第27話 関連する事件の報告 【10月16日】

 山部達が工場を出た時、関連する事件の報告が河野によってもたらされた。

「おやっさん、大変なことが分かりました!」

「何だ? 日浦さんが何かしゃべったのか?」

「いや、彼の意識は戻ってるんですが、記憶に混濁があって、まだはっきりしたことは聞き出せません。そうではなくて、千歳烏山で捕まったブルンガ人の方です。やつはやはり人を殺していました。実は今朝方、千歳烏山にあるアパートから異臭がするという通報を受け、所轄が調べた処、押し入れから少し腐敗した死体を発見していたそうです。別の事件として扱われていたようですが、その死体の身元というのが……」

「追っていた元夫だったんだな?」

「おやっさんの言う通りです。彼はすでに殺されていました」

「で、その死体と勾留中のブルンガ人との関係も分かったのか?」

「そうです。発見された死体のDNAとやつの持っていたブルンガナイフから採取した血液のDNAが一致しました」

「となると、悦子さんに致命傷を与えた切り口と、やつのブルンガナイフを照合すれば犯人と特定できるだろう」

「それは間もなく終わるはずですが、それとは別に彼女のアパートを見張れる位置から、短い縮毛が発見されたようです。おそらくなんらかの理由で彼女を見張っていたんでしょう。こちらの鑑定結果も出れば、やつを犯人と断定できるかと思います」

「でかした。これでやつを自白に導けるかもしれんな」

「そんなに難しくは無さそうですよ。おやっさんが推測された通り、やつは日本とブルンガとの間に犯人引き渡し条約が無い事を知っていて、本国に送還されるものと勘違いしていたようです。日本国内で犯した犯罪は日本で裁かれ、しかも友久教授の内縁の妻、三浦悦子とその元夫、二人を殺したとなると死刑の可能性があると聞くと、激しく動揺していました」

「よし。ここからが大事だぞ。やつが無理やり犯罪行為をさせられた被害者の様に同情して、黒幕を吐かせろ」

「そいつは任せて下さい。良い刑事役になってがんばりますんで。それと聞き込み班の活躍で、三浦元夫婦の関係も分かってきました。それによると、悦子さんと元夫は離婚してからも度々合う仲だったらしく、友久教授以前にも高齢の独身男性が悦子さんの家に出入りしていたようです。で、しばらくすると元夫が脅し、手切れ金を取って別れさすという事をしていたとかで」

「要するに美人局か」

「そうです。おそらく教授も三浦元夫婦のカモにされていたんでしょうね」

「なんてことだ。すると、三浦元夫婦は教授を金づるにしようと近づいたおかげで、とんでもない厄災に巻き込まれたことになるな。それとな、こちらの方でも、一つ分かった事がある。友久教授の亡くなる前にモカンゼという男が殺されているんだが、その男も友久教授と親交があったようなんだ」

「ヒェ~、二国間をまたぐ連続殺人じゃないですか。いったい何が原因なんでしょうね」

「それはまだ分からんが、勾留中のブルンガ人には知ってる事を全部吐いてもらわんとな」

「藤田さんと協力して締め上げます」

「頼んだよ」


「なんだか大変な事件に発展しましたね」

 電話を聞いていた桧坂が言った。

「ああ、そうだね」

山部は上を見て首筋をポンポンと叩いた。

順番からいえば、モカンゼが殺され、友久教授が亡くなり(おそらく殺害)、内縁の妻が殺され、その元夫が殺された。しかし島内だけでなく、日本にまでやって来て関係者の周辺まで殺して回る程の理由があったのか? その訳が分からなかった。

「少し整理してみないといけないね」

 山部はフっとため息をついた。

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