第37話


「作戦は理解できたかな?」

「はい、一応は。しかし、本当にそれでアンラッカーを破れるでしょうか?」


「いけるさ。僕の勘に狂いはない。」

「勘、ですか…」


きれいね。整えられた白い髪に透き通るような青い瞳、思わず見とれてしまう。

長年彼の下で動いているが、未だに見飽きることがない。


「いざとなったら便りにしてるよ。君の能力で…、聞いてる?」

「はい。聞いてますよ」


今日はいつにも増して生き生きとしている。

リーダーである八雲さんに何かを頼まれたとき、やたら気合いが入るのは前から同じだ。


彼の八雲さんに対する信頼は誰よりも強い。

少し嫉妬してしまうほどだ。


「すごくやる気なんですね。」

「まあね。これが終われば、いよいよクライマックスだ、と八雲が言っていた。」


妙なのは、計画について彼はまったく知らないということだ。私はともかく、組織のNo.2まで計画を把握していないのはいいのだろうか。

彼自身それをどう思っているのだろう?


「どうかしたの?」

「エディさんはどうして、そこまで八雲さんを信頼しているんですか?」


考え込むような素振りを見せた。

「よく考えると信頼とは少し違う気がするんだよなぁ。」

「はあ。」

「よくわからないけど、八雲についていけば思う存分できるから、かな?」

「それはどういう意味で?」


「八雲に出会う前まで、僕は能力のことをあまり良く思ってなかったんだ。」

「なぜですか?」


手のひらを見つめながら言った。

「もしさ、人が自分には無いものを持っていたらどう思う?」

「まあ、羨ましいとか、嫉妬したりとかですかね?」

「僕はそれが本当に嫌なんだ。」

「嫉妬されるのは嫌ですけど、羨ましいと思われるのは、嫌味っぽくなければ良くないですか?」


「逆だよ。嫉妬はまだいい。羨ましいと思われるのがどうしても嫌なんだ。」


ゆっくりと手を握ったり開いたりしている。


「どうしてですか?」

「そればっかりはわからないよ。」


ははっ、と笑ったが、なぜかとても悲しく見えた。


どう言葉を返していいか分からず、彼の顔色をうかがっていると、急に真剣なものになった。


「来た。」

一言呟くと立ちあがり、歩いて行く。

その後ろ姿には先ほど感じた悲しさはもう残っていない。


やがて暗闇からフードを被った男が姿を表した。


立ち止まり、口を開いた。

「今日は何の用だい?」


男の声なのは確かだが、聞きようによっては女の声ともとれる、中性的な声だ。


「わざわざ会ってもらって申し訳ないね。」

「会いに来てくれたのはそっちだ。この公園は僕のお気に入りの場所でね。お客さんが来た気分だよ。」


少しの間、互いに見つめ会ったまま動かない。心の内を探りあっている、あるいは達人が向かい合ったまま攻撃に出ない、そんな場面を連想させる。


「実はさぁ、今日は僕一人じゃないんだ。」


合図通り、黒フードを囲む形で姿を表す。

あっという間に公園はガスマスクを着けた者たちによって埋まる。

今まで能力によってここに存在して、ここではない、別の空間に身を潜めていたのであった。


たちまちガスが公園に放たれる。

「今からはこれをつけて話させてもらうよ。」ガスマスクを顔に装着した。


「どういうつもりで?」

「見ての通りさ。お前を今ここで排除する。」

「できると?」

「それはやってみてからのお楽しみ。全員、能力を発動しろ!」


電灯がバチバチと音をたて、明るさが何倍にもはねあがる。

砂利が浮き、ブランコが狂ったように揺れ、地面が傾き、気温が急激に下がり、…………


この公園だけ、超異常気象になっている。

その中央にやつがいる。

「これだけの能力持ちが一斉にお前を攻撃しようとしている。」


「それが狙いか。」

その声には少し焦りが含まれている気がした。


「この状況、アンラッカーはどちらを選ぶのかな?」

その声には、勝利を確信した者の余裕が表れていた。




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