第43話
「どうした?動かないのか?いや、動けないのだろう?」
黒フードの男は黙ったままその場で動かないでいる。その顔をフードに覆われ、表情までは分からない。
その周りでは異常現象が起きており、動けばそのえじきとなる。
本来なら奴にとって大したことではない。が、この状況に限っては
「お前の能力は発動しない。いや、そもそもその能力はお前のものではないはずだ。」
「アンラッカー、そう呼ばれる能力は言葉の通り、不運を引き起こす能力。だが、不運の定義は世界による。お前はただのトリガーだ。強いて言うなら、お前の能力はもともと世界にあるが目に見えない、認知できない何かに干渉できる、というものだ。」
「ご名答。さすがに頭が回る。僕の能力のことはお見通しってことか。」
フードの下から目が一瞬見えた。全く動揺していないが、同時に余裕も感じられない。
推測が当たっていることは間違い無さそうだ。
この異質な存在は必ずここで始末する。
他の者の能力に巻き込まれない程度に近寄った。そして、奴の周りの空間に狙いを定め、
{空間固定}《エア・ロック》を発動した。
この能力は射程がそこまで長くない分、完全であった。一度固定してしまえば、絶対に崩されない。解除は僕しかできない。
敵を拘束するのにおいて、この能力より優れたものはないと自負している。
「正真正銘、動けなくなってしまったようだね。もう逃げられない。」
「どうかな?不運にも取り逃がしてしまうかもよ。」
「それはない。できるならとっくにしてるはずだ。」
「………」
「今までお前はその特別な能力で世界からしたら異質な存在だった。お前に攻撃した者には不運が働き、攻撃は当たらず、逆に何らかの形で反撃をくらう。」
「………」
「悪者に攻撃が当たらないのは不運なことだ。」
「…僕が悪者だったと?」
「簡単に言うとね。あくまで世界からしたらだが。」
「そうなのかもね。」
「では今はどうか?話があると騙され、こうして僕たちに囲まれているお前は、果たして悪者だろうか?」
「さあね。君の言う、世界に聞いてみたら?」
「聞くまでもない。僕らがただの人だったら取るに足らないだろうが、僕らは全員能力持ちだ。これだけの能力が一ヶ所で同時に発動している。そして対象はただ一人、お前だけだ。」
「……それで?」
「能力を発動してみろよ。そうすれば分かる。世界はどちらを悪者と捉えるか。不運なことに僕らの攻撃は全て外れ、返り討ちにあってしまうのか。それとも、お前は不運なことにここで死んでしまうのか。」
「面白い。」
公園の時計を見ると、もうすぐ深夜0時になろうとしていた。
蓮藤君の方はもう終わっただろうか?彼のことだからさっさと片付けて僕の帰りをアジトで待っているかもしれない。
こっちはもうすぐ終わりそうだよ。もちろん任務も達成するさ。
「時計を見てくれ。もうすぐ12時になろうとしている。時計が12時を示した瞬間を決着の時としよう。一歩も動くことはできないだろうが、最後の時を過ごしてくれ。」
「そちらもね。最後にならないかもしれないが、ゆっくりしてくれ。」
なんだあの余裕は?
本当はこちらに見落としがないか確認するために時間を取ったのであった。再度、奴の能力について思考を巡らす。
奴の能力は徹底的に調べあげた。この解釈で間違いないはずだ。奴はあくまでも’それ’を引き起こすだけ。’それ’はもとから世界に存在する。奴が自由に操れるものではないはずである。
だが、何か引っ掛かる。何を見落としている?
カチッ カチッ カチッ
時計の音がやたら大きく聞こえる。その音により現実に引き戻された。奴の姿を見てみる。
顔はほとんど隠れていて見えないが、唯一口だけが見える。唇を噛んだり食い縛ったりする行動はまったく見られない。あくまでも自然体、動揺の欠片もない。
カチッ カチッ カチッ
「エディさん。もうすぐ時間です。」
「分かってる。全員意識を集中しろ。公園外に被害が及ばない範囲で全力を出せ。」
カチッ カチッ カチッ
「エディって言うんだね。いい名前だ。」
「随分と余裕だな?状況はわかっているのか?」
「ああ。」
ふざけている様子もないし真面目でもない。
心理状態が読めない相手は八雲以外に初めて出会う。大抵の場合、相手の考えていることはその仕草から受けとることができるが、やつ相手には通用しない。
カチッ カチッ カチッ
少し後ろに下がった。エア・ロックは一度かければ十分だ。
攻撃に参加する必要はないため、距離をおいて様子を見守るだけだ。
カチッ 3
空気が張りつめる。手を頭上に掲げる者、反対に地に両手をつく者、ポケットに手をいれたまま目を見開く者、笛を口にくわえ息を大きく吸っているもの、……
それぞれ能力の発動に適した姿勢をとる。
カチッ 2
風がさらに強くなり、土埃が渦を巻きながら公園内を走り回る。
カチッ 1
一瞬全ての音が消える。
かちっ
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