第33話
大型トラックが整備されていない道をゆっくり走ってきた。
「お届け物でーす。」
呑気な声が届いてきた。
荷台が開かれると、布がかかった箱がいくつも運び出された。
中を見ると、銃が入っている。
あまり詳しくないので分からないが、見るだけでその性能の良さが伝わってきた。
その一つを手に取ってみると、予想よりずっと重たかった。
こんなのを持って走り回るのか。
自分の思う構え方をしたり、両手に持ってみたりした。
「はっは。アガサちゃんはその銃がお好みかい?」
「ち、違うわよ。試しに持ってみただけ。」
「安心しなよ。弾丸は実際のものは使わない。」
「え、そうなの?」
「あくまで戦闘不能にすればいいんだ。あまり殺傷力があるものは使わないよ。」
手から力が抜けるような気がした。
「先に言ってよ。変に緊張してたじゃない。」
「言わないほうがよかったかな。はっはっは。」
時間が予定より早まったのに、西島さんは全く焦っていない。相変わらず私のことを笑ってくる。
「やあ。君たち。」
声がしたほうを向くと、この場に似合わずパジャマを着た青年が立っていた。
その後ろにぞろぞろQuestersメンバーが続いている。
「あなたも来るの?!」
「ああ、もとはと言えば僕が依頼を受けたところから始まったわけだし。」
手足が細く、女の私でも力で勝てそうな体をしている。
大丈夫だろうか。彼がもしやられるようなことがあれば、こちらの結束はすぐに崩れるだろう。まとめ役がいなくなれば、Questersはただの、お互いよく知らない人たちの集まりになってしまう。
「そう心配そうに見ないでよ。僕は前線には出ないから。」
そう言うと、地面に積まれている武器を物色し始めた。
そんな彼を無視するように、西島さんが声を張り上げた。
「よし!早速武器の使い方を教える。」
「俺はいいよな?西島?」
西島さん以外にもう1人、筋骨隆々な男がいた。
「おお浜崎。久しぶりだな。腕は鈍ってないか。」
「たわけ。あの時俺の補助がなけりゃ、死んでいたくせに。」
「はっは。それを言ったら、その前の内戦のときは…………」
過去に何度も共闘しているのだろう。言葉遣いは荒いが、お互い理解しあっているようだ。
「ここで一つ提案なんだけど。」
よれよれのパジャマをただしながら、指を立てている。
「アガサは僕と別行動にしてくれないか?」
彼の思いつくことはだいたいいい方向へ働く。みんな口を閉じて聞いている。
「この森一帯をすべて囲んでしまうような能力があったら、中からどうにかするのは厳しいと思わない?誰か頭が切れる人が少し離れたところで待機していたほうがいいと思うよ。」
確かに。前あの学校で体感した能力がそれに当てはまる。無茶苦茶な男によってその時は建物ごと破壊されていたが、次また閉じ込められたら出れるとは限らない。
「私も賛成するわ。」
「決まりだね。」
「アガサちゃんに手だすんじゃねぇぞ。」
「まさか。」
2人して笑っている。
なんかむかついたが我慢することにした。
改めて他の人たちを見渡すと、知らない顔が何人かいた。代わりにいるはずの人がいなかったりした。
「メンバーは変更したの?」
「まあね。どうしても戦闘には向いてないって人とか、ケガを負っている人はそれぞれ別の人に変わってもらっているんだよ。おかげで、武闘派ばかりになったね。」
人数もかなり増えていた。
「っていうか、だったら私も辞退できたってことですか?」
「それはできない。したとしても僕が指名するからね。」
「なんでよ?」
だんだんイライラしてきて口調がとげとげしくなる。
「そういうところだよ。」
背中を向け歩いて行ってしまった。
「またのご利用をお待ちしておりまーす。」
トラックの運転席から陽気に顔を出している。
よく考えたら、武器の配送なんて引き受ける業者がいることに驚きだ。
物騒な仕事をしている割に、運転者は妙に明るい顔をしている。まるで疲れなど知らないかのようだ。
来た時と同じく、整備されていない道をゆっくりと走って行った。
トラックのエンジン音が遠ざかっていくのをぼんやりと聞いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます