第38話
轟音が鳴り響いた。
「始まったみたいだね。アガサ、予定通り僕らは外を監視しよう。」
「そうね。えと、何て呼べばいいの?」
「コードネームのケルベロでいいよ。」
銃声が鳴った。
いよいよ交戦し始めたようだ。森一体が白っぽい幕に包まれている。
おそらくあの能力だ。
「一応入れないか確認しよう。」
そう言うと駆け出して行った。意外に速く、凹凸の激しい道をすらすら進んでいく。
置いていかれないように急いでついていく。
「ほう、これが能力というものか。不思議な感じだ。」
森に入る直前、透明な壁に阻まれる。ケルベロはそれを手で突っついたり、押したりしている。
細い腕を振り上げ、拳を打ちつけた。衝撃が吸収されているようで、まったく音も鳴らなかった。
「そんな事しても、破壊できないわよ。」
「分かっているよ。僕の華奢な体で壊せるとは思ってないよ。アガサのたくましい腕なら分からないけどね。」
「一言余計よ。」
自分の腕を触ってみると、思っていたより弾力が少ない。力を入れると、小さいこぶができた。
知らない間に筋肉がついたようだ。力が強くなったと思えば少し嬉しい気もするが、やはり女子としては素直に喜べない。
「なにボーッとしてるの?早くこの能力の使用者を探しに行くよ。」
「分かっているわ。」
いけない。ここでイライラしては任務に支障が出る。私の役目はこの結界を解除し、相手のペースを崩すこと。そして、万が一の時に外部に知らせること。
Questers自体、違法ではあるが、敵に比べればかわいいものだ。警察の部隊が来ても、大人しくしていれば味方をしてくれるはずだ。
まあ、西島さんたちが勝てば問題ないのだけれど。
「この壁に沿って移動しよう。敵もおそらく戦闘の様子が見える位置にいるはずだ。」
「なるべく目立たないようにした方がいいわね。」
こちらの武装は頼りない。機動力や武器の扱いに馴れていないことを考慮し、必要最低限の物しか持ってきていない。
手りゅう弾がポケットに入っているが、勝手に爆発しないかと、気が気でない。
時折出しては、安全ピンを確認している。
「この麻酔銃の射程に入ったら即、射つからね。援護頼むよ。」
「え、ええ。一応、射つときは言ってね。」
「変に弱気じゃないか。やっぱ女子には荷が重いか。」
「う、うるさい。私を嘗めないで。」
再びイライラしてきた。この男は度々私の事をいじってくる。
緊張をほぐそうとでも思っているのかしら。余計なお世話よ。
パアン!
足もとの地面がえぐれる。
「っつ!下がれアガサ!」
茂みの後ろに飛び込んだ。
「先に気づかれたか。とりあえず今は身を隠そう。」
姿勢を低くしたまま、さらに後ろに下がり、呼吸を整えた。
「相手はあまり射撃の腕が良くないようね。」
「そのようで助かったよ。さっきの一発でどちらか死んでもおかしくなかった。」
「おそらく森を囲んだ能力持ち、私が言ったあの少年よ。」
「彼一人なら麻酔銃でどうにかなりそうだが、他に隠れているかもしれない。」
腰のポーチから双眼鏡を出した。ここから見える範囲で辺りを確認した。
特に人が隠れている場所は無さそうだ。
「一か八か、突撃してみる?案外悪くないかもよ。」
「それ私もするの?」
「もちろん。二人いればどちらかがやられても、もう片方が射つ隙は十分あるはずだ。」
「…そうね。他に潜んでいる者がいないことを願うわ。」
さっきの茂みの後ろまで慎重に移動した。
ゆっくりと二手に分かれ、突撃のタイミングをはかる。
大丈夫。相手はこの前までただの高校生、それもいじめられっ子だった。さっきの通り、銃の腕だって良くない。私たちが先に当てることは簡単なはず。
ケルベロが目で合図してくる。
こちらも準備okと目で返した。
「3、2、1…」
全力で地面を蹴った。地面がぬかるんでいる部分があり、滑りそうになるが、踏ん張った。なるべく狙いが定まらないよう、斜めに距離を詰めていく。麻酔銃の射程まであと少しだ。
パアン!パアン!
当たらない。動揺しているのか、一発目よりも狙いが大きくずれていた。
よし、もう届く。走りながら麻酔銃を構え、狙いを定めた。
「屈め!アガサ!」
突如、右腕に激痛が走った。
右を向くと、銃を構えた者が複数いる。
しまった!やはりまだいたのか。
咄嗟に身を屈め、なるべく小さくなった。
ケルベロはそのまま走っていった。上手く遮蔽物の間を通って行く。
ポケットの手りゅう弾を手に取った。安全ピンを抜き、いつでも投げれるようにした。
「動くな。」
既に背後まで迫られていた。背中に銃を押し当てられている。
「これ、あげるわ。」
手りゅう弾を敵の後ろ側に転がした。
すぐさま前に跳ぶ。
ドオオオン!!
爆風で少し飛ばされたが、特に支障はない。
起き上がり、ケルベロの後を追おうとするが、
「2度目だ。動くな。」
服が焼けてぼろぼろ担っているが、血が一滴も出ていない。
相手が能力持ち軍団であることを忘れていた。
「お前らに勝ち目はない。大人しく捕まっとけ。」
「殺しはしないって言うの?」
「ああ。殺すことはないと言われている。」
なるほど。余裕ということね。
「抵抗したらどうするの?」
「めんどくさかったら殺す。諦めろ。体の自由は奪うが、その手の傷位は手当てしてやるよ。」
「油断大敵よ。」
アガサが不敵に微笑んだ。
「何を言って…うっ」
男が崩れ落ちた。
膝に風穴が空いている。
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