第52話


森…?

トラックの荷台から降りた先は、木々に囲まれた場所であった。緑が豊かなところで、風が心地よい。


「よし、着いたぞ。」

運転手が出てきて、俺たちを見渡した。

「これでようやく全員揃ったな。」

額を拭うそぶりを見せた。実際に額には一滴の汗もかいていない。

話によれば、あり得ないほどの長時間走行をしているのに、運転手に疲れは一切見えない。睡眠はどこでとったのか?


「俺の役目はここまでだ。あとは勝手に学校に向かってくれ。」

そう言い残すと、再びトラックに乗り、走り去って行った。


「なんか適当な人ね。」

「ここの職員じゃなかったみたいだな。」


視線を上げると、木々の間から建物が見える。最新の校舎にしては少し味気ない。余計な出費は一切ないとでも言いたげに、シンプルな造りをしている。


少し歩くとすぐに森を抜けた。近くで見るとかなり大きい校舎だ。おそらく寮も校舎と一体化しているのだろう。


「寮に申請して良かったわね。毎朝こんな時間をかけて登校するはめになるところだった。」

「寮は確か半強制だったな。確かにこの場所だと毎朝はきつい。」


入学式の日にしては、何の看板も案内もない。正門のみが空いているので、自然と皆そこから入っていく。


中に入るととすぐに開けた場所に出た。

体育館程のスペースがあり、前にはマイクと机がおいてある。やたら大きい時計が壁にかけられている


俺たちが入る頃には、すでにかなりの人数がいた。


「ここにいる人たちみんな超常持ちなんかな~?」

「わくわくするわね。もう隠す必要もなくなるのよ。」

「確かにそれはうれしい。」


ざわざわとしている中、一人の女性が奥の方から出てきた。美人だが、少しきつめの顔をしており、見つめられると動けなくなりそうだ。


「もう少しここで待っていてください。もうすぐ校長と教頭が来ます。」


淡々と言っているが、時折目がピクピクしていた。言い終わるとため息をつき、また奥の方へ戻っていった。その足取りはイライラしているように見える。


「恐そうな先生ね。」

「あんなのに叱られたら…ちょっといいかも。」

「気持ち悪!やっぱ陽一は変態なの?」


幼なじみに言われると少しショックではあるが、まあ否定しきれないところもあるので黙っておく。


ふと白いものがヒラヒラと落ちてきた。天井を見ると、さらにそれが降ってくる。


「雪だ…」

「見えるの?やっぱりここに来て正解だったんだわ!」


ゆっくりと辺りを見渡すと、この場全体に雪が降っているのが見える。

今からこの場で何が行われると言うのか。ビンゴ大会でもやったら全員大当たりで賞品が足りなくなるだろう。


「陽一、その、ついて来てくれてありがとう。」


「情緒不安定かよ。さっきまで俺のこと気持ち悪いとか言ってた癖に。」

「あれは本当のこと…じゃなくて冗談だし…」


今本当のことって…

「それは別として、やっぱその…ありがとう。」

「お、おう。」


改まって言われると、背中がむず痒くなる。

普段俺にありがとうなんて言わないくせに、どういう風の吹きまわしだ?

これが雪の効果か?いや、それはないか。


なんだか良くわからないテンションのまま、式が始まるまでじーっとしていた。


時々ミラの方を見ると、ぷいっと目をそらされる。

ラブコメが始まる予感…


くだらないことを考えていると、遂にやって来た。

スーツを着た若い男性と、綺麗な洋服を着た、こちらも若い女性が歩いてきた。

2人とも机の前に立ち、男性の方がマイクを持った。


「こんにちは。新入生のみなさん。」


シーン。


「私がこの学園の校長です。」

若干胸を張ってみんなの反応を見ている。

校長にしてはまったく威厳がない。というか若い。今年から始まる学校ということで、教師陣も新鮮な感じなんだろうか?


校長先生の横に立っている、おそらく教頭先生にいたっては、どこぞのご令嬢みたいな雰囲気だ。学校の運営なんて出来るようには見えない。


「皆がこの学校に来た理由は一つでありましょう。それはここにいる全員が持つもの、そう、能力、最近では超常と言われているものです。」


「単刀直入に言います。この学校の中では能力を隠す必要はありません。メディアに情報が行くことは絶対にないと保証します。外部との連絡も一切できないようになっています。スマホは使えないが、がまんしてください。」


スマホを見てみると、確かに圏外になっている。


「みなさんがこの学校で学ぶことは特にありません。図書室には莫大な資料があるため、学びたい者はいくらでも学んでくれて構いませんが。」


ざわめきが起こる。


「みなさんにやってもらいたいことは、能力を伸ばすこと。自分自身と向き合い、己を高めてください。そうすれば自ずと未来は見えてくるはずです。」


校長の声は淀みない。良くわからないが、覚悟ができている、そういう印象を受けた。

ゆっくりと息を吸い、話を続ける。


「残念だけど、みなさんと会うのはこれが最初で最後です。これからこの学校には教員は来ません。ここは皆さんが自由に使ってください。ただし、この事は学校外には言ってはいけませんよ。」




予想の斜め上を行き過ぎて、逆に納得している自分がいる。普通に考えればあり得ない事だが、この学校、生徒は普通ではない。


「私の話はここまでにします。続いて理事長にお話をいただきます。」

校長先生の姿が一瞬にして消え、数秒後、教頭先生まで消えた。


さらに照明が消え、真っ暗になった。

壁一面をスクリーンとし、映像が映し出される。


「やあ、生徒諸君。」


え?


中央に映る人物は、黒いフードに身を包んでいて、素顔が一切分からない。

すぐに連想したのは、都市伝説として一部で有名になっている、アンラッキーマンだ。

その姿を見たものには不運なことが起こるという、噂通りの姿をしている。


画面の人物は無言のまま、生徒たちを見渡している。目は見えないのでなんとなくそう思っただけだが。


そこである違和感に気づく。都市伝説にも似たその姿にしては、一つ不自然な箇所があった。


その人物の耳もとで何かがキラキラと光を反射している。


顔を動かした時、その微かな揺れで一瞬だけ、それは画面に映る。

吸い寄せられるようにそれを見た。



綺麗な真珠の耳飾りである。















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