第45話

「蓮藤さん。エディさんから連絡です。もうすぐ到着すると。」

「無事そうか?」

「微妙です。少し元気がないように聞こえました。」

「そうか。」


蓮藤さんは大分回復し、今では自力で歩けるようになっている。

近くのコンビニで軽食を買い、駐車場の隅で食べているところだ。


コンビニの光が地面にのびている。そこには僕と蓮藤さんの2つの影しかない。他の人はみんな死んでしまった。あまり交流がなかったためそこまで悲しいとは思わないが、それでも心が沈んだ。


そこに新たに一つの影がやって来た。

「おまたせ。」

何の躊躇いもなく地べたに尻をつけた。

3人で円を描くように座っている。


「エディさん、勝負には勝ちました。ですが、」

「その先は言わなくていいよ。蓮藤君はよくやったよ。」

「そっちはどうでしたか?」


コンビニの光がその白い髪に当たり、よりその白さを際立たせている。うつむいたまま首を振った。


「僕は勝てなかった。それに仲間も全滅だ。」

「そう…ですか。それにしては清清しい顔をしていますね。」


顔を上げると、確かに悲壮感はまったく漂っていない。


「勝てはしなかったけど、一応話はついたんだ。ひとまずは一件落着ということで。」

「よく分からないですけど、エディさんがそう言うならいいんでしょう。」

「蓮藤君は身体大丈夫なの?ずいぶんやられたみたいだけど。」


今は収まったほうだが、まだかなり腫れているところもある。

「これは自分の能力の代償ですよ。一気に片付けようと全開にしたら、体がもたなかったみたいです。」

「蓮藤君でもそんなことあるんだ。」

「はは…」


他愛なく話している様子を見ると、逆に悲しくなってきた。僕は現実を甘く考えていたのだろうか?

これまでで物事が思い通りになることなんて一度もなかった。そしてこれからもそれが続くような気がしてならない。


「ラビリンスくんはどうしてそんな深刻な顔をしているんだ?」

「いえ、その…上手くいかないものだなと。」


場がシーンとなる。

言うのは不味かったかな…


「確かにそうだね。でも、まだくよくよするには早い。八雲はまだ動いている。」

「そう…ですか。」

「そんな顔しないでよ。次会ったとき聞いてみるよ。八雲の本当の目的を。」


その青い瞳に迷いはない。アンラッカーとの方で何かあったのだろうか?


そのあとお互い何があったか、詳しく話し合った。

蓮藤さんは楽しげに凄腕の兵士が2人いたこと、全力で動くと目が追いつかなくて相手の横を通り過ぎてしまったことなどを語った。


エディさんはアンラッカーの能力の真の強みや、公園に眠っていたとてつもない能力の残骸などを面白おかしく話した。

アンラッカーの性格がただの好きなキャラの真似だったと言った時は大爆笑した。


コンビニの裏で楽しげに話し合うのは初めてであった。不良たちがたむろしている横を恐る恐る通るだけであった日々が懐かしく感じる。



ふと蓮藤さんが顔を上げる。空を見たままじっとしている。

「どうしたの?」

「いや、何かいませんか?あそこ。」


エディさんと一緒に指差す方向を見たが、暗くて何も見えない。


蓮藤さんが立ちあがり、さらに目を凝らして空を見る。目の周りに血管が浮かぶ。

部分的に能力を発動しているようだ。ご飯を摂取したことでエネルギーが少し蓄えられたのだろう。


「……あれは…」


何事か呟いている。その表情からは何も分からない。


「何か見えているんだね?」

エディさんも立ちあがり、上空を警戒し始めた。


何だ?この嫌な感じ…。自分には見えないが、空に何かいるのはこの2人の様子から間違いなく分かる。


この絡み付くようなプレッシャー…これはもしかして…


殺気…なのか…


刹那、蓮藤さんが叫ぶ。

「すぐにここから離れろ!!」


上空から赤い物体が飛来してきた。それは一気に加速し、奇妙な音を立てながら向かってくる。

「僕が止める!」

エディさんが能力でそれを固定した。


次の瞬間、再び勢いを取り戻し、こちらに向かって一直線に飛んできた。


「僕の能力が効かないのか?!」


そのままそれは止まることなく僕たちに降り注いだ。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「標的の部下の始末完了。でぃひひ、ちょれぇなぁ。」

「こんなもんよ。所詮ガキどもの集まりなんだから。」


ピー ピー 機体に一部、損傷があります。一度メンテナンスをしてください。


「あぁ?どこだ?」

「ふっ、意外にやるじゃない。そこ、床から棒が飛び出ている。」

「ここまで投げてぶっ刺したのかぁ?なかなかふざけたやつがいやがる。ひひっ、もう殺しちまったけど。」



数キロ先まで焼け野原となった地上を見ながら、不敵に笑う者たちがいた。

彼らの存在は闇そのもの。

何も関係ない、何も知らない大勢の人たちがこの晩、命を落とすこととなった。






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