第51話
「遅いよー、陽一!」
「お前が早いんだよ。まだ10分はある。」
「10分前は当たり前じゃない!入学式に遅れるなんて嫌よ。」
「はいはい。」
幼なじみのミラが隣でプリプリとしている。
昔から時間にうるさくて、待ち合わせがある度に何かと言ってくる。もう慣れたから何も思わないが、昔はよく喧嘩したものだ。
「本当にここで合ってるのか?明らかにバス停じゃないよな?」
「学校から来た資料にはここと書いてあったわ。独自のルートで迎えに来るのよきっと。」
「しょうもない所だったらどうする?親の反対を振り切ってまで行く所じゃないかもしれないぜ。なんか胡散臭いし。」
「今さら何言ってるの?私たちにはここしかないのよ。」
ミラはパンフレットを見つめながら手をぎゅっとした。
そこには「光雲学園」と書かれている。一見普通の学校案内の紙だが、実際にはもう一枚紙が付いていた。一度読むとびりびりに破れ、塵一つ残らないように細工されていた。
そんなことができるのは普通ではない。その紙の内容はこうだ。ただ一言。
君のその力は、君のためにある。
これを読んだとき、体に雷が落ちたような感覚がした、とミラが言っていた。
力、とは超常のことを言っているのは確かだろうが、いわゆる´偽物´かどうかは判断がつかない。
あの出来事があってから、世界的に超常ブームが沸き起こった。テレビなどに登場する超常者たちは大抵マジシャンの延長で、お客さんを喜ばせるだけの、俺に言わせてみれば偽物であった。超常という言葉は一つのバラエティーのジャンルとして人気になり、本来の言葉の意味とは違ってきている。超常の存在自体、信じていない人もたくさんいる。
たまに本物を思わせる人がテレビに映ったりするが、地味であるためそれっきりだ。結局本物かどうかは二の次で、見た目がそれっぽければ人気になるのだ。
ということで、俺たちのこの学校への入学は親から猛反発された。光雲学園は超常を含む、エンターテイメント養成学校として今年から開かれる学校だ。
俺たちが最初の代になれるため、わくわくするということでミラについていく形で入学することにした。
もちろん、超常については真偽を見極める必要がある。むやみにその力を持っているとばらしたら、めんどくさいことになるのは間違いないからだ。
「ねえ、今、雪は見えるの?」
「ここには降っていない。やっぱろくでもない学校なんじゃないの?」
俺には´見える´
季節に関係なく、俺の目には雪が降っているのが見えることがある。実際には手で触れることはできず、冷たいなどの感覚もない。
だけど、一個だけ分かることがある。
雪が降る場所にいれば良いことが起きるということだ。
例えば、抽選くじの会場に雪が降っているとしたら、大当たりが出る可能性は90%以上だ。
この力は生まれつき備わっていて、子供の頃はよく親に正気を疑われた。真夏日に、雪が降っていると外に出ていったのを見た母親は俺を精神科へ連れていった。もちろん何の異常もなく、子供の妄想だということで片づけられた。
今ではこのことを言うのはミラしかいない。
ミラのほうも同じで、超常のことを話すのは俺だけだ。
「今日が人生の転機なのよ。私たちと同じような人たちが来るはずよ。友達になるチャンスよ。」
「ミラのしょぼい超常じゃ、ばかにされるんじゃないの?」
「陽一に言われたくないわよ。見えるだけで何もできないくせに。」
「それを言われると何も言い返せないな。」
ミラの超常はサイコキネシスみたいなもので、目ではっきり見える範囲の物を動かすことができる。とはいっても、手で動かせる程度の物しか動かせない。超常を使うと頭に負担が来るらしく、結局は自分の手でやった方が楽だと言っている。
「ミラの得意なことはブランコを加速させて楽しむことだもんな。今でもたまにやっているだろ?」
「ちょ、何で知ってるのよ?」
「ちょっとコンビニに寄った時に公園でブランコに乗るミラを見かけてね。」
「さてはストーカーね。幼なじみにムラムラなんてしないでね。」
「するかよ。」
ミラと話していると、予定より少し遅く、迎えのバスが到着した。
いや、バスではない。大型トラックの荷台にさらに荷台を繋げ、人がたくさん乗れるように改造された車両がやって来た。
ぷっぷーとクラクションを鳴らす。
「あんたらだな。どうぞ荷台に。」
扉が自動で開いた。明らかに違法改造されたものだ。これで道路を走っていいのか、交通法に引っ掛からないのか。
ミラは気にする様子もなく、荷台に乗り込んでいく。俺も後を続いた。
中には15人程の乗客がいる。みんな光雲学園に入学するものだ。
その一人と目が合い、にこっと微笑んできた。端正な顔立ちをした少女で思わずニヤニヤしてしまう。
「気持ち悪い。いじめられることになっても、私とは幼なじみと言わないでね。」
「…辛辣だな。」
適当なところに腰をおろした。車体の振動がもろに伝わってきて、尻が痛くなってくる。
しばらくそうしていると、さっきの女子が話しかけてきた。
「我慢せずに横になったら?時々体をほぐさないと、学校までもたないよ。」
「え、ああ。そんなに時間かかるんだね。」
「ええ。私は2時間前に乗ったんだけど、全然学校に着く感じじゃないの。」
「そんな前から…別の送迎車に乗った方が良かったんじゃない?」
「それが無理だったみたい。迎えはこの車だけ。ほら、私より先に乗った人たち、みんな寝てる。」
奥のほうにいる人たちはみんな毛布にくるまっている。水の入ったペットボトルと携帯食料の袋が転がっている。まるで昨日からずっと乗っているみたいだ。
「あなた名前は何て言うの?私はミラ。そしてこっちの奴は陽一って言うの。」
「まい、よ。」
「まいちゃんね。よろしく!」
ミラのテンションが上がっている。早速友達ゲットだとウキウキしているようだ。
「単刀直入なんだけどさ、」
「ミラ、まだそうと決まった訳じゃないよ。」
「まだうじうじしてるの?もっとオープンにならなくちゃ。」
ふふっと笑い声が聞こえた。まいさんの隣に座っている少年がこちらを見ている。
「みんな思うことは同じだよ。先に言っておくけど、僕は本物だ。」
「私もよ。」
2人とも簡単に言った。先に乗っていた人たちで話がついていたようだ。
「じゃあ隠す必要もないか。俺とミラも超常持ちだ。」
「超常がある人のこと超常持ちって言うんだ。」
まいさんが目を輝かせながら俺を見てくる。
「い、いや。今適当に言っただけなんだけど…」
「いいじゃんそれ。これからはそう呼ぼうよ。」
まあ、いっか。
それからはあまり中身のない会話を続け、暇を潰した。時折飲み物が支給され、食料の方は何も渡されなかった。もうそろそろ着くということだろう。
車体の揺れにもだいぶ慣れてきたころ、ふとトラックが止まった。
扉が開き、光が差し込んでくる。その先に見えた景色は…
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