第31話:初会議
「あ~、仕事したくね~。まさか就活を始める前に就職先が決まってしまうとは」
「この国の王様になろうとしてる人のセリフとは思えない言葉だね」
「ソウジ様、そんなこと言ってないで会議を始めますよ」
そう、俺の今日一発目の仕事は会議である。ちなみに仕事部屋とは別にちゃんと会議室も二つ用意してある。一つは普段使い用の小さい会議室、そしてもう一つは人を呼んだ時用の大きい会議室である。
「え~と、今日は俺とミナとマイカだけと……。人数おかしくね?」
「そもそもの人数が少ないですからしょうがないですよ。それに加えてリアーヌはメイドの仕事、アベルは騎士団の仕事がありますからね」
「もう一人いるだろ、もう一人。あいつはどこに行きやがった」
「あ~、ティアならさっき訓練場に向かって行くのを見たよ。『この下駄というのを履いたままでも余裕で全員の相手をしてやるわい』とか言ってたけど」
確かに朝飯の時にそんなことを言ってたな。俺の専属メイド自由すぎるだろ。それで怒らないとか超ホワイト企業じゃねえかよ。
「もうあいつはいい、自由にさせておこう……。まずは昨日お願いしておいたお金の件だけど、どんな感じになった?」
「それは私から。元からあったこの国のお金とソウジ様が集めたお金を合わせるとかなりの金額になることが分かりました。ですのでソウジ様が提案された全国民へある程度のお金を渡すことは可能だと思われます。なので後は一人当たりいくらにするのか、個人経営されているお店などには別でお金を渡すかどうかを話し合うべきかと」
「う~ん、この国のお金事情はまだよく分からないから二人で金額は決めてくれ。後で俺も確認する。んで次は個人経営の店についてか。二人はどう考えてるんだ?」
「やっぱり個人への配布とは別に各店舗にもそれぞれ見合った金額を渡した方がいいんじゃないかな。そうしないと個人経営のお店を持ってる人とそうじゃない人で差が出てきちゃうし」
まあ普通に考えればそうだわな。今後店の売り上げで差が出てくるのは当たり前だし、文句を言われる筋合いはない。だがそれをするとなると一つだけ問題がある。それは……
「全店舗、畑等を調査して適正金額を振り分けるのが面倒くさい。なんか良い方法ないのミナ」
「面倒くさいって……。先ほどマイカさんも言っていましたが国王のセリフではありませんね。ですがこの件を一からやっていたらかなりの時間が掛かるのも確か。となると…やはりこちらもあらかじめ配布する金額を決めてしまうのがよろしいかと」
「なるほど。でもそれをやると店によって偏りが出てくるよな」
「それなら大まかに三つくらいに渡す金額を分けるのがいいんじゃないかな。それなら楽になると思うよ」
「ですがそれだと他のお店との金額差に納得できなかった方々から不満が出てくる可能性があります。正直その方達全員に納得してもらえる説明をするのは厳しいかと……。まあ、無視するという手もありますが」
どこの世界でもクレーマーはいるんだな。でも電話とかネットが無いだけマシか。
「なら渡す金額を抑えめにする代わりに、店の種類ごとに渡す金額を一定にするのはどうだ?」
「それだと足を引っ張っているお店のせいで真面目に営業しているお店が損をすることになるような」
「言い方は悪いですが元はこの国とソウジ様のお金。感謝こそされど、文句を言われる筋合いは微塵もありません」
半分くらいは俺が消した貴族共の家に不法侵入して集めた金だけどな。
「そもそもの目的は今までの重税によって多く取られてきたお金を少しでも国民に渡し、これからの生活に役立ててほしいってことであって別に特別報酬として渡すわけじゃないしな。今の予算だと税金免除は何年くらいいけそうだ?」
「ざっと三年は余裕ですね。ですが一から新しく作った国というわけでもありませんし、税金免除をするにしても一年くらいが妥当かと」
「そんなに短くて大丈夫なのか?」
「先ほども言いましたが今回の場合、一からではなく必要な店舗や畑等がほぼ揃っている状態からのスタートですからね。ただでさえ国民一人一人に渡すお金とは別に職場にもと考えると、税金を免除するだけでもかなり甘いですよ」
「一般市民だった私からすれば十分過ぎるくらいだよ」
この世界でずっと生きてきた王女と一般市民がそう言うならそうなのか。こういうことは全く分からん。
「今までの話をまとめると、まずうちの国民全員に同じ金額のお金を渡す。次に店舗や畑等の責任者に渡すお金はそれぞれの仕事によって金額差を設ける。それで最後に出た税金免除は期間を一年間とする……か。何かこの三つで意見はあるか?」
「意見と言いますか、もしこの三つを実行されるのであればソウジ様がこの国の国王になると宣言される時に発表されるのが一番良いかと」
「あ~、確かにその方がソウジ君への印象は良くなるかも。それに私達はソウジ君の目的とか人柄を知っているけど、殆どの人はいきなり表れてこの国を乗っ取った謎の男だもんね」
「一応そこらへんを考慮して怪我人、病人全員を一ヵ所に集めて回復魔法で治してやったんだが、全く恩恵を受けていないためまだ俺のことを良く思っていない奴らもいるか」
それに加えて実際にその現場を見た人数も限られている。噂ぐらいは広まっているだろうが、結局は噂。
「やはりあれの恩恵を受けられたのは一部の方々だけですからね。そうなると一番手っ取り早いのは全国民にソウジ様の気持ち及び考えを実際に体験させるのが良いかと」
「となると、さっきのミナの案が一番有効か。ちなみに…その宣言ってみんなの前でやらなきゃ駄目?」
「当たり前です。そんな大事なことを紙や手紙などで宣言するなどあり得ません」
「………いっ、一年後ぐらいにやりませんか?」
「そんなの無理に決まってますでしょ。どんなに遅くても来月末が限界です」
マジかよ。あと一ヵ月ちょっとあるとはいえ、そんなのすぐに来るぞ。あ~、嫌だ、マジで嫌だ。………日本に逃げようかな。
「間違っても日本に逃げようだなんて考えないでくださいね」
「ははっ、まさかそんなことするわけないじゃないですか」
完全に心が読まれてるだと⁉ いや、そんなはずはない。取り敢えず落ち着くために紅茶でも飲もう。
「ねえ、どうせだしソウジ君が宣言するのと一緒にミナとの婚約も一緒に発表しちゃえばいいんじゃない。そうすればソウジ君に対する信頼度も格段に上がると思うし」
「ぶふーーーーー!」
「まあ今後も私がこちらにいる以上、遅かれ早かれ発表しなければいけませんからね。マリノ王国側が素直に頷いてくださればそれも出来るのですが……」
それってつまり俺があと一ヵ月以内にミナの親に挨拶しに行くってことだろ? 絶対に嫌だ! 悪いが当分は行く気ないからな。
「なら早めに実家に帰った方がいいんじゃないの。ソウジ君に送ってもらうとはいえ何があるか分からないし」
「そうですね。では丁度話も纏まったことですし明日行きましょうか」
「マジ? 俺はいいけど……そんな急に帰っても大丈夫なのか? 荷物を取りに行くだけとはいえ、王城に入るわけだし許可とかいらねーの?」
「別に自分の家に帰るだけですし大丈夫ですよ。それに一番の目的は荷物をこちらに運ぶことであって、お父様達とは少し話せればいいだけですし」
ふ~ん。まあ俺は三人をあっちに送って荷物を回収したら適当にブラブラしてる予定だし、少なくとも明日はミナの親に会わずに済みそうだな。
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