第21話 ブルンガ料理店・マシュマシュ 【10月16日】

 長老の家から、ブルンガ家庭料理の店『マシュ・マシュ』に向かう途中、ブルンガ人相手の風俗店と思われる、ハデな看板の店があって、そこにナイフを腰にぶら下げた柄の悪そうな若者が数人、たむろしていた。

 昼間ということもあって、桧坂をジロジロ見ていただけで、特にちょっかいは出してこなかったが、夜だとかなり危ない連中かもしれない。ところがルカ・ベンは、

「あれはハミのギャング達やけど、連中はクマのギャング達と揉めてるだけで、我々には手出しなんかしません」と言う。

 しかも、彼らの中に顔見知りがいるのか、手を振ると若者達もルカ・ベンに手を振り返す。

 彼らはルカ・ベンの教え子なのかもしれないが、もしかしたらこの連中が日浦を襲ったのではないか? いやそれどころか友久教授を殺した犯人が混ざっているかもしれないと思うと山部は複雑な心境になった。


『マシュ・マシュ』という食堂は中央通りを挟んで、ハミ族の側にあった。

ルカ・ベンは「さあさあ、どうぞ」と両手で山部と桧坂の背を押して、『マシュ・マシュ』の中に誘い込んだ。

 店の中は思った以上に奥行きがあってけっこう広く、十数人の客で賑わっていた。

 ルカ・ベンによればクマ族の客も多いという。

 山部にはどちらがハミでどちらがクマかの区別はつかなかったがブルンガ人の目から見れば、その堅苦しさで一目瞭然なのだという。

「例えばあの人はボニシャ(民族服)を着て一番上のボタンまでしっかり止めてはります。若いのにああいう格好をしている人は大抵、クマ族です。あっちの、普通のジャンバーをラフに着こなしている人はハミ族と見て間違いないですわ」

 ルカ・ベンは二つの民族の生活習慣についての違いなどを山部達に解説した。

すると、先程の頑固そうな長老は典型的なクマではないかと思えるがロランという名はハミの名前だと言うから分からない。

「ちなみに先日殺されたモカンゼという男の名はどうなんだ」

 山部が聞くと、ルカ・ベンは、少し眉間にしわを寄せて、「典型的なクマですよ」と吐き捨てるように言った。

 ルカ・ベンは何故モカンゼの名を出すと嫌な顔をするのだろう? 

 そのあたりはルカ・ベンが属するハミ族とクマ族という、二つの民族の間に複雑な軋轢(あつれき)があるのかもしれない。

 『マシュ・マシュ』のメニューは山部には全く読めなかったので、ルカが勧める、ボマという料理にした。これは強烈なスパイスの香りがするヤギ料理で、そこに白身の魚(おそらくはスズキ)のサラダ(?)が添えられていて美味しかった。

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