第46話
アガサは久しぶりに家に帰り、テレビを見てくつろいでいた。犠牲者の弔いを済ませたあと、Questersは廃止となった。サイトは閉鎖され、管理人も残りの人生はゆっくり過ごすと言っていた。
テレビのチャンネルを変えながら、何か面白い番組がやってないかチェックしていた。
すると、サイレンの音が聞こえてきた。
カーテンを開け外に目を向けると、何台もの消防車が走って行くのが見える。
ピロリン ピロリン
「緊急速報です。ただいま東京都xx区が…全焼……して…います…?」
アナウンサーの表情がみるみる強ばっていく。信じられないと目を見開き、口をぱくぱくさせている。
そしてその映像がテレビに写し出された。
町一帯が炎に包まれている。あまりの火の輝きに昼のような明るさになっている。今は夜中の2時半だと言うのに。
一体何が起きたらここまでの火事になるのか。こんなことはあり得ない。CGデザイナーが作った映像ではないのか?
…と以前なら思っていただろう。
だが、もう異常なことには慣れている。普通では考えられないことが起きたらそれはもう、一つしかない。
能力だ。
もう一度映像を確認する。
無惨なことに生命あるものは何一つない。
逃げ出す暇もなく炎に焼かれてしまったようだ。
奴らではない。ここまで無情なことをするような人間は私は知らない。
それにこの威力、もはや兵器。そんな能力を使うものがいるのか?もしくは本当に何らかの兵器を使ったのか?
この映像だけでは判断がつかない。
どうする?実際に様子を見に行くか…いや、それはリスクが高い…
……って、私はもう引退したんだった。
ちょっと前、命のやり取りをしてきて懲りたはずだ。もうこういうことには首を突っ込まないと。
いやしかし、何もしなくても危険が及ぶ可能性もある。現にこの区域の人たちは、何の関係もない、何の罪もない人たちだったはずだ。それなのに…
背筋がぞくりとした。
テレビに映し出された場所はここからそう遠いという訳でもない。
ちょうどあの森を反対方向に、奴らが帰っていった方向に10キロほど行けば着く場所だ。
「今日はもう勘弁よ。」
テレビを消し、ソファに転がった。毛布をしっかりとかぶり、ゆっくりと目を閉じた。
疲れがたまっていたのですぐに意識は夢の中へと……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こんばんは。」
ぼんやりとしたシルエットが浮かんでいる。
男にしては少し高い声で話しかけてきた。
「あなた、だれ?」
「町田っていうんだけど、やっぱり知らないか。」
「知らない…というかここはどこ?」
視界がはっきりとしてくるとだんだんこの場所が公園であることが分かってきた。
ブランコに少年が座っている。少しポッチャリとしていて可愛らしい顔だ。
「どこでもないよ。あなたは今眠っている。ここは夢の中だよ。」
「そう…」
特に不思議に思わなかった。リアルな夢を見ることはこれが初めてではない。
「でも、何で私の夢に私の知らない人が出てくるの?」
夢の中の人物に聞いてみる。
「僕が勝手に入ってきただけだよ。もしかしたら、僕のことを知っている人かなと思ったから。」
「どうして私があなたの知り合いだと思ったのよ?」
少し恥ずかしそうに頭をかきながら答えた。
「僕、実は不登校だったんだ。同級生はおろか、クラスメイトの顔もはっきり覚えていない。だから、高校生くらいに見えたあなたにこうして会ってみたんだ。」
「で、満足できたの?」
「いや~、あまり。最後ぐらいは僕の知っている人に会いたかった。僕の存在を忘れないでくれと、勝手ながら思っていた。」
「ご両親の元へ行ったら良かったんじゃない?」
少年は静かにブランコをこぎ始めた。きぃきぃという音だけがこの場に存在する。
「うーん、それも勝手なんだけど嫌なんだ。」
「それで私の夢に入ってきたなんて、いい迷惑だわ。」
「ごめんごめん。もう行くよ。よっ」
ブランコから飛び降りた。
「さっき不思議なことがあってね。知らない人が大勢僕の夢に入ってきたんだ。恐そうな人たちでびっくりしたんだけど、今は仲良くしてる。僕の創った世界を冒険してもらっているんだ。」
「そう、楽しそうで何よりね。」
少年の姿がだんだん背景と同化し始める。
「じゃあこのへんで。最後にあなたと話せて良かった。」
不思議な人ね。
少年が消えていくにつれ、意識がぼんやりとしてくる。公園の遊具はいつの間にか無くなり、ただの平地となっている。
完全に少年の姿が消え、辺りが真っ白に包まれていく中、声が聞こえた。
どうかあなたも…夢を忘れないで…
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