第44話

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「君だけは残ったみたいだね。」



嘘…だ…。

奴は平然と立っている。そして、

この公園に僕と奴しかいない。他の者はどこへ消えた?!

さっきまで能力がぶつかり合い、様々な現象が起きていた公園はしんと静まり返っている。まるで何事も無かったかのように。


一体…何をしたんだ…?

「何だ…これは…?何が起きたと言うんだ?!」


「話すと長くなるけど、聞くかい?」

「話せ!僕の作戦は失敗したのか?!何を見落としていた?!」


奴の能力を間違って捉えていたのか?本当の能力は別にあるのか?

訳が分からない。一瞬にして僕以外の全員を消してしまうなんて。死んだのか?あるいはどこか別の場所に跳ばされたか。


「僕の能力の解釈は、君ので合っているよ。合っていたからこそ君は油断した。」

「…どういうことだ?」


フードのしたから見える口に笑みが浮かんだ。その不気味さに背筋がぞくりとした。


「僕の能力は世界のとあるものに干渉する。それは簡単に言ってしまえば、不運だ。’それ’は至るところにある。目を凝らせば空がほとんど真っ黒になってしまうほどだ。」


一呼吸おいて話を続けた。


「そして、この公園にはとびきりにでかい’それ’があった。知っているかい?ここで不運にも死んでしまった少年がいたことを?」

「…知らない。」

「ちょうどその辺りだ。僕には倒れている少年の姿がはっきりと見える。」

「それが何か関係あるのか?」


まだ話の核心が見えてこない。


「あるさ。少年は儚い夢に願いを込めたんだ。本人は自覚していなかったのだろうが、その力はあまりにも強大だ。少年が死んだあとも、その力はここに残り続けた。少年に永遠の夢を見させるためにね。」


「まさか…」

「僕の能力は世界に干渉するものだと言ったろう?こういうこともできる。」


突如、地面から何かが沸き起こった。目に見えないが、空気が激しく揺れているのを感じる。その力は凄まじく、反射的に自分の周りの空間を固定し、防御態勢をとらされた。


「無駄だよ。君の能力で防げるレベルではない。」

「僕の仲間を消したのもこの力か?」

「消えたと言えるかは分からない。彼らはまだ生きているさ。少年の儚い夢の中でね。」


なんと言うことだ。こんなにもあっさりと…

僕らが積み上げてきたものの一つ、能力持ちの仲間がこうも簡単にやられてしまうとは。


「君はどうする?案外悪くないかもしれないよ、少年の創る世界は。」


すたすたと歩いてきた。エア・ロックはいつの間にか破られている。もはやどちらが劣勢かは言うまでもない。


「それはできない。絶対に。僕は八雲についていくと決めた。ここでお前は止めなければならない。」

「どうやって?」


再びエア・ロックを発動した。奴の周り、広範囲を固定しようとした。が、

「無駄だよ。」


固定し切る前に能力のコントロールが不安定になり、不発に終わってしまう。


もう一度やったが、結果は同じであった。

「くそ!一瞬ですら止めれないのか?!」

「もう分かってるはずだ。アンラッカーは僕を守るように作用している。もう君に勝ち目はない。」


…どうする?もう打つ手はないのか?僕ではこいつを止めることはできないのか…


「どうして…どうしてお前なんかが立ちはだかるんだ?!僕らの…、八雲の邪魔をするなよ!!」


手を伸ばせば届きそうなところまで近寄ってきた。

フードを少し上げ、目を合わせるようにしてくる。


「何も邪魔なんてする気はないよ。してしまっているかもしれないけど。これはしょうがないことだ。」

「だったらこれから一生僕たちの前には現れない、関与しないと約束できるのか?」

「できない。ただ、君の信頼している八雲には少し共感できる。」


「なぜお前が…」

「似ているからさ。直接会ったとき、心の奥に通じるものを感じた。」

「でたらめを言うな!」

「本当だ。」


彼の目にはこれまでと違い、得たいの知れなさを感じない。一人の人間として語りかけてくる。


「八雲の計画とやらはもう達成されているのではないか?」


「今の君を見ているとそう思うよ。そして、計画を八雲しか知らないのも納得できる。」

「どういうことだ?」

「それを言ったら八雲の意志は無駄になってしまうだろうけど、それでもいいのかい?」


なぜなのか、もう目の前の男に敵意が無くなっていた。認めたくはないが、彼の言葉に心が揺さぶられていた。


近くで見ると、まだ少し幼さが残るその顔が、どこか八雲と重なった。顔つきは全然違い、他を圧倒するような圧力も感じられないが、目の奥が同じだ。

目の奥という表現は適当だが、確かにどこか似ているところがある。


力の奔流が収まっていった。今やただの公園に戻る。


「争う理由はないみたいだね。」

「僕はどうしたらいいんだろうか?」

「さあ。悪いけど君の仲間たちをもとに戻すことはできない。」


それは仕方ない。僕たちが及ばなかっただけだ。みんな覚悟はできていた。


「もう行くとするよ。君はこれからどうするつもりだい?」

「まずは蓮藤君たちと合流する。そのあと八雲と会って、本当の目的を聞いてみるよ。」


聞き終えると同時に背中を向け、歩いて行った。この公園に来たときと同じ、ゆっくりとした足取りだ。

その後ろ姿に向かって声をかけた。


「最後に一つ聞いていいか?」

「なんだい?」


「能力が目覚める前からお前はそういう性格なのか?」

少しの間のあと、振り向いて言った。

「違いますよ。僕の好きな小説のキャラを真似ているだけです。こっちの方がただ者じゃない感が出るだろう?」


フードをめくり、ニヤリと笑って見せた。

その顔がどうも今までの印象とマッチせず、思わず吹き出してしまった。


「さようなら。白き髪の狩人よ。」


何かの決め台詞だろうか?

姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。


さて、蓮藤君に会いに行くか。

大丈夫だとは思うが、何が起こるかは分からない。非常事態が起きていないことを強く願った。


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