第25話

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うっ

ここは………?


体が揺れる……。

頭が次第にはっきりしてきた。


ブルルルルルルル

ポケットからものすごい振動が体全体に伝わってくる。

ポケットの手を突っ込み、その正体を出した。


熱っ。発熱しながらあり得ないくらい振動しているスマホが振動の正体であった。

なにこれ…?

画面に文字が表示されている。


Questers アガサへ


万が一に備えて、端末との通信が急に途絶えたときの緊急装置を組み込んでおいたよ。君が今、スマホがあり得ないくらい振動している、と思っているということは、うまく作動したらしい。ピンチを救えたのであれば幸いだ。


                        kerubero


スマホをタップすると振動が収まった。

いつの間にこんな細工を…。どこまで先を考えているのか。周りの人間が数段先を行っていて、自分だけ置いて行かれているような気がして腹が立った。

悔しいがこれのおかげで意識を取り戻すことができたのだから、感謝しなければいけない。

スマホの充電は10%を切っていたので、必要な時のために電源を切っておく。


立ち上がったとたん、立ち眩みに襲われた。

うう。頭が痛い。あの異常な少年がこれを引き起こしたのだろうか。彼が最後に言った言葉が鮮明によみがえる。


「ここはもう、迷路の中だ。」


この言葉を最後に私の記憶は飛んでいた。

倒れてから何かされた形跡はない。これが能力と呼ばれるものだとして、おそらく対象は彼をいじめていた2人。それ以外の人間は気絶させられていたとみるべきか。


ここにいてもしょうがないので動くことにした。

慎重に、どんな些細な事も見落とさないように、ゆっくりと廊下を歩いた。

特に廊下には変わったところはない。

教室の中も確認しながら歩いていくと、机に突っ伏している3人の生徒が目に入った。やはり気絶している。シャーペンを握ったまま、ノートに顔を埋めていた。


どうする?

起こして事情を説明するか。いや、説明したところで相手にされないか。そもそも私だってこの状況をよくわかっていない。それに、一般人を巻き込むわけにもいかない。いや、それも違うか。これは一般の、日常に潜んでいる因子なんだ。

ただ行き過ぎた力を手にしてしまったものが、危機となってしまう。

そういう解釈のほうがしっくりくる。

だからこそ、とてつもなく厄介でもある。能力とやらが発現してからでないと、その存在に気付くことすらできない。しかし、それでは常に後手に回ってしまう。さらにこちらには対抗手段がないと言っても過言ではない。

まさに今がその状況であった。



一通りこの階を見て回ったが、何も怪しいところはなかった。

あの少年と不良2人組はどこに行ったのか?この異常事態を引き起こしたのはあの少年で間違いないはずだ。帰ったなんてことはないだろう。

念のため、靴箱を確認しに行こうと階段で下の階へ降りた。


……………


迷路……ね。

降りたそこには、さっきと同じ廊下が走っていた。教室の位置取りも全く変わっていない。


もう1度下の階へ降りてみたが、またもや同じ光景があった。窓の外の景色も変わらない。

学校をまるまる迷路にしてしまったって言うの?

どうしろっていうのよ。出口を探してそこから脱出しろって?


歩き回っているうちに一つのことに気が付いた。生徒が変わっているということだ。

……だから何だという話だが、何か手がかりがあるはずなのだ。



思考に没頭していると、背後から何かを引きずるような音が聞こえた。

とっさに振り向くと、数メートル先に足を引きずりながら歩いてくる人がいた。

様子がおかしい。表情が異常であった。怯えているような怒っているような、泣いているような、歪な顔をしていた。


「止まりなさい!」


声に反応して足を止めた。その顔に見覚えがあった。確か不良の片割れだ。

「あなた、なぜそんなに……」

「ぐぅおおおおおおお!!!」

目が合ったとたん、奇声を発しながら襲い掛かってきた。

足の骨が折れているのか、踏ん張りが効かず、前に倒れ込んだ。


とりあえず逃げるしかない。男が転んだ隙に逆方向へと走った。

しかし、


「が、がが、ぁああああ!」

逃げた先にもう一人がいた。必死の形相で突っ込んできた。


「ま、待って!!落ち着きなさい!」

掴んできた手を振りほどこうとするが、恐ろしいほどの力であった。

掴まれただけで、骨がみしみしと嫌な音を立てた。


後方からもさっきの奴が近づいてきている。完全に挟み撃ちにされていた。




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