第24話 ブルンガ島・地下施設 【10月16日】

「当初の計画ではここに盛土は無く平地でしたから、このドアは地下の処理施設から地上に抜けるドアの一つやったと聞きました」

 それが今では5メートルもの土が盛られ、学校や教会の建つ丘になっている。浮島の船底部から地上に出るドアは幾つもあるだろうが、間違えてこの場所(カタコンベ)に出れば不気味に違いない。

 それにしてもブルンガ島の心臓部ともいえる地下処理施設に誰でも行けるとしたら島の安全上からも危険だと思ったが、一応鍵はかかっていた。ただ、ルカ・ベンは何故か、そのドアを開ける鍵を持っていた。

「私は教師であるだけやなく、この地区の管理責任者もやってますから」というのが、その理由だと言うが、山部にはそれだけでは説明がつかない気がした。

 カタコンベのある場所より、さらに地下。

 船の中に見られる様な金属製の簡易階段を降りると、広大な空間が広がっていた。

 そこは、まるで高層ビルの建設現場かと思える程の鉄骨が、見渡す限り林立しており、巨大な蜘蛛の巣状の構造になっていた。どこまでも続く通路の手すりから巨大な装置類を見下ろしながら、本当によくこんな物を作りあげたものだと、感心せざるを得なかった。

 重低音で唸るモーターはビルジ(船底に溜まる水や油などの不純物)の排水施設だろうか。何百台もある巨大なピストンが上下運動を繰り返しているのは波力発電装置なのだろうか。どれもこれも、山部が今までに見たこともない装置だった。

 よく見ると幾人ものブルンガ人がヘルメットを付けて作業をしているのが見える。

 地上部の工場だけでなく、こういった場所でも働くブルンガ人がいたのだ。

「あそこが島内部の保守・管理棟ですよ」

 十分程鉄骨の森を歩いた後で、ルカ・ベンが天井からぶら下がる奇妙な建物を指差した。

 大きさから言えばロンドンを走る二階建てバス位の白い建造物で、窓が極端に少なく太い電線が数十本も引き込まれている。変電所に見えなくもないが、管理棟という名称からして山部は、おそらく島の地下にある施設すべてのコントロールセンターだろうと考えた。

 そんな重要な建物があるこのエリアに部外者ともいえるルカ・ベンが鍵一つで、簡単に入って来られるのも不思議だった。

 ブルンガ島のセキュリティーには、かなり問題があるなと山部は思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る