第24話

「始まったみたいだよ。筋肉くん、準備はいいかな?」

「その呼び方はやめてくださいよ。俺の名前は…」

「蓮藤くんだっけ。さすがに覚えてるよ。君はこのチームのナンバー3なんだから。」

白い髪に青い眼をした青年が笑いながら言った。

「君の戦闘力は八雲も評価してるよ。」

「それは嬉しいんですけど、もっと特殊な能力の人たちのほうが重要度は高いんじゃないんですかね?」

「特殊…ね。だからこそ、というところもあるんだと思うよ。」

「?どういうことですか?」

「さあね。八雲の考えることは時々理解できないからね。」

「エディさんも同じですよ。」


悲しげに笑った後、

エディは遠い眼をしながらつぶやいた。

「八雲は強いよ。」

「はい?」

「八雲が最強だ。」

「能力がってことですか?」

「はぁ~、蓮藤君はもう少し察するってことができないんかなぁ。」

「にしても限度がありますよ。エディさんの言うことには筋がない。」


はいはい、と肩をすくめた。

「そんなことより、これはどういう能力だと思う?」

彼らはある学校の前にいた。

少し前までは生徒が下校していたが、今では不自然なくらい人がいない。人の出入りがピタリと止まってしまっていた。まだ中に生徒がいるはずなのだが、一向に出てくる気配がしない。


「空間系の能力ですかね?学校に閉じ込める的な。」

「では生徒たちは閉じ込められているのかな?」

「音や電波なんかも完全に遮断して、外と連絡がつかないようにして。」

「それは違うな。」

「え?」


「あの少年がそんな能力を発現させるとは思えない。知っているだろう?能力はある種、その人の願いでもあるんだ。学校でいじめられた人が学校に閉じこもりたいなんて思わない。」

「じゃあ何なんでしょう?」

「そのために君がいる。」

エディはまっすぐな視線を送ってきた。

「分かりましたよ。」


蓮藤は一歩ずつ、地の感触を確かめながら学校に入っていった。

「危なそうだったら僕が駆けつけてあげるねー。」

校門の外から呑気にこっちを見ていた。

「結構です。」



校舎に足を踏み入れると、明らかに空気が変わった。視界がぼんやりとし、地面がぐにゃりとゆがんだ気がした。

能力の質を確かめるため、あえて逆らおうとはしなかった。



視界がはっきりしてきて、地の感触も戻ってきた。

ふと周りを見ると、さっきとは微妙に違っていた。まず入ってきたはずの入口がなかった。そこは階段になっており、上にも下にも行けるようになっていた。ここは1階だったはずだ。


やはり空間系か。面倒だな。

いつでも反応できるように意識を研ぎ澄ませ、階段を上がった。

やけに靴の音が響き、聴覚が妨害されたが問題なかった。目で見てからの反応で十分間に合うからだ。

戦闘能力においては確かに自信があった。学校にいる生徒たちが全員操られ、襲ってきたとしても、余裕で対処できるほどの力が俺にはある。

俺が操られる可能性もあるが、なんとなく大丈夫な気がした。

能力持ちは能力の対象から外れることがよくあるそうだからだ。エディさんが言っていたことだから信用ならないが。自分でも能力にかかる気がしなかった。


今思うと、特殊な能力者たちよりも俺の立場が高いのはそういうことなのか。

いや、何か違う気がする。



上の階に来ると、さっきと同じ廊下があった。窓から見える外の景色もさっきと変わらない。

試しにもう1度階段を上ってみたが、結果は同じであった。


廊下を歩き、教室の中を見てみると、生徒が2人、机に突っ伏していた。

気を失っているのか?


「おい。どうした?」


ピクリともしない。おそらくこれも能力の影響だが、一体なにがしたいのかさっぱり分からなかった。誰を対象としているのか。


他の教室も見て回ったが、生徒はさっきの2人しかいなかった。

手がかりを探すため廊下を歩いていると、一瞬背後から視線を感じた。

彼の鋭い感覚はそれを見逃さなかった。

かかとを軸に瞬時に後方へ跳んだ。バックステップの勢いのまま。体を反転し、駆け出した。気配は階段のほうあった、

はずだった。


「おい!悪いようにはしない!この能力を一旦解け!」


……………


気配は完全になくなっていた。

仕方なく、また階段を上った。

当然次の階も、さっきと同じであった。廊下を歩き何かないかと考えていると、明らかにさっきと違うところがあった。


教室の中には4人の生徒が机に突っ伏していた。生徒もさっきとは違うようだ。



わけがわからねぇ。




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