンを一人で倒した一回だけだ! 無理に決まってんだろ‼」


「ドラゴンを一人で倒せるならあんな奴ら余裕だろ!」


「ご自分の仲間をあんな奴ら呼ばわりするのはどうかと……。まあ脅しだと思いますので落ち着いてくださいソウジ様。それにもう少しで王城から何かしらの連絡があると思いま―――」


「「「「っ⁉ ――――――――――」」」」

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