第14話 スナック・ブルンガ  【10月15日】

 スナック・ブルンガは日本人街のはずれにあって、島で唯一のコンビニ、ファミマと共に夜8時のこの時間も営業中だった。

 電球色のLEDが灯る店内は50平米位の広さだろうか。十人程座れるカウンターの他、奥には六人がけのテーブル席が二つあった。

 入ってきた山部に対し、三人いる女性従業員が一斉に「いらっしゃいませ~」と声をかけてくる。客はテーブル席に五人。カウンターに一人いて、店に入ってきた新参者が誰なのかと、こちらも一斉に振り返った。そんな中で、カウンターに座っていたのは昼間ここに来る貨客船で一緒だったNGOの日浦だった。

 日浦は、店に入って来たのが山部一人だけで、桧坂がいないと確認すると、すぐに興味を失ったようで、チーママらしき店員との会話に戻った。

「だろうね……」

 予想通りの反応だが、山部は何気ない様子でカウンター席に座ると、「おや、あなたは」と初めて気がついたように親しげに日浦に笑いかけ「よろしいですか?」と半ば強引に隣の席に移った。日浦は「どうぞ、どうぞ」と作り笑いで応じた。

「チーママ、この人は例の学者さんの事故について、仔細を調べておられる保険会社の人だよ」

「どうしてそれを?」

 確か貨客船に乗り込む前、話しかけられた桧坂は自分達は『企業関係の者』としか言わなかったはずだ。となると、この男はあれから山部達のことを徳永にでも聞いたに違いない。

 その目的は桧坂と親しくなりたいということだろうが、この島が狭い村社会で住民の情報はすぐに共有されることが窺い知れる。

「いやなに、僕はこの島の情報については、仕事柄耳が早いんですよ。ところで御一緒に来られた女性の方は?」

「彼女も誘ったんですが、今日一日歩き回って疲れたようです。明日は来ると思いますよ」

「そうですか。明日が楽しみです」

「あら、日浦さんが楽しみということはお若い方なのね。学校を出たての方かしら」

 チーママが会話に割って入った。

「気をつけるように言ってあげてくださいね。日浦さんは若い子には手が早いので。しかもこの処、ブルンガ人の女の子にも言い寄ってるんですよ」

「静香ちゃんには関係ないでしょ」

「あら、私は日浦さんのことなら何でも興味持ってますよ。こちらの丸顔のおいちゃんは、ビールでよろしいですかしら?」

 そう言いながら静香と呼ばれたチーママが山部に付き出しを置いた。

「おいちゃん・・・・・・」

 山部は苦笑しつつ「そうだねビールをもらおうか」と答え、日浦に話題を振った。

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