第48話

キーンコーンカーンコーン


「見ての通り、宮本は今日この学校に戻ってきた。向こうでのこといろいろ聞いてみるといい。それから宇江城の事なんだが…」


クラスがしーんとなる。

「母親が見つかった。海外に行っていたそうだ。急に衝動的にイタリアの友達に会いに行きたくなって飛び出していったらしい。」


「家は…どうしてもぬけの殻になっていたんですか?」

「それが…もともと引っ越す予定もあったらしく、新しい家に全部運んだらしい。」


先生も半信半疑の顔をしている。

「丈君については心配する必要はない、と言っていた。学校側もそうなっては手の打ちようがない。後はお母さんに任せることになった。」


前に一度、ジョウのお母さんに会ったことがある。陽気な性格をしていたが、そこまでハチャメチャだとは…。ジョウもいろいろ大変だったのかな。

案外、明日くらいにけろっと登校してくるかもしれない。みんなから質問攻めにされるジョウの姿が頭に浮かんだ。



「久しぶりだね。岩木君。」

「ああ、そうだね。えと、宮本君。」


また話しかけてきた。そこまで仲良くした覚えはないのだけれど。


「あの、どうだった?向こうは。」

「うん。別に変わったことはなかったよ。」

「そう。」

「岩木くんこそ大変だったみたいだね?」

「え、何のこと…?」

「ふふ、何でもないよ。」


すたすたと自分の席に戻って行った。


大変だったって…

もしかしてあの事を知っているのか?

いや、まさかな…。そんなはずはない。


きっとこの前の模試のことだろう。すべての教科のテストがあり、朝8時から午後7時までずっと学校に閉じ込められていた。

窓際の席にいると、1日を通して太陽が東から西に移動していくのを観察できるほどだ。


だが、それでも頑張った。一つの教科も手を抜かずに問題に取り組んだ。

我ながらよくやったと思っている。


一時期、勉強の意欲が0になっていたが、最近少しずつやる気になってきた。

あの事があってから考えが変わった。やっぱり安定が一番だと。そのためには勉強するしかない。そして、大学に行って、良い企業に就職する。刺激はないかもしれないがそれでいい。

ゆっくり生きていくのが俺には合っているんだ。結局な。


「岩ちゃん。あのー、絵は描いてきてくれた?」

女子に声をかけられる。福田さんだ。


「うん、描いてきたよ。」

部屋の隅に放置されていた絵を完成させ、今日持ってきているのであった。思い出して良かった。気まずいことにならなくてすむ。


「やっぱり上手いね。岩ちゃんは。」

福田さんが微笑んだ。

この前まではそこまで魅力を感じなかったが、今見るとすごく可愛い。


「そのくらいの絵だったらいつでも描けるよ。」

自慢げに言うと福田さんはもっと笑った。

「じゃあ今度はあの絵を描こうよ。」

「いいよ。」


あー、あれか。確か最近新しいイベントが始まったんだ。その限定イラストのことだろう。


授業が始まると教室が静かになった。

しっかりとノートをとる人、教科書をぼーっと眺めている人、内職している人、寝ている人…


俺は今ではしっかりと先生の話を聞き、ノートをとるようになった。

隣を見ると、福田さんも一生懸命に先生の話を聞いている。


授業が終わり、放課になる度、疲れた頭を癒すため、チョコレートを数粒食べる。


授業が始まれば、また集中する。特に重要なことは言わず、教科書を読むだけの先生の時は自分で買った参考書を見て勉強した。

その方が効率がいい。


その日の授業がすべて終わり、下校の時間となった。友達が少ない俺は一人で教室を出ていこうとした。

すると、福田さんが横について来た。

「一緒に帰ろう?電車だったよね?」

「う、うん。そうだよ。」


電車の中で2人でゲームをやった。電車が揺れると、時々肩が当たる。ゲームに熱中していて、向こうは気にしていない。


「じゃ、バイバイ。」

「ま、またね。」


福田さんは先に降りていった。手を振りながら微笑んでいる。


1人電車に揺られて到着を待った。流れていく景色を眺めながらしみじみと思った。



こういう日常も悪くないかもしれない。




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