第23話 カタコンベ 【10月16日】

「ちょっと面白い場所を紹介します」

 ルカ・ベンは校舎の間にポツンと立つ管理小屋のシャッターを開け、中に案内した。

 そこには階段があり、薄暗い照明を通して見る限りずっと奥まで続いているように見えた。山部がルカに付いて進むと、驚くべきことに地下通路に繋がっており、寒いくらいの冷気で満たされていた。よく見ると左右に棚があり、幾つもの棺桶が並んでいる。

「ここは、我々のカタコンベになってますね」

 そこには階段があり、薄暗い照明を通して見る限りずっと奥まで続いているように見えた。山部がルカに付いて進むと、驚くべきことに地下通路に繋がっており、寒いくらいの冷気で満たされていた。よく見ると左右に棚があり、幾つもの棺桶が並んでいる。

「ここは、我々のカタコンベになってますね」

「カタコンベ?」

「地下墓地という意味で、ローマにあるもんが有名です」

要するに学校の地下道が墓地につながっているらしい。こういう仕組みは、いったい誰が設計したのだろう。

「本当はそれぞれの故郷に埋葬するんやけど、別々に輸送したら、お金が沢山いりますんで、この島が日本に返還される50年後に全員で本国に帰ることになってますねん。地下通路は学校だけやなく二つの教会にも繋がってまして、ハミとクマが仲良く一緒に眠ってますねん」

 ルカ・ベンはしんみりした表情で言った。

「民族間の紛争で殺された者がいた場合、納棺の最中に揉め事が起きる事はないのかい」

「無いですね。一般の人達同士で諍い事を起こすことはめったにないですよ。それはギャング同士の揉め事です」

「殺されたモカンゼは工場の作業主任だと聞いたんだが?」

「おそらく裏の顔を持ってはったんやないかと思いますね」

 ルカはモカンゼについては何か知っていそうだったが、それを言う気は無いようだった。

 不思議な事に、どの棺桶にもキリスト教徒を表す十字架ではなくハートマークが付いている。山部がそれを尋ねると、

「これはサンコファ(Sankofa)と呼ばれる西アフリカの人々が使うシンボル(Adinkra symbol)の一種で、最初に墓地に刻んだんはブラジルで亡くなった黒人やそうです。遠く離れた地に住む者が祖先の文化を忘れへんようにという意味合いがありますねん」

 つまり日本人が考えるようなロマンチックな物ではなかったようだ。

 それにしても棺桶の数は百を超えている。この島には、確かに約八千人のブルンガ人が住んでいるというが、多くは工場の労働者か警官他の公務員等で平均年齢は若い。つまり、ロラン・チャタのような年寄りは殆どいない。それなのにブルンガ人が住みだした三年間の間にこれ程の人間が亡くなったのだろうか?

 山部にはそこにただならぬ理由があるように思えた。

「そうそう先程、山部さんが会うてみたいと言うてはった桑山造船の高本さんには、ここから会いに行けます」

 ルカ・ベンは地下小ホールの脇にあるドアを指差して言った。

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