第31話

「俺のことは西島と呼んでくれ。アガサちゃん。」

「分かりました。ちゃんは余計です。」

「そうはいかない。かわいい女の子を呼び捨てにはできないさ。」

「別に本名じゃありませんから。呼び捨てで結構です。」

「それでもだよ。」


はっはっは、と西島さんが笑う。

鍛えているのか、服の上からでも筋肉の隆起が分かる。

とっくに全盛期を過ぎているだろうが、体は衰えていないように見える。


「なにか格闘技でもやっているんですか?」

「うーん、ちょっとやっていたよ。まあ、かじる程度だがね。」

「じゃスポーツとかは?」

「スポーツと言えばスポーツかな。銃でバンバンって。」

「はあ?射的ですか?」

「はっはっは。平和でいいね。俺は傭兵で食ってきたんだ。」

「傭兵?」

「今だ戦争が続く国に行っては、ドンパチやっていた。この通り、必然と体も鍛えられてくるのさ。」

腕をまくって力こぶを作って見せてきた。


「そんな人が日本にいたのね。」

「意外といるものだよ。こういうことを仕事にしている者は特にね。」

「Questersのことですか?」

「ああ。この依頼のメンバーの中にも最低1人はいる。」


他のメンバーの素性は全く知らなかったため驚いた。

「でも日本ではその経験は生かせないと思いますけど。」

「やりようによるさ。というか、今回もやるつもりだ。」


「え?」

「知り合いにサバイバルゲームの会社を持つ人がいてね。森一帯をその会場として所有しているんだ。そこなら銃を使ってもばれはしない。」


「まさか、奴らをそこに誘い込んで射殺するっていうの?」

朗らかに見えるこのおっさんの考えることとは思えない。傭兵ってだけでも意外なのに。


「言いようによるだろう?勝負をするんだ。森一帯をフィールドとした。」

「そんな簡単にいくの?」

「奴らはおそらく自分の力に自信がある。分かりやすい形で勝負がつくのならの乗ってくるはずだ。」

西島さんの目がメラメラ燃えている。


「私は戦闘なんてできないけど。」

「参謀ならできるだろう。俺は頭はそんな良くなくてね。作戦なんて考えたことない。はっはっは。」


なんでこの人はこれまで戦場で生き残れてこれたのか?腕が立つだけでここまで生きてきたのであれば、相当強いはずだ。


「相手には馬鹿みたいに力が強いやつもいるのよ。それを相手にして勝つ自信はあるの?」

「もちろんだ。武器が充実していれば、少なくとも相打ちには持っていける。」


西島さんの案は案外悪くないかも知れない。

未知の敵と戦うなら、その場ぐらいははっきり把握しておきたい。

街中でいきなり出会ってしまえば、対処するすべがない。


問題はこの挑発に乗るかということであったが、西島さんは乗ると確信している。


「気楽に行きましょうや。アガサちゃんはまだ若い。何とかなるものさ。」

緊張をほぐすために言ったのではなく、本気でそう思っているようだ。


「戦うとすればやはり相手はリーダー格だ。ここでつぶしてしまえば、残りは他のメンバーがどうにかしてくれる。」

「私たちが一番大事な役目を負うの?もっと優秀な人に任せておいたほうがいいと思うけど。」


顎鬚をなでながら、にやりと言った。

「この老いぼれが最優秀だよ。」

「……………そうなの?」


端末を見せてもらうと、実績のページが星で埋まっていた。星はこれまで達成してきた依頼の数を表している。


つくづく意外ね。

私の茫然とした顔を見て、はっはっはと笑った。

「アガサちゃんと組むのも何かの縁だ。仲良くやろうぜ。」


なれなれしくしてくるのは少しうざったいが、それが自信からくる余裕なのだと思うと、少し安心感が湧いてきた。




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