第40話

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轟音とともに地面が激しく揺れた。

「おいおい。とんでもねぇな。今のが例の奴の仕業か?西島。」

「恐らくな。地面をぶっ叩いたんだろうよ。」

「開戦の合図ってか。」


隣の男は今にも飛び出して行きそうな体勢をしている。

「勝手に動くなよ。俺たちだけならいいが、後ろに素人たちもいるんだ。」

「分かってるよ。俺らの役目は相手のペースを乱すこと。後は他の連中が片付けてくれるんだろ?」


双眼鏡で音がした方を見るが、土埃が立っていて何も分からない。


「めんどくせぇな。相手全員能力持ちなんだろ?先手を打たれると終る。」

「敵の大将さえ討てば恐らく勝ちのはずだ。極力、それ以外とは交戦しないようにした方がいい。」


スモークを投げ、こちらも煙に紛れた。

後衛には最新の重火器を持たしている。機動力は無いが、素人でも十分威力を発揮できる。

アガサちゃんには敵は殺さないと言ったが、実際はそんな余裕はない。殺すつもりでいかなければこちらがやられてしまう。


「その大将ってのは怪力男のことだろ?通常の銃では通用しないだろうな。後衛の奴らにやらせるか?」

「いや、俺たちで討つ。手りゅう弾でもダイナマイトでも、とにかく攻撃し続ける。能力というものは完全ではないらしい。いずれボロが出るはず。」

「なるほどな。」


前方に人影を発見した。

何の合図もなく、2人とも別方向に駆け出した。

木々が揺れ、ねじ曲がり、2人に襲いかかってきた。

相手の姿を遮るように木々が被さってきて、まともに狙うことができない。

が、銃声一発、

パアン!


木々の動きが止まった。

敵はゆっくりと地に伏していく。


「さすがだな、浜崎。銃の腕はお前に勝てる気がしない。」


自慢げにこっちを見てきた。

彼の視力は日本人では考えられないくらい良い。スコープを覗かずに敵の心臓を撃つくらい造作もなかった。

木々がうねる中、僅かな隙間を逃さず、一発で敵を絶命させてしまう。

味方ながら恐ろしく思える。


「やはり向こうは戦闘に関してはてんで素人でやがる。そんなに警戒する必要はないのかもな。」


この油断が彼の弱点であったが、俺がいればそこはそれほど問題でもない。


「もう一匹、倒れた奴の右斜め後ろに隠れている。」

「へいよ。」


奇襲するのをあきらめ、こちらに突っ込んできた。

再び浜崎が撃つ。見事に敵の眉間に命中するが、倒れない。血を流しながら平然と向かってくる。


「チッ 今度は何の能力だ?!」

浜崎が銃を連射する。ほとんどが命中するが、敵は止まらない。

確かに致命傷は何度も負わせているはずだ。


「少し下がれ!浜崎!」

手りゅう弾を投げた。敵の足元に落下したそれはすぐさま弾け、爆風が敵を包んだ。


次の瞬間、


ドゴォォォォォォォン!!!


「な?!お前一体どんな爆弾投げたんだ?」

「違う。これは俺が投げた奴の威力じゃねぇぞ!」


パラパラと木々の破片が舞う。

その中央に真っ黒の人の形をしたものが倒れている。


「恐らく、腹にダイナマイトでも巻いていたんだろう。」

「俺らと心中でもするつもりだったか?」

「近づくな、浜崎。」


安全ピンをつけままの手りゅう弾を投げてみた。

すると、倒れていた黒焦げが即座に起きあがり、逃げ出していった。


浜崎が敵の足を撃った。

さっきとは違い、撃たれたことでよろけた。


そして糸が切れた人形のように動きを止めたる。

「やったのか?」

今度は無造作に近づいたりはしなかった。


「おそらく、能力の限界が来たのかもしれんな。もうあれから生命力を感じない。」

「いつからお前はそんなもん感じるようになったんだよ。まあ、俺もそんな気がするが。」


銃を構えたまま浜崎が近づいていく。その後を少し距離をおいてついていった。


「なんだこれ?人間じゃねぇのかよ。」


さっきまで地面に倒れていたそれは、粉々になって原型を留めていなかった。


「人形に生命力を与える能力だったのかもしれん。道理で爆破も銃も恐れていなかった訳だ。」


浜崎が舌打ちをした。

「本体は別にいるのか。めんどくせぇ能力だ。」


能力を未知のものとして考えてきたが、だんだん掴めてきた。日常に紛れ込んでいたらとてつもなく厄介だが、こうして戦闘態勢を整えてしまえば、対処できる程度のものだ。


「お?今聞こえたか?後衛があれをぶっぱなしたみたいだな。」

「例の最新の重火器か。」

「当たればひとたまりもねぇ。」


心配は無用のようだ。彼らもそれなりに経験をつんでいる。後は俺らが敵の大将を討てば…


ズゥゥゥゥン!!

大木が倒れてきた。


「お前らが隊長ってとこか。」

倒れた大木を手で掴み、振り上げた。

「少しはやれそうだな。」


一閃。

咄嗟に上へ跳んだ。足すれすれを大木が過ぎていった。周りの木々を薙ぎ倒していく。


「化け物だな!」

俺と同じく、間一髪でそれをよけた浜崎は着地と同時に銃を連射した。


「当たるかよ。」

目にも止まらぬ速さで辺りを駆け回った。


だが、浜崎の腕はそれを凌駕する。

敵の足が止まった。

額からは一滴、血が流れている。


「やるな。」


いける。

集中砲火を浴びせた。


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なんて銃さばきだ。かなり本気で動いた俺に弾を命中させやがった。


バババババババ!!!

止まった隙に一斉に撃ってきた。


出し惜しみしてる余裕はない。

能力を全開にした。体中に力が巡るのを感じる。


銃声が止む。

全開の俺に銃弾は通らない。

無傷の俺を見て、奴らは目を見開いた。


「今度は手加減しない。よく眼を凝らしておけ。」


爪先、ふくらはぎ、太ももにかけて力をこめた。筋肉がかつてないほど隆起する。血管がそれを縛り上げるように走っている。


ふっ!

力を一気に解放した。


閃光の如く、奴らの間を通り過ぎる。

あまりの速さに自分でも目が追い付かない。

方向を変えるため一瞬スピードを落とす。


パアン!

当たらない。

もはや弾丸などそこまで速くない。目で追うこともできる。


だが、速すぎるのは少々予想外だ。敵との距離を詰めたくても通り過ぎてしまう。足は地面に食い込み、バランスを取りずらくてしょうがない。


「さっきより動きが単調になったな。」


銃の腕はもう片方より劣るが、状況分析力はあのおっさんが上らしい。

時折目で合図を出している。


これは思ったよりてこずりそうだな。


手頃な木を抜きとり、奴らに向かって投てきした。

この力に慣れるまで遠距離から削っていくか。


次々と手に取れるものを持ち上げ、奴らに向かって投げた。やはり制御しずらく、ほとんどがあられもない方向へ飛んでいく。


奴らの動きはバラバラのようで統制がとれている。こちらの動きに合わせ、常に2人同時に攻撃できない位置にいる。


「どうした?逃げてばかりじゃ俺を倒すことなどできないぞ!」


挑発をしてみるが、奴らの動きに変化はない。代わりに挑発してきた。


「さっきみたいに突っ込んでこいよ!もしかして制御できていないのか?」


望み通りやってやるよ。ようやく感覚が掴めてきたところだ。足に力を込め、地面を蹴った。

地面が沈みこみ、土埃が激しく舞った。



見えた!

高速で視界が過ぎ行く中、敵の姿を鮮明に捉えた。

手を伸ばし腕を鷲掴みにした。

その勢いのまま上半身をひねり、思い切り投げ飛ばした。


「ごふっ!」

「どうだ?自慢の銃を撃つ暇もなかったか?」

口から血を流し、がらがら声で言った。

「こんなそんな役をやることになるとはな。」

男の腰にはダイナマイトが巻かれていた。

何のためらいもなく点火する。


うっ

ドゴォォォォォォォン!!!


全身にとてつもない衝撃が走った。目は焼けるように痛み、鼓膜は破裂し、喉はこれ以上ないくらい水分が消え失せ、からからになっている。声を出すことはおろか、息を吸うのもままならない。


何も見えない…

何も聞こえない…


男は初めて恐怖を感じた。


















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